2016年6月26日

『魂の退社 会社を辞めるということ。』 稲垣えみ子・著 vol.4359

【元朝日新聞のアフロ編集委員、初書き下ろし】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492045945

ニューヨークでこんまりさんのブレイクや無印良品の活況を見て、「モノを得ることで豊かになる時代は終わった」と感じています。

しかしながら、今でも企業は自らのシステムを維持するため、不必要なモノを生み出し、頑張って売り続ける。売れないから社員にさらなる努力とコスト削減を強いる……。

これこそが、働く人が生きがいを失っている理由なのです。

このことは、出版においても同じです。

今でもビジネス書の世界では、「いかに売るか」式の本が大量に生産されており、その多くは売れずに廃棄されているのです。

そろそろ、出版業界も意識を変えないと、それこそ存在意義を失ってしまう……。そんなことを考えていたら、素晴らしい本に出合いました。

本日ご紹介する一冊は、アフロでおなじみの元朝日新聞編集委員・稲垣えみ子さんが、会社を辞めた理由を綴った、初の書き下ろし。

いかに日本社会が会社組織に依存していて、われわれがその神話に染まってがんじがらめになっているか、また会社を辞めることや持たないことがいかに心を軽やかにするか、軽妙な筆致で綴っています。

「おいしい」ことがいかに人を不自由にするか、無理に経済成長を目指す姿勢がいかに仕事をつまらなくするか、その本質が書かれており、働き方や生き方を考える上で勉強になりました。

さっそく、ポイントを見て行きましょう。

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あえて一言で言えば、私はもう「おいしい」ことから逃げ出したくなったのだ

いつでも何でもある現代において、もう「ある」ことを贅沢だと思う人はほとんどいないんじゃないか。むしろ「ない」ことの方がずうっと贅沢だったのだ

これぞ、基軸通貨たるうどんを扱っている人たちの矜持ではなかろうか。商売とは、ただ売って儲ければよいというものではない。ものの値段とは需要と供給によってのみ成り立つものではない。その「モノ」が何であるかによって、許される値段と許されない値段がある。その分を守ることが、長い目で見ればその商売を守ることになるのである

「学生期」「家住期」「定年後」の3段階で人生を捉えるのが普通ではないか。しかし古代インド人は、ここをさらに2つに分けていたというのである。そのポイントになるのが、3つ目の「林住期」だ。「林住」、つまり林に住む。すなわち家出をするのである。仕事も子育ても一段落したら、家庭から離れ、世俗を離れ、何もない林に住む。しかし世俗を離れるんだけれども完全に離れるわけじゃなくて、時々は妻子の顔を見に家に帰ったりする

これからの大きな日本の社会問題は「人口減少」と「空き家の増加」です。これは経済成長を目指す立場から見れば共に足かせでしかありませんが、無職を志す身としてはこれほど強い味方はありません

「あったら便利」はいつの間にか「ないと不便」に変わり、最後は「必需品」になる。しかし、必需品っていったい何だろうか

そして失業保険。保険料を受け取るには「再就職のために職安で就職活動しているという証拠が必要なので注意してください」と言われる。それはいいんだけど、私みたいに「もう就職しない」っていう生き方を選ぶ人間はどうなるのかしら。会社を辞めてフリーになるとか、独立するとか、自営業を始めるっていう人はたくさんいるはずだ。そういう人は失業保険を受け取れないってことなのか。だとすればまさに日本国は会社社会そのものである

経済成長が止まり、モノも売れなくなると、いちばん肝心な「自分の仕事が人の役に立っている」という感覚が失われてくる。そうなれば、社員を動かす動機はカネと人事だけになってくる

弱さを握られると、人は容易にコントロールされやすくなる

会社を辞めた今、いちばんやりたいことは何かと聞かれたら、それは「仕事」なのです

「つながり」がこれからの社会のキーワードだと言う人がいるし、私もそう思うけど、つながるためにはまず一人になることが必要なんだ

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読むと、会社を辞める人や離婚する人が増えそうですが(笑)、生きにくい時代の生き方のヒントとして、ぜひ読んでいただきたいと思いました。

さすが文章のプロだけあって、文章も読みやすい。昨日の夜に読んで、「しばらく読んでいたい」と思わせる文章でした。

これは「当たり」の一冊です。

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『魂の退社 会社を辞めるということ。』稲垣えみ子・著 東洋経済新報社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492045945

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◆目次◆

アフロにしたことと会社を辞めたことは関係ありますか
プロローグ 会社を辞めるということ
その1 それは安易な発言から始まった
その2 「飛ばされる」という財産
その3 「真っ白な灰」になったら卒業
その4 日本ってば「会社社会」だった!
その5 ブラック社員が作るニッポン
その6 そして今
エピローグ 無職とモテについて考察する

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