【注目】
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人生において後悔したことがたくさんあるのですが、そのうちの一つは、大戸屋の株に投資しなかったことでした。
1993年、大学一年生だった時に、当時一橋大学に通っていた友人と初めて吉祥寺の大戸屋に行き、その美味しさとサービスに感動したにも関わらず、投資することを忘れていました。
おまけに、ちょうど土井がニューヨークに在住していた頃、社長がニューヨークを訪れていたにも関わらず、生前お会いすることが叶いませんでした。
以前、ロック音楽が好きな親友から、こんな話を聞きました。
「オレは残念だけど、ビートルズに会えなかった。だからオレはオレの時代のビートルズに出会えるように、頑張っていろんな音楽を聴いているんだよ」
この話を聞いて以来、自分はなるべく魅力的な経営者に会おうと活動していたにもかかわらず、この始末です。
しかし、やっぱり書籍はありがたい。お会いすることは叶わなくても、個人の思想には触れられるのだから。
本日ご紹介する一冊は、日本初、定食店で上場を実現した大戸屋の元社長、三森久実氏について、息子・智仁氏が語った一冊。
肉親だからこそ知り得た生い立ちや秘話、氏から受けた薫陶などが書かれており、いわゆるノウハウ書とは違う趣です。
事業の源となる、「想い」の重要性が一冊にびっしりと書き込まれており、ひさびさに起業家精神を吹き込まれた気がしました。
さっそく、気になる内容をチェックして行きましょう。
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「いいか、智仁。言葉は言霊と言って、魂を持っているんだ。プラスの言葉を発すると、その通りになる。逆にマイナスの言葉を発すると、現実も悪くなる。だから、どんなに苦しいときでも、プラスの言葉を口にしなさい」
「栄一おじさんが亡くなってから、どうしてここまで大戸屋を発展させられたのかというと、おじさんが俺の中に入ってきてくれたからだよ。だから、俺の身に何かあっても、心配するな。俺の全部が、おまえの中に入るから」
「ビジネスというものを大きく考えれば、絶対に人間愛ですよ。だって、経営理念というのは、愛そのものだから」
母親からの愛情を全身で受け止めながら、わずか9歳の幸之助は列車で大阪に向かったのである。この運命が「経営の神様」の土壌をつくった。父は自身の生い立ちを、幸之助と重ね合わせていたと思う
養父の汚名をすすぐためにはどうすればいいだろう。方法は一つ。養父が残してくれた、この大戸屋食堂をもっと磨き上げ、繁栄させるしかない。そうすれば、「素晴らしい店だ」と周囲の評価が変わるはずだ。父の経営者人生は、そんな反骨心からスタートした
1992年9月1日の深夜、大戸屋の吉祥寺店が全焼した。(中略)この吉祥寺店の大胆なリニューアルをきっかけに会社は発展する。店に間違って女性が入ったら、思わず逃げ出すような大戸屋食堂が、女性の一人客がたくさん来店する新生大戸屋に大転換を果たすのだ
自分と同じ種類の寂しさを抱えている、そうした人たちに向けて、それぞれの母親、思い出の台所に成り代わって、真心を込めた手作りの定食を提供したい。食事を通して母親の笑顔と愛情を思い出してもらい、寂しさを癒やしたい──。父はそう思った
「大きな椅子に座っているパパのほうがかっこいい!」椅子に座っている父のほうが偉い人になったような気持ちがしたし、そう答えたほうが父も喜ぶだろうと思った。けれど父は、もともと大きな目をさらにギョロッとして、私をたしなめた。「そうじゃないぞ。人間はな、汗水垂らして、一生懸命に働いている姿が一番かっこいいんだぞ」
「7個にしろ。5個では、ご飯が見えてしまう。それじゃあ、ホタテのせいろご飯とはとても言えないだろ。お客様がそれで納得すると思っているのか」商品部の社員にしてみたら、800円前後で出すには、高価なホタテは5個が限界と計算したのだが、それはあくまで会社の都合だと、父は駄目出しをした。商品部が仕入れの見直しなど商品設計を再考したところ、最終的には7個を使っても何とかなることが分かった。商品部の人を非難するつもりは全くないし、私もそうだが、人間は少しでも楽な方へと進もうとする。父はその甘さを許さなかった
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初めて吉祥寺店に入った時、気になった「かあさん額」に、そんな深い意味が込められていたとは…。
「かあさん、おなかすいたよう」の文字を見る度に、涙腺が緩んでしまいそうです。
次、ニューヨークに行ったときは、どんな高級レストランよりも、大戸屋を訪れたい。そんな気持ちになりました。
生きること、働くことの意味を思い出すために、ぜひ読んでおきたい一冊です。
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『創業家に生まれて 定食・大戸屋をつくった男とその家族』
三森智仁・著 日経BP社
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◆目次◆
1章 事業家のマグマ 家族にも見せなかった実母との写真
2章 新生大戸屋登場 父に信念を植えつけた、ある思想家
3章 隅々までの精神 外食の常識を超えた創業者の非常識
4章 お家騒動を経て 成功体験を壊すのは、会社か息子か
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