2020年11月18日

『世界は贈与でできている』近内悠太・著 vol.5641

【山本七平賞受賞の話題作。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4910063056

本日ご紹介する一冊は、先日、第29回山本七平賞、奨励賞を受賞した、近内悠太氏の『世界は贈与でできている』。

今、注目されている若手哲学者のデビュー作ということで、既に話題になっていますが、確かにこれは読み応えのある論考です。

表紙には、<資本主義の「すきま」を埋める倫理学>とありますが、この世界に存在している「贈与」の原理と、それがわれわれ人間の社会にとって意味するものを、ここまで明確にした本はなかったかもしれません。

資本主義の「交換」の原理がなぜ行き詰まっているのか、なぜ現代に生きるわれわれはこうも生きづらいのか、なぜ未来を創るエネルギーが湧いてこないのか、多くの疑問に答えてくれる内容です。

本書を読めば、われわれが先人たちから受け取った「贈与」に気づき、感謝の念が生まれ、未来へと贈与をつなぐ動機が生まれてくる。

読むことで、天職や使命感と出合う人だっているかもしれません。

資本主義に染まりきったわれわれが、新しい社会システムを創るために、いま最も読んでおくべき一冊と言って過言ではないと思います。

さっそく、本文の中から気になった部分を赤ペンチェックして行きましょう。

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プレゼントされた時計も、無くした後に自分で購入した時計も、モノとしては等価なはずなのに、僕らはどうしてもそうは思うことができません。そこには、モノとしての価値、つまり商品としての価値からはみ出す何かがあると無意識に感じるのです。商品価値、市場価値には回収できない「余剰」を帯びると言ってもいいかもしれません。(中略)重要なのは、「その余剰分を自分自身では買うことができない」という点です

「私は受け取ってしまった」という被贈与感、つまり「負い目」に起動されて、贈与は次々と渡されていきます。(中略)無償の愛は必ず「前史」=プレヒストリーを持っています。それは、愛以前の愛、贈与以前の贈与と言うこともできます

どうして「仕事上の知り合い」とは友人関係になりにくいのでしょう? それは、互いを手段として扱うからです

資本主義とは経済システムのことではなく、一つの人間観です。そして、その思想はたしかに「自由」と相性がいい。あらゆるもの、あらゆる行為が商品となるならば、そこに競争を発生させることができ、購入という「選択」が可能になり、選択可能性という「自由」を手にすることができます。ただし、その自由には条件があります。──交換し続けることができるのであれば、という条件が

「自分にできること」と「自分のやりたいこと」が一致しただけでは天職とは言えません。第三の「自分がやらなければならない、と気づくこと」という要素、つまり使命の直覚が発生しなければならない

仕事のやりがいは、その仕事の贈与性によって規定されるのです

過去の中に埋もれた贈与を受け取ることのできた主体だけが、つまり、贈与に気づくことのできた主体だけが再び未来へ向かって贈与を差し出すことができる

その功績が顕彰されない陰の功労者。歌われざる英雄(unsung hero)。アンサング・ヒーロー。それはつまり、評価されることも褒められることもなく、人知れず社会の災厄を取り除く人ということです。この世界には無数のアンサング・ヒーローがいた。僕らはあるときふと、その事実に気づきます。その気づきは、この文明が「丘の上に置かれた不安定なボール」だと気づくのと同時に訪れます。だからアンサング・ヒーローは、想像力を持つ人にしか見えません

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ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』から始まり、マイケル・サンデルの『それをお金で買いますか』、カール・マルクスの『経済学・哲学草稿』、映画「ペイ・フォワード」、トマス・アクィナスの「不動の動者」論、フロイトの精神分析をもとに「唯幻論」を提示した岸田秀の「親からの呪い」論、「鶴の恩返し」、サンタクロース、ウィトゲンシュタインの言語ゲーム、メンデレーエフの発見、シャーロック・ホームズ、カミュ、小松左京までを一本の線でつなぐ見事な考察には、舌を巻きました。

この書評を書いている2020年11月18日現在、新柄コロナウィルスは終息するどころか、ますます拡大し、猛威を奮っているわけですが、これも都市部で発達した資本主義的自由と無関係ではないと思います。

これからの社会のあり方を考える上で、重要な示唆に富んだ一冊です。

ぜひ読んでみてください。

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『世界は贈与でできている』近内悠太・著

<Amazon.co.jpで購入する>
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◆目次◆

第1章 What Money Can’t Buy
    ──「お金で買えないもの」の正体
第2章 ギブ&テイクの限界点
第3章 贈与が「呪い」になるとき
第4章 サンタクロースの正体
第5章 僕らは言語ゲームを生きている
第6章 「常識を疑え」を疑え
第7章 世界と出会い直すための「逸脱的思考」
第8章 アンサング・ヒーローが支える日常
第9章 贈与のメッセンジャー

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