2017年6月22日

『生涯投資家』村上世彰・著 vol.4719

【村上世彰、投資家としての半生を語る】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163906657

本日ご紹介する一冊は、発売日からいきなり話題となっている、「村上ファンド」創設者、村上世彰氏の自伝。

投資に興味を持ち始めた少年時代から、投資家だった父の教え、最初の投資(サッポロビール株)、通産省時代、村上ファンド立ち上げ、そして東京スタイル、ニッポン放送、阪神鉄道への投資まで…。

まさに投資家として闘い続けた著者の記録であり、投資家から見れば、どう投資のチャンスを見極めるか、という参考書。働き手として見れば、どう人を得てチャンスを掴むか、生涯の仕事をどう選ぶか、というヒントでもあります。

著者の投資方法は、<割安に評価されていて、リスク度合いに比して高い利益が見込めるもの、すなわち投資の「期待値」が高いものに投資をすること>。

たとえば、100円を投資する場合の「期待値」の計算方法を、著者はこう説明しています。

・0円になる可能性が20%、200円になる可能性が80%であれば、
 期待値は1.6(0×20%+2×80%=1.6)
・0円になる可能性が50%、200円になる可能性が50%であれば、
 期待値は1.0
・0円になる可能性が80%、200円になる可能性が20%であれば、
 期待値は0.4

この期待値が1.0を超えないと金銭的には投資する意味がない、というのが基本的な考えです。

この計算方法からすると、たとえ0円になる可能性が70%であっても、700円になる可能性が30%あれば、期待値は2.1。

この「期待値」に、IRR(内部収益率)、リスク査定を加味した3点から投資を行うのが、著者の投資スタイルのようです。

そして、著者が攻撃するのが、「株主と向き合わず」「経営者が保身に走り」「株主価値を鑑みない」放漫経営の経営者。

本書には、著者がそんな経営者とどう対峙したか、どう闘い、どう勝ち、どう負けたかの記録が書かれています。

有名財界人との丁々発止のやり取りがこれでもかというほど出てきて、当事者ならではの臨場感を感じます。

じつにワクワクする内容で、これを読まない手はありません。

さっそく、気になる内容をちょっとだけチェックしてみましょう。

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子どもの頃、預金通帳に印字された数字が増えていくのを見るのが好きだった。だからよく父に、「お小遣いちょうだい、ちょうだい」とせがんでいた。使いたいからではなく、貯めるためにお金が欲しかった(中略)百貨店に行くのも大好きだった。おもちゃをねだったり、貯めた小遣いで何か買うためではない。いろいろな商品の値札を見ては、「これは高い、これは安い」と騒いでいた。商品そのものより、商品の価値に興味があったのだ

父の仕事は投資家だった。いつも、「お金はさみしがり屋なんだ。みんなで戯れたいから、どんどん一カ所に集まってくるんだよ」と言っていた

父はいつも「上がり始めたら買え。下がり始めたら売れ。一番安いところで買ったり、一番高いところで売れるものだと思うな」と言っていた

私の投資は徹底したバリュー投資であり、保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資する、という極めてシンプルなものだ

当時の東急ホテルは時価総額が百億円ほどだったが、保有する赤坂の不動産だけで、時価換算にして五百億円くらいの価値があった。東急電鉄という二〇%の大株主がいるせいで株式の流動性も低く、株価は割安のまま放置されていたのだ

日本の上場企業には、自社株も持たずに経営をしている取締役が多すぎる

私が東京スタイルに求めていたのは、余剰資金をどう活用するかについての経営者の明確な説明だ。余剰資金は、より利益を出すための投資に振り向けるか、そうでなければ株主に還元すべきというのが、私の持論だ

極端な例として、時価総額の開きが大きい二〇〇〇年二月を見てみる。フジテレビの時価総額がニ兆六千二百億円であるのに対し、ニッポン放送は二千四百億円ほど。実際には、保有するフジテレビ株の価値だけで九千億円近い資産を持っているにもかかわらず、である

私はこの頃、クレイフィッシュに対する投資と同じ理由で、サイバーエージェントの株を購入し、大株主となった。時価総額が百億円を大きく下回っているにもかかわらず、上場時に調達した資金が現預金+有価証券という形で百八十億円ほど残っていたからだ

「たくさんの手元キャッシュや利益を生み出していない資産をお持ちのようだが、これらを今後の事業にどのように活用していく計画なのか」資金を眠らせて世の中への循環を滞らせることこそ、上場企業がもっともしてはならないことだと思っているから、必ずこの質問をするのだ。しかし明確で納得のできる回答は、ほとんど得られない

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今すぐ読みたくて、夜、書店に走り込んだのは、大王製紙前会長・井川意高氏の『熔ける』以来でしたが、その甲斐がありました。

ノンフィクションとして読んでもよし、投資の参考に読んでもよし。キャリアや生き方のヒントに読んでも、得るところが多いと思います。

著者の与太話を書いて、話題性だけで売れている『多動力』と比べると、100倍価値のある本。

賢明な投資家なら、こちらを選ぶべきでしょう。

ちなみに本書には、著者がホリエモンと一緒に投資している、米国のフィンテック企業の名前も出てきます(ポジショントークではありますが)。

今、イチオシの一冊です。

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『生涯投資家』村上世彰・著 文藝春秋

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163906657/

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http://bit.ly/2rDnKg1

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◆目次◆

はじめに なぜ私は投資家になったか
第1章 何のための上場か
第2章 投資家と経営者とコーポレート・ガバナンス
第3章 東京スタイルでプロキシーファイトに挑む
第4章 ニッポン放送とフジテレビ
第5章 阪神鉄道大再編計画
第6章 IT企業への投資──ベンチャーの経営者たち
第7章 日本の問題点──投資家の視点から
第8章 日本への提言
第9章 失意からの十年

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