【三島由紀夫の文章術】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/412004162X
本日の一冊は、三島由紀夫没後40年を記念して出版された、三島由紀夫の小説指南書。
三島がさまざまな媒体に寄稿した原稿の中から、小説や文章について語った内容をまとめて編集したもので、小説とは一体何か、小説の読者はどんな人か、どうすれば小説が書けるのかを、巧みな比喩と事例を使って述べています。
売るものがビジネス書だろうと、小説だろうと、はたまた洋服だろうと、大切なのは「顧客の心」であって、これを読む限り、三島にはやはり読者の心が見えていたようです。
先日、ピエール・カルダンが来日した時、「ファッションとは、その人がなりたいと思ってなれなかった姿である」といった趣旨のことを述べていましたが、小説における三島の洞察は以下の通り。
「もともと小説の読者とは次のようなものであった。すなわち、人生経験が不十分で、しかも人生にガツガツしている、小心臆病な、感受性過度、緊張過度の、分裂性気質の青年たち。性的抑圧を理想主義に求める青年たち…」
では、一体このような読者に、どうやってアプローチすればいいのか。本書では、そのヒントも書かれています。
また、現在の小説の地位を影響力の落ちたラジオにたとえ、その本質を解説。今後、どうすれば小説が売上を伸ばしていけるのか、ヒントを提示しているあたりが興味深いです。
読み始めてわずか20ページの辺りで、正直、三島の知性あふれる文章と、マーケットを見る洞察力の鋭さに、やられてしまいました。
書き手として食っていきたい方、編集者は必読の内容です。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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小説家はまず第一にしっかりした頭をつくる事が第一、みだれない正確な、そしていたずらに抽象的でない、はっきりした生活のうらづけのある事が必要である。何もかもむやみと悲しくて、センチメンタルにしか物事を見られないのは小説家としても脆弱である
コツコツとたゆみない努力の出来る事が小説家としての第一条件であり、この努力の必要な事に於ては芸術家も実業家も政治家もかわりないと思う。なまけものはどこに行っても駄目なのである
ある画家から聞いた話だが、フランスに行って絵描きが何を学んでくるかというと、毎朝必ずキャンバスの前にきちんと坐って仕事を始める習慣だそうである
病人たちは時間をたっぷり持っており、愛憎は体にさわるので、いくぶん冷たくまた真摯な、他人に対する関心はゆるされており、自分の内省は体によくないが、他人の内省に深入りするだけの精力はのこしている。そしてかれらは熱心にラヂオをきき、あるときは思い余って、投書をしたりするのである(中略)実は私が語ってきたのはラヂオのことではない。小説のことである
小説家は、自分の内部への関係と、外部への関係とを同一視する人種であって、一方を等閑視することを許さないから、従って人生に密着することができない。人生を生きるとは、いずれにしろ、一方に目をつぶることなのである
謎解きが、かくて小説の重要な魅力であるなら、現代流行の推理小説にまさるものはないといえよう。しかし、作者によって巧妙にしつらえられた謎が一旦解明されると人々は再読の興味を失う
ともすると、人間にとっては、「命を賭けても知りたい」という知的探究心が真理を開顕することよりも、「知ることによって身を滅ぼしたい」という破滅の欲求自体のほうが、重要であり、好もしいことなのではなかろうか?
われわれが小説を読むとは、半ば官能的、半ば知的究理的な体験である。「どうなるか」という期待と不安、「なぜ」「どうして」「誰が」という疑問の解決への希望、こういう素朴な読者の欲求は、高級低級を問わず、小説を読む者の基本的欲求と考えてよい
E・M・フォースタアも言うように、「王が亡くなられ、それから王妃が悲しみのあまり亡くなられた」という、「悲しみのあまり」というプロット要因に小説の本質がひそむのである
「ドン・キホーテ」がそれ以前の騎士道小説に対する批評から生れたように、既成の小説に対する批評を方法論の根本におくことが、小説家の小説を書く上での最大の要請になるのである
人間の精神のなかには、大きなものへの嗜好と同時に、小さなものへの嗜好がひそんでいる
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『小説読本』三島由紀夫・著 中央公論新社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/412004162X
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◆目次◆
作家を志す人々の為に
小説とは何か
私の小説の方法
わが創作方法
小説の技巧について
極く短かい小説の効用
法律と文学
私の小説作法
法学士と小説
法律と餅焼き
私の文学
自己改造の試み
「われら」からの遁走
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