2018年2月9日

『ゆっくり、いそげ』影山知明・著 vol.4951

【全国1位のカフェが目指す「特定多数経済」への道とは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4479794700

先日、お世話になっているカーディーラーさんに、クルマの整備のお願いをしに行ってきました。

ここはアンティークから新車まで、イタリア車を専門に扱うところで、社長以下みなさん好きなクルマに囲まれ、生き生きと働いています。

ひさびさに訪れたら、売約済みのクルマのスペースに、水色のかわいらしい、アンティークのアバルトがありました。

レースカー仕様で、もう恐らくほとんど手に入らないだろう逸品。価格は、元々800万円のものが2200万円にまで釣り上がったようです。

こういうクルマを見ていると、今の大量生産品にはない、人間の手仕事のぬくもりを感じます。おそらく買い手は、そんな今では希少となった手仕事の価値を見出して、これらを高く買っているのではないでしょうか。

社長に聞いたら、今のクルマ市場はアート化しているらしく、『アートは資本主義の行方を予言する』の山本豊津さんがおっしゃっていたように、「使用価値」から「交換価値」へのシフトが起こっているようです。

※参考:『アートは資本主義の行方を予言する』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569826172/

今の世の中で、人々が感じている「価値」とは何か。

それを知るべく、手に取ったのが、本日ご紹介する『ゆっくり、いそげ』です。

著者は、マッキンゼー、ベンチャーキャピタルを経て、西国分寺の生家の地に多世代型シェアハウスを建設、その1階に「クルミドコーヒー」をオープンさせ、全国1位の人気店にした人物(食べログ「カフェ部門」2013年)。

経済、ビジネスを知り尽くしたはずの著者が今、創出する「価値」とは一体何か。クルミドコーヒー人気の理由は?

さっそく、ポイントを見て行きましょう。

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──フェスティナ・レンテ。
「急がばまわれ」と言ってもいい。目的地への到達を急ぐのであればあるほど、むしろ目の前のこと、足元のことを一つ一つ丁寧に進めた方がいい。もしくは一つ一つ丁寧に進めていけば、存外早く目的地に到達できるものだ

例えば、お店の評判や認知度を上げたいと思うとき。一つの方法は広告宣伝費を大量に使うことだが、実はそれよりも、お店を訪ねてくださるお一人お一人に丁寧に向き合うことを積み重ねていった方が、長い目で見たら近道ということは大いにある

ぼくには逆に思える。守り、育てるべきは、ぼくらの暮らしであり幸福感。そして経済は本来、そのためにあるのではないかと

新しい経済システムとして、「特定多数経済」とでも呼ぶべきものを構想できないかと思うのだ

かつてポイントカードのようなものをやっていたことがあるものの、この後に記すような気付きに至りやめることにした。それはなぜか。それはひと言で言うならば、お店に来てくださる方の「消費者的な人格」を刺激したくないと考えたからだ。それとは、「できるだけ少ないコストで、できるだけ多くのものを手に入れようとする」人格。つまりは「おトクな買い物」を求める人間の性向だ

交換を「等価」にしてしまってはダメなのだ。「不等価」な交換だからこそ、より多くを受け取ったと感じる側(両方がそうと感じる場合もきっとある)が、その負債感を解消すべく次なる「贈る」行為への動機を抱く

今の資本主義というシステムは多元的な価値を扱うことが苦手だ。
「特定のアーティストがCDを出せるようになること」
「被災地の事業者が再建できること」
「純米酒をつくる蔵が守られること」
「日本の森がきちんと手入れされ、未来につなげられること」
これらはそれぞれに「大事だ」という人がいる一方で、「別に大事じゃない」という人もいるような価値だ

「仕事に人をつける」──それを突き詰めていくと人はどんどん「替えのきく」存在になっていく

あらゆる仕事の正体は「時間」であると思う。それも機械が働いた時間ではなく、人が働いた時間(「働かされた時間」ではなく)。そして、仕事に触れた人は、直接的にその仕事に向けて費やされた時間の大きさを感じ取るセンサーを持っているのではないかと思う。そしてその費やされた時間の大きさと、そこから生じる「快」の感覚は一定の相関性を持っているのではないか

「傑作」は一夜にしてならず。それは、「作ることに時間がかかる」ことを意味するというより、その仕事を愛してくれる人々の心を育てることにこそ時間がかかることを意味している

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著者の、ビジネス・経済のとらえ方、丁寧な仕事の意味には、心から共感します。

「合理的な」経営教科書の教えとは真逆の考え方が、顧客から支持され、新しい時代の価値になる。

この価値観の転換は、今、働くすべての人が共有すべきものだと思います。

なかでも重要なポイントは、「特定多数」「個人」「直接」。このトレンドは、もう止められないと思います。

ぜひ、読んでみてください。

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『ゆっくり、いそげ』影山知明・著 大和書房

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◆目次◆

第1章 一キロ三〇〇〇円のクルミの向こうにある暮らしを守る方法
第2章 テイクから入るか、ギブから入るか。それが問題だ
第3章 お金だけでない大事なものを大事にする仕組み
第4章 「交換の原則」を変える
第5章 人を「支援」する組織づくり
第6章 「私」が「私たち」になる
第7章 「時間」は敵か、それとも味方か

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