http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334933394/
本日の一冊は、いま大変よく売れている本です。
著者は、富士通の人事部に所属していた人物らしく、タイトル通り、富士通の成果主義の問題点を内部からえぐった、読み応えのある内容になっています。話の中心となっているのは、アメリカ発である「成果主義」の導入・運用面の問題点、そしてその結果もたらされた、組織的な弊害です。
みなさんご存知のように、富士通は日本の大企業として初めて成果主義による目標管理制度を導入しました。思い切った導入と、その結果もたらされた社員間の給与格差が、新聞や週刊誌でも話題になりました。
ところが、著者によると、近年の富士通の凋落は、この成果主義導入の失敗がもたらしたところが大きいというのです。
本書のなかから、問題点をいくつか抜き出してみましょう。
■品質チェックの部署のように、成果主義の恩恵を受けられない部署のモチベーションが低下した
■たいして会社に貢献してもいないのに、構造上、高い評価をもらえる人間がいる一方、花形部署では評価をめぐり熾烈な争いが展開されていた
■「成果主義」のはずなのに、「チェックするのは、残業時間と年次休暇と勤怠の数字だけ」
■各部の評価をすりあわせる評価委員会は、「各部がそれぞれ何人悪い評価を引き取るか」のババ抜きと化していた
■降格制度がなかったため、「お手軽な目標」をかかげ、全社あげての一大減点レースとなってしまった
■部下の多くが目標未達なのに、「A」評価(富士通のなかでは2番目に高い評価)をもらうマネジャーが続出。管理職の9割がAなのに、会社の業績は赤字だった
まあ、大きい組織ではありそうな話ですが、富士通の場合、結果的に従業員のストレスが増大して自殺者が出たり、請け負った基幹システムのプロジェクトが遅延したまま放置され、賠償問題にまで及んだりと、さまざまな問題が露呈してしまいました。
本書は、組織の問題の重大さを、改めて認識させてくれる、衝撃的な内容であり、反面教師として、ぜひ読んでおきたい内容です。
ただひとつだけ物足りない点があるとしたら、
「『成果主義』というのは、単にシステムだけの問題ではないのに、システムさえ変えればうまくいくと誤解してしまったのである」
と冒頭で述べていたにもかかわらず、結局はシステムや運用、それを動かす組織内部の問題に終始してしまっているところでしょうか。
私の好きな人事関連本の一つに、『雇用の未来』という本があるのですが、この本は、雇用制度・評価制度と外部環境の関係性について、重要な示唆をもたらしてくれます。
成果主義の本場、アメリカ発の書籍である『雇用の未来』と『真実が人を動かす』、そして今回ご紹介する『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』、これらをまとめて読むと、どうも「成果主義」そのものの善悪で、事は片付かない気がします。
というわけで、本日の一冊は、
『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334933394/
です。文字通り「ヒトゴト」ではあるのですが、決して笑える話ではありませんね。
目次
Chapter1 急降下した業績
Chapter2 社員はこうして「やる気」を失った
Chapter3 社内総無責任体制
Chapter4 「成果主義」と企業文化
Chapter5 人事部の暗部
Chapter6 日本型「成果主義」の確立へ
おわりに 「成果主義幻想」を捨てるとき
付録1 日本企業と「成果主義」
付録2 最近の富士通グループの主なリストラ
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