【全米ベストセラー予測本、待望の邦訳!】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822249808
本日の一冊は、米大統領選で「オバマの勝利」を完全に予測し、一躍注目されることとなった希代のデータアナリスト、ネイト・シルバーによる予測手法の解説書。
本書によると、著者はFiveThirtyEightというサイトを立ち上げて選挙を予測し、大統領選の当選者について50州のうち49州の結果を当て、また、上院議員選挙では35人の当選者すべてを当てました。
本書には、そんな著者の予測の「秘訣」が書かれているのです。
これは読まないわけにはいきません。
500ページを超える分厚い本ですが、知的好奇心をくすぐる刺激的な内容のため、一気に読むことができました。
タイトルとなっている『シグナル&ノイズ』の「シグナル」というのは、予測の参考となる真実のことで、「ノイズ」というのは、一見シグナルのようでいて、実際には予測を妨げるものです。
本の帯にも書かれているように、<私たちはシグナルを探そうとしてノイズを集めている>のであり、ビッグデータ時代には、その傾向が顕著となる、と著者は指摘しています。
興味深かったのは、情報収集に明け暮れるわれわれから、完全に欠落している以下の視点。
<データのなかの意味のある関係──相関関係ではなく因果関係を示し、世界の動きを説明するもの──は桁違いに少ない。情報が増えるペースでは増えていない。つまり、インターネットや印刷機が発明される前とくらべて、世の中の真実が増えているわけではないのである>
なぜ、ノウハウの数は飛躍的に増えているのに、結果が伴わないのか、その真実がわかった気がしました。
本書では、アメリカの住宅バブル崩壊、マネー・ボールの教訓(野球予測システム)、天気予報、巨大地震予測、経済予測、インフルエンザ予測、チェス・コンピュータの予測など、興味深いトピックをベースに、正しい予測の方法論や心構えを説いており、じつに参考になります。
それぞれの予測モデル、ベイズの定理などは本書でじっくり読んでいただくとして、ここではビジネスに役立つ、いくつかの教訓をご紹介しましょう。
まずは、われわれが陥ってしまう罠から。
<予測の失敗にはたいてい共通点がある。現実の世界ではなく、希望する世界を示すシグナルに焦点を合わせる。たとえ大きな脅威の兆しがあっても、測定の難しいリスクは無視する>
<住宅バブルがはじける可能性は、格付会社にとって脅威だった。人間は、自分の生活を脅かすリスクを無視することにかけて並外れた才能を持っている>
<(あなたが2万回運転してさしたる事故は起こしていないとして)飲酒運転のサンプルは2万回ではなくゼロなのだから、事故を起こすリスクを過去の経験を使って予測することはできない。これがアウト・オブ・サンプルである>
<人間の脳は、パターンを探知するようにできており、本当はデータにどれだけノイズがあるかを判断しなければならないのに、常にシグナルを探そうとする>
大事なことは、数字に注意することではなく、解釈する私たち自身に注意すること。
そこで著者は、「ハリネズミ」と「キツネ」という概念を出してきて、予測に臨む際、どんな人間でいるべきかを紹介しています。
これによると、ハリネズミというのは、大きな考えを信じている人たちのことで、キツネというのは、これといった原則を持たず、たくさんの小さな考えを信じ、問題に向けてさまざまなアプローチを試みる人たちのこと。
正確な予測をするなら、原則にこだわる頑固なハリネズミでなく、臨機応変なキツネであれ、というのが著者の教えです。
アベノミクスが今後、どうなるのかを知りたい投資家にとっては、以下の指摘が役に立つでしょう。
<「グットハートの法則」によれば、政策立案者がある変数をターゲットにしたとたん、それは経済指標としての価値を失う。たとえば、政府が人為的に住宅価格を上昇させようとした場合、価格は上昇するかもしれないが、経済を測る指標ではなくなってしまう>
正しい意思決定のために、ぜひ読んでおきたい珠玉の一冊です。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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正のフィードバックである。そこにバブルの芽がある
キツネはよりよい予測をする。彼らはデータのなかに大量のノイズがあることをすぐに察知し、間違ったシグナルを追いかけない。「わからないことがある」ことをよくわかっている
私が公表する予測は分野にかかわらず、ほぼすべてが確率論的なものである。1つの数字だけを示して、これから起こることは確実にわかっていると言わずに、起こり得る結果を幅を持って示す
◆優れた野球予測システムの基本的要件
1.選手のデータの背景を説明する
2.運と実力を区別する
3.選手の実力が年齢とともにどう変化するか
──エイジング・カーブ──を理解する
予報の精度を上げるためには、大気をあらわすグリッドの1つ1つのサイズを小さくする必要がある
予測の頻度が高いと、予測の正しさを評価しやすくなる。これは、予測者にとっても有益である。自分が間違っているかどうかのフィードバックを受け取り、それを受けて予測を修正していくことができるからだ
地震の場合、マグニチュードが1ポイント上がるたびに頻度は10分の1になる。したがって、M6の地震は、M7の地震の10倍の頻度、M8の100倍の頻度で発生する
失業率は一般に遅行指数だとされていて、それが正しいときもある(中略)しかし、失業率は消費者需要の先行指標でもある。失業すると新しいモノやサービスをあまり購入しなくなるからだ
「グットハートの法則」によれば、政策立案者がある変数をターゲットにしたとたん、それは経済指標としての価値を失う。たとえば、政府が人為的に住宅価格を上昇させようとした場合、価格は上昇するかもしれないが、経済を測る指標ではなくなってしまう
「外挿法」は基本的な予測方法である。基本的すぎるといってもよい。これは現在の傾向がいつまでも続くことを前提としている。予測の失敗で有名なものは、この方法に頼りすぎた結果であることが多い
指数関数的に増減するものを外挿法で予測するのは無理がある
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『シグナル&ノイズ』ネイト・シルバー・著 日経BP社
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◆目次◆
序章
第1章 壊滅的な予測の失敗
第2章 キツネとハリネズミ──予測が当たるのはどっち?
第3章 マネー・ボールは何を語ったか?
第4章 天気予報──予測がうまく機能している数少ない分野
第5章 巨大地震のシグナルを探す
第6章 経済予測はなぜ当たらないのか?
第7章 インフルエンザと予測モデル
第8章 間違いは減っていく──ギャンブルとベイズ統計
第9章 機械との闘い
第10章 ポーカー・バブル
第11章 打ち負かすことができないなら──金融市場と予測可能性
第12章 地球温暖化をめぐる「懐疑心」
第13章 見えない敵──テロリズムの統計学
結論
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