【帳簿の歴史から、見えてくること】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163902465
時代が進めば、必ずしも人間が進歩するわけではない。
かつての人々が普通にできたことが、現在の人間にとっては困難、というのは往々にしてよくあることです。
なかでも、商人にとって重要なのは、「読み・書き・そろばん」。
残念ながら、こういった基本的なスキルでさえ、時代のなかで失われてしまうことがあるのです。
本日ご紹介する一冊は、「複式簿記」の歴史と、権力者がこれをいかに用いて成功したか、またいかに用いずして失敗したかを述べた歴史研究の書。
著者のジェイコブ・ソール氏は、歴史学と会計学を専門とする、南カリフォルニア大学の教授で、かつてルイ14世が年に2回、自分の収入・支出・資産が記入された帳簿を受け取っていながらも、やがてその習慣を打ち切り、フランスを破綻させてしまったことに注目。
『帳簿の世界史』を読み解くことで、「会計が文化の中に組み込まれている社会は繁栄する」と結論を導き出しています。
それが国家であれ、企業であれ、指導者が現実を見るのを忘れた時、組織の崩壊が始まる。
本書からは、そんなメッセージが読み取れます。
さっそくポイントをチェックしていきましょう。
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金のかかる戦争やヴェルサイユ宮殿を始めとする宮殿建設で赤字続きだったルイ一四世は、コルベールが一六八三年に死去すると、会計報告の習慣を打ち切ってしまう
よい会計は悪いことが起きたときに真実を教えてくれるが、ルイ一四世は都合の悪いことは見て見ぬ振りをしたくなったらしい
社会と政治が大規模な危機に直面せず繁栄を謳歌できたのは、会計の責任がきちんと果たされていたごく短い期間だけだったようにみえる
複式簿記では、現金の増減だけでなく、それに伴う資産の価値も表すことができる
古代アテネでは帳簿操作がはびこっていた
権力者に帳簿の公開を迫ったら報復されるだけだ
北イタリアこそ、共同出資会社、銀行、遠距離の貿易が発展し、それとともに資本主義的な利益や複式簿記が誕生した地である
ダティーニはワインや豪華な衣装や狩猟や女奴隷を楽しむ一方で、じつに熱心に几帳面に仕事をした。部下の管理職の一人に宛てて、昼夜を分たず自分の仕事のことを考えよ、つねにメモをとれ、心覚えとして帳簿をつけよ、と手紙を書いている
ダティーニもそうだったように、賢い商人は必ず帳簿を二冊つけた
経営者は支配人の監査をしなければならない
無責任な財政運営が国を破綻させる
単に帳簿をつけるだけでなく、利益を上げるためには、このようにつねに価値を意識することが重要だと彼は強調した。そしていかなる取引も、必ず借方・貸方を同時に記帳し、利益と損失を認識するよう指導した(連合東インド会社支配人 ヨハネス・フッデ)
やがてウェッジウッドは会計を習得し、一般管理費、販売費、金利といったものも正確に計算できるようになった。そして費用を職工・倉庫係・会計係の賃金から偶発事故、賃借料、損耗、臨時費など一四項目に分け、項目別にちがう色で記入・集計する方法を考案して、そのやり方をこまごまとベントレーに説明している
「権力とは、要するに財布をしっかり握っていることだ」(ハミルトン)
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優れた歴史読み物がみなそうであるように、本書もまた、かつて学んだ世界史を、「帳簿」という切り口で再編集してくれる内容です。
税理士・会計士は、本書をクライアントの経営者に見せるのがMUST。
歴史好きはもちろん、指導者・さらにはビジネスパーソンにも、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
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『帳簿の世界史』ジェイコブ・ソール・著 文藝春秋
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163902465
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◆目次◆
序 章 ルイ一六世はなぜ断頭台へ送られたのか
第1章 帳簿はいかにして生まれたのか
第2章 イタリア商人の「富と罰」
第3章 新プラトン主義に敗れたメディチ家
第4章 「太陽の沈まぬ国」が沈むとき
第5章 オランダ黄金時代を作った複式簿記
第6章 ブルボン朝最盛期を築いた冷酷な会計顧問
第7章 英国首相ウォルポールの裏金工作
第8章 名門ウェッジウッドを生んだ帳簿分析
第9章 フランス絶対王政を丸裸にした財務長官
第10章 会計の力を駆使したアメリカ建国の父たち
第11章 鉄道が生んだ公認会計士
第12章 『クリスマス・キャロル』に描かれた会計の二面性
第13章 大恐慌とリーマン・ショックはなぜ防げなかったのか
終 章 経済破綻は世界の金融システムに組み込まれている
謝辞
ソースノート
日本版特別付録 帳簿の日本史(編集部)
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