【マネジャーが大局観を養うための本】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569760384
本日の一冊は、多摩大学大学院教授、シンクタンク・ソフィアバンク代表、社会起業家フォーラム代表、デモクラシー2.0イニシアティブ代表発起人などを兼任する田坂広志さんの名著の文庫版。
マネジャーに求められる「大局観」の必要性や「人間通」であることの重要性、部下に暗黙知を伝えるための秘訣を説いた、マネジャー必読の心得書です。
本書の前半で著者は、「魚の解剖」の比喩を用いて、「論理」や「分析」の限界を説いています。
以下、ちょっとだけ内容をのぞいてみましょう。
<例えば、「魚の解剖」を考えてみると良く理解できます。我々は、子供の頃の理科実験で行ったように、魚をメスで解剖して五臓六腑に腑分けし、骨や内臓や神経などを詳しく調べ、魚というものの「仕組み」を整然と理解することはできます。しかし、こうして腑分けして整然と理解した結果、失われてしまう「大切なもの」があることに気づくのではないでしょうか。それは何でしょうか。魚の「生命」です>
著者は、この比喩を用いて、企業がある種の生命体であり、また「複雑系」であることを説明し、ゆえにマネジャーには大局観が求められる、と説いています。
では、その大局観はどうやって養われるのか。企業の「生命」に値するものはどうやって創られるのか。
本書には、その深い思想が書かれています。
マネジャーが悩みがちな部下の教育についてもアドバイスが付されており、なかでも以下の視点は参考になりました。
<「成功の体験」を持つマネジャーが、部下に対して伝えるべきは、その成功体験から学んだ「成功の方法」ではありません。むしろ、その成功体験から掴んだ「体験の方法」をこそ伝えるべきなのです>
成功の方法を伝えても、暗黙知までは伝わらないのだから、思い切って「体験」させる。マネジャーは、その「体験の方法」をこそ教えろということです。
本書の後半には、「暗黙知を伝える3つの方法」として以下の3つが紹介されているのですが、これも部下を育成する際のヒントとして活用できそうです。
◆暗黙知を伝える3つの方法
1.否定法(言語を否定することにより暗黙知を伝達する方法)
2.隠喩法(含蓄のある隠喩を語ることによって、想像力を喚起)
3.指示法(「体験の方法」を指示する)
本書を初めて読んだのは、約10年前。まだサラリーマンの頃でしたが、いざ経営者になって再読すると、さまざまな気づきが得られます。
ここ10年でマネジメントの立場に立った方は、ぜひこの文庫化を機に、再読することをおすすめします。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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大局観や直観力、洞察力と呼ばれる力を磨くためには、その「対極」に徹することが近道なのです。すなわち、多くの先人たちは、「論理思考」に徹する時代を経て、大局観や直観力や洞察力を獲得していったのです
「監督。やはり勝因は、『データ重視の野球』にあるのでしょうね」この質問に対して野村監督は憮然として答えました。「データ重視の野球ならば、いまどき、どのチームでもやっています。肝心なことは、その膨大なデータの中から、試合に勝つための大切なポイントを掴み取り、それぞれの選手に合わせて、分かりやすく簡潔に教えてあげることです」
「成功」とは常に「個性的」なもの
「成功の体験」を持つマネジャーが、部下に対して伝えるべきは、その成功体験から学んだ「成功の方法」ではありません。むしろ、その成功体験から掴んだ「体験の方法」をこそ伝えるべきなのです
「集中力」を鍛えるための方法は、一つしかありません。それは、「集中力」が求められる場面を数多く経験することです
こころの深くに「操作主義」が潜んでいるマネジャーの言動には、部下のこころが共感しない
◆マネジャーが部下の成長を支えるために為すべきこと
1.「成長の方法」を伝える
2.「成長の目標」を持たせること
3.「成長の場」を創ること
ある「高み」にまで達したものを、毎日のように、見る。そして、知らず知らずに、その「高み」を自分自身の目標に重ねあわせていく
もし、組織の中心に立つ人間が、メンバーの誰よりも強い「成長への意欲」を持っているならば、その組織には、黙っていても「メンバーを成長させる空気」が生まれてきます
◆暗黙知を伝える3つの方法
1.否定法(言語を否定することにより暗黙知を伝達する方法)
2.隠喩法(含蓄のある隠喩を語ることによって、想像力を喚起)
3.指示法(「体験の方法」を指示する)
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『なぜ、マネジメントが壁に突き当たるのか』
田坂広志・著 PHP研究所
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569760384
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◆目次◆
開 講 なぜ、マネジメントには「沈黙は金」の瞬間があるのか
第一講 なぜ、「論理的」な人間が社内を説得できないのか
第二講 なぜ、マネジメントにおける「直観力」が身につかないのか
第三講 なぜ、「原因究明」によって問題を解決できないのか
第四講 なぜ、「矛盾」を安易に解決してはならないのか
第五講 なぜ、「多数」が賛成する案が成功を保証しないのか
第六講 なぜ、成功するマネジメントは「完璧主義」に見えるのか
第七講 なぜ、「成功者」を模倣することができないのか
第八講 なぜ、「経験」だけでは仕事に熟達できないのか
第九講 なぜ、「ベスト・チーム」が必ずしも成功しないのか
第十講 なぜ、「動かそう」とすると部下は動かないのか
第十一講 なぜ、「教育」しても部下が成長しないのか
第十二講 なぜ、「優秀な上司」の下で部下が育たないのか
閉 講 なぜ、マネジメントは「アート」になっていくのか
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