2017年6月23日

『世界史を創ったビジネスモデル』野口悠紀雄・著 vol.4720

【必読・傑作】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4106038048

「一気に読みました」というのは、本にとって最高の賛辞の一つですが、「読み終わるのが惜しくて、ちびちび読みました」もまた、最高の褒め言葉ではないでしょうか。

本日ご紹介する、野口悠紀雄教授の『世界史を創ったビジネスモデル』は、最近読んだ中では最も「読み終わるのが惜しくて、ちびちび読んだ」一冊。

ローマ帝国からヨーロッパ海洋国家のビジネスモデル、さらには最近のIT企業のビジネスモデルまで、広く「ビジネスモデル」を論じており、目からウロコの内容でした。

経済学者のフィルターを通して世界史を見ると、一体どう見えるのか。これは、塩野七生さんの一連の著書に匹敵するほど読み応えがありました。

「多様性の確保」と「フロンティアの拡大」が、なぜ国や企業にとって重要なのか。誰でも受けいれる合理的な寛容さとフロンティア拡大で成功し続けたローマ帝国の事例に、指導者は学ぶべきでしょう。

そして圧巻は、数百年先を見通し、平和時代のビジネスモデル(=通商)を開発し、後の海洋国家のモデルの基礎を創った「国造りの天才」アウグストゥス。

本書を読んで、彼がなぜ歴史上最高のリーダーとして尊敬されるのか、その本質がわかった気がしました。

ビジネスモデルとは何なのか、それが機能するには何が必要なのか、著者の慧眼も、本書の読みどころです。

さっそく、しびれる内容をチェックして行きましょう。

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「ビジネスモデル」という概念は、企業だけでなく、国にも当てはまる。国がどのような活動を行なうかは、ビジネスモデルの選択と考えることができるのだ

重要な概念は、「多様性の確保」と「フロンティアの拡大」である。多様性を実現できた国や企業は、できなかった国や企業に対して優位になることが多い

ローマを支える柱は、軍と奴隷である。軍を養うには税収が必要だし、退役後の兵士に与える土地を獲得するには領土を拡張する必要がある。これらは周辺地に侵略し、征服することで得られる。そして、戦争は奴隷の最大の供給源だ。つまり、戦争はローマにとっての中核的「ビジネス」なのである

公共施設といえば国や地方公共団体の予算で建設するものだと我々は思っているが、ローマでは、実力者が私費を投じて作ったのだ

ローマとアメリカの類似点は、以上にとどまらない。もっとも重要な共通点は、戦争後の対外政策にある。それは、よく言えば「寛容主義」であり、やや否定的なニュアンスを含めて言えば、「敗者同化主義」だ

人間が自ら進んで働くには、第1に未来への希望が必要だ。そして第2に、勤勉に働いたことが正しく評価される仕組みが必要だ

アウグストゥスは、それまでの空間的なフロンティアの拡大が限界に来たことを知り、それに代わる新しいフロンティアを、通商の拡大に求めようとした

時代精神を体現したビジネスモデルが生まれるのは稀だ。現代で言えば、その稀な例が、iPhoneの登場だ。これが画期的であったのは、もちろん、それが優れた装置であり、便利だからである。ただし、それだけでなく、時代の精神を体現しているからだ

優れたビジネスモデルは、単に金を儲けるだけのものではない。また、余剰労働力を活用するだけのものでもない。そこには、人々を燃え上がらせるものが含まれているのだ

広い領土は持たず、国を全世界に向って開放する。そして、貿易を中心的な産業とし、少数精鋭で大きな収益を実現する。これは、広い領土と多数の国民を持ち、主要産業は農業である大陸型国家とは異質のものだ。海洋国家は、ヴェネツィアやポルトガルが意識して採用した、国としてのビジネスモデルなのである

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近年稀に見る日本人著者による力作であり、かつ今後の日本の方向性への示唆に富む内容でした。

首相を含め、政治家は必読。

企業経営者も、起業家も、読めば歴史上の偉人たちが創り上げた「ビジネスモデル」のすごさにしびれ、テンションが上がる内容です。

ぜひ読んでみてください。

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『世界史を創ったビジネスモデル』野口悠紀雄・著 新潮社

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◆目次◆

序 章 ビジネスモデルの原点を探る
1.歴史からビジネスモデルを学ぶ
2.ビジネスモデルの2つの基本概念

第I部 ローマ帝国のビジネスモデル
第1章 先駆者だったため失敗したカエサル
第2章 国造りの天才アウグストゥス
第3章 すべてのビジネスモデルはローマに発する
第4章 ローマ帝国を支えたもの(1)戦争と奴隷
第5章 ローマ帝国を支えたもの(2)異質性の尊重
第6章 ローマ帝国を支えたもの(3)税制
第7章 アウグストゥスが地上に作った理想国家
第8章 蛮族の侵入でなく、ビジネスモデルの破綻で崩壊
第9章 ローマ帝国モデルの現代的意義づけ

第II部 フロンティア拡大というビジネスモデル
第1章 海洋国家による地理的フロンティア拡大
第2章 自由な海洋国家が閉鎖海洋国家を滅ぼす
第3章 日本は海洋国家でなく島国なのか?
第4章 電話の潜在力を見抜けた企業と見抜けなかった企業
第5章 IBMの成功と没落と再生
第6章 「工場のない製造業」という新しいビジネスモデル
第7章 第2期大金持ち出現時代
第8章 グーグルが見出した空前のフロンティア
第9章 人工知能は何をもたらすか
終 章 歴史から何を学べるか?

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