【豪商・大倉喜八郎の生涯に迫った傑作小説】
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本日の一冊は、大倉財閥の創始者・大倉喜八郎の生涯に迫った小説。
著者は、第一勧業銀行(現みずほ銀行)を経て、『非情銀行』で作家デビュー、経済小説を多数手掛けている、江上剛さんです。
「死の商人」「戦争屋」と言われ、悪い評判の多い大倉喜八郎ですが、本書ではその人となり、経営哲学がよく書かれています。
経営者、起業家、ビジネスパーソンにも役立つ教訓やエピソードが多数書かれているため、小説ではありますがご紹介することにしました。
成功するためにはリスクを取ること、現状に甘んじないこと、時流に乗ること、努力すること、そして人を得ること…。
わかってはいるのですが、そのためにどうすればいいのか。その見本が本書には書かれています。
あえて人が取りたがらないリスクを取り、嫌なことも進んでやることで信用を得た大倉喜八郎の生き方に、商人が学ぶことは多いと思います。
乱世にこそチャンスあり、と信じる方には、ヒントが満載の一冊です。
さっそくチェックしてみましょう。
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「大きな声じゃ言えないが、武士の世は確実に終わりが近づいていると思う。これからはもっと混乱するだろう。私は、これからは商人が力を持つ時代になるに違いないと信じている。だからもっと力をつけたいと思っているんだ」
喜八郎は、毎朝、卯の刻(午前六時)には小泉屋の前に来ていた。まだ店は開いていない。しかし店先の掃除などをして、忠兵衛が店を開けるのを待っていた
「小判の包み替えは、本両替商にしか認められていない。それを善次郎さんができるというのは、世の中が混乱しているからだ。混乱しているからこそ、俺たち新参者が大きな顔をして商売ができるんじゃないのか」
「なによりも私は商人であります。商人には、軍の別はありませんし、そもそもどちら様が賊かはわかりません。こちらへ来ればあちらが賊だとおっしゃり、あちらに行けばこちらのことを賊とおっしゃる。私にはお客様があるだけでございます」
「お客様とは、きちんと現金で買っていただける方のことであります」
義を見てせざるは、勇なきなり
「薩摩や長州ばかりではなく、多くの新政府の人間を俺のつくる洋服の虜にして、人脈をつくるんだ」
準備は整った。渡航資金は、四万円を用意した。銀座の土地が一坪五円だったから、八千坪も買える金額だ。まさに全財産をかけた覚悟溢れる洋行だった
「たとえ徳川様の盤石な時代だろうと、そうではなかろうと、どの時代にも風は吹いていると思います。しかしその風を受けられる才能や努力、そして何よりも夢を持っているかどうかでございましょう」
(喜八郎に仕えた常吉の言葉)
「商人とはな、約束が命だ。約束を守らぬ人間は商人ではない」
「大事な米麦が、一粒も残すことなく朝鮮の人に届けられたかどうか、それをこの目で確認するのも、商人の役目だ」
「相手が必要としている物を知らなければならない。仕入先にはご迷惑がかからぬように早めにお支払いをして、信用を得ねばならない。できるだけ安く仕入れて、自分の利益は薄くとも相手が喜ぶ価格で提供しなければならない。その品物は、きっちりと相手に受け渡さねばならない。これだけの気遣いをして、やっと商人として一人前だ」
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著者は「あとがき」で、大倉喜八郎を取り上げた理由を、こう述べています。
<私は、ややひねくれている。どうも忘れられたり、低い評価に甘んじている人物に共感を覚える性質らしい>
<“薩長でなければ人にあらず”と言われた時代に、コネもカネもない人間が世に出るためには、相当な努力が必要だったに違いない>
われわれはとかく、日の当たる人物ばかりに注目してしまいがちですが、人が嫌がる仕事をして国に貢献した人間がいることも忘れてはいけないと思います。
大倉喜八郎の人がらと、商売にかける覚悟が伝わってくる、読み応えのある一冊です。
ぜひ読んでみてください。
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『怪物商人』江上剛・著 PHP研究所
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◆目次◆
進むべき道
乾物屋から鉄砲屋へ
商人は商売が命
義を見てせざるは、勇なきなり
天はみずから助くるものを助く
ロンドンで恩を売る
時代の風を受ける人
運命の出会い
自分の意志が道を拓く
独立運動を援助する
戦争で儲ける男
軍人の役割、商人の役割
支援に自分の名は出さず
男子の本懐
捨て石となっても
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