2017年6月8日

『宅配がなくなる日』松岡真宏、山手剛人・著 vol.4705


http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532321530

本日ご紹介する一冊は、あの好著『時間資本主義の到来』の著者、松岡真宏さんによる、「宅配問題」解消の秘策。

※参考:『時間資本主義の到来』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/479422088X/

「同時性解消」(他者と時間と空間を共有しなくてはならないという原初的な制約条件(同時性)が取り払われていくこと)というキーワードを軸に、これからの流通と物流、消費を論じており、じつに読み応えある内容でした。

急増するEC、ネット通販を背景に、ヤマト運輸が荷受量の総量規制をしたり、時間帯別配達を大括り化したり、託半料金を値上げした、というのは記憶に新しいところですが、どうすれば、荷物を好きな時間、好きな場所で受け取りたい消費者と、それを届ける側の手間の削減を実現するか。

著者は、この問題に対し、「同時性解消」の現実的な策を、いくつか紹介しています。

なぜ「コンビニ受取」や「コンビニに宅配ボックス」だけではまかなえないのか、その理由がよくわかります。

本書が優れているのは、今、消費に起こっている価値変化を、「節約時間価値」と「創造時間価値」というキーワードで説明し切っていることで、今後、企業はこのどちらかに貢献しないと生き残れない、ということがよくわかります。

時代を読む上で、今の消費者を動かす「原理」を知ることは極めて重要。さっそく、著者の主張を見て行きましょう。

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◆上海の自転車シェアリングが示す、今後の新しい経済
・すきま時間の活用
・消費者による商品・サービス・空間の再定義
・同時性の解消

現在の宅配の仕組みは、ラストワンマイルにおいて、配達員と受取人が、同じ時間や空間を共有して対面することを強いられている。この「同時性」の持つ“非効率”をどのように解消し、セルフサービス化していくか──。そのことを念頭においたイノベーションが、今後のECの物流を大きく変容させる

誰もが、自分の「時間価値」にお金を払いたい。「時間価値」を高めるために、「すきま時間」と「空間」を自分なりに効率的に使いたい。そのためにも、第三者と対面する必要のないセルフサービスによる「同時性の解消」を求めている

日中誰かしら荷物を受け取る人がいることを期待しやすい3人以上の世帯数は、過去40年で9%減った。一方で、単身世帯は約420万件から1840万件と4倍以上に急増した

共働き世帯は610万から1100万と2倍近くに増えたが、それと入れ替わるように、専業主婦世帯は約1100万から690万に減っている

アマゾンの利用者がウェブサイトで商品を取捨選択するために必要な情報は「時間価値」の観点から最適化されて提供されているし、アカウント登録したクレジットカードによる決済機能の時間短縮という便益も、セルフサービスのレジなしコンビニである「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」やFeliCa(フェリカ)機能を搭載した新型iPhoneの登場によってさらなる高みに達しつつある

ゾゾタウンのユーザーは約7割を女性が占めるが、彼女たちの行動で興味深いことは、そのトラフィック(サイトやアプリの閲覧)が主に午後10時から翌日午前1時に最も集中していることである

個人の情報処理能力には限界があるためお互いに「送りっぱなし」の情報が加速度的に増加してしまう。送られた情報は在庫化されて優先順位付けされるため、発信能力の乏しい人の情報は無価値になる

VRは今後も発達することによって、企業に様々な選択肢を与える。そこで重要なのは、VRを使って「同時性」の実現か解消かどちらを志向するかということである。前者は「創造時間価値」を提供することになり、後者は「節約時間価値」を提供することになる

時間資本主義においては、このダイナミック・プライシングの発想はより広く適用されていくのではないか

空間シェアリングの高度化は東京が有利

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前作同様、現在の消費に起こっている変化を、きれいに説明しており、頭がすっきりと整理されました。

「時間資本主義」に各企業がどう対応しているか、アマゾンがなぜ今後、覇者足り得るのか、後半部分は特に注目です。

経営者、ビジネスパーソンにとっては、今後の自社ビジネスのポジショニングの参考として、投資家にとっては、今後どんな企業が伸びるのか、見極めるためのヒントとして、それぞれ役立つ一冊です。

ぜひ読んでみてください。

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『宅配がなくなる日』松岡真宏、山手剛人・著 日本経済新聞出版社

<Amazon.co.jpで購入する>
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◆目次◆

第1部 なぜ、ヤマト、三越伊勢丹はつまずいたのか
第1章 宅配ネットワークが崩壊した本当の理由
第2章 三越伊勢丹を揺さぶった時空価値競争
第2部 同時性解消と時間資本主義
第3章 同時性解消のインパクト
コミュニケーションから生産性へ
第4章 時間の効率化・快適化と同時性
第5章 空間シェアリングと時間価値
第3部 近未来流通と同時性
第6章 アマゾンが仕掛ける3つの刺客
第7章 人間に残るもの
第8章 それでも人は移動する
第9章 人間の希少性が高まる時代

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