2009年2月9日

『ローマ亡き後の地中海世界(上)』塩野七生・著

【大国が亡びるとき】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4103096306

最近、アメリカでは、自国をかつてのローマ帝国にたとえ、その凋落を論じる風潮があるそうです。

昨年末から続く金融不況により、さらにその傾向は強まったと言えそうですが、そんななか、注目を浴びているのが本日の一冊です。

著者は、『ローマ人の物語』で有名な、塩野七生さん。

本書では、『ローマ人の物語』のその後ということで、ローマ亡き後の地中海世界がどう変容していったのか、その様を論じています。

「パクス・ロマーナ」の終焉、そしてキリスト教、イスラム教という一神教同士の対立…。

秩序から無秩序へと向かう地中海社会の様子が、じつにビビッドに描かれています。

この方の歴史が面白いのは、単に事実の羅列だけでなく、そこに潜む因果関係と人間の性を論じているから。

土井もかつては世界史専攻で、ギリシアにまで留学しましたが、歴史をここまでビビッドに活写するのは、さすがというべきでしょう。

巻末には、カラー写真で本書の舞台となった島、地方が載っており、歴史に思いを馳せるには、絶好の一冊です。

大国が亡びると、世界はどうなるのか。そんな視点で読んでみても面白いかもしれません。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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人間ならば誰でも神々に願いたいと思うことのすべて、そして神々も人間に恵んでやりたいと思うであろうことのすべては、アウグストゥスが整備し、その継続までも保証してくれたのであった。それは、正直に働けば報酬は必ず手にできるということへの確信であり、その人間の努力を支援してくれる神々への信心であり、持っている資産を誰にも奪われないですむということへの安心感であり、一人一人の身の安全であった(『歴史』ヴァレリウス・パテルクロス)

人間は、時代が変わろうと、願うことはやめない存在だ。とはいえ、人間にとっての根本的な願望の現実化を統治者に期待できなくなってしまっては、残されたのは神にすがることだけになる

ユスティニアヌス大帝が世を去ってからわずか三年後、イタリア半島に、ロンゴバルド族が南下してきたのである。だが、二十年にもわたったゴート族相手のイタリア半島奪還戦役で力を使い果していた東ローマ帝国には、オリエントでの終わりなき対ペルシア戦役への対処もあって、この新来の北方蛮族を北に追い払う力は残っていなかった。と言って、ロンゴバルド族のほうにも、イタリア半島を完全制覇する力はなかったのだ。その結果、イタリア半島は、ビザンチン帝国の名で定着しつつあった東ローマ帝国のギリシア人の支配する地方と、ゲルマン民族に属するロンゴバルド族の支配する地方が、まだら模様に共存することになった。この状態は、支配される側にすれば、不安定しか意味しない。言い換えれば、生きにくい時代、ということであった

海に出て行くことで生活の糧を得ようと思うならば、選択の道は二つしかなかった。交易か、海賊か、である

事業とは、それが何であれ、参加者の全員が、欲しているものが得られると思えた場合に成功し、しかも長つづきする

人は死んでも石鹸は残るが、率いていた人物が死ねばそれとともに死ぬのが、個人の才能に頼ることで機能していた組織の宿命である

情報は、たとえ与えられる量が少なくても、その意味を素早く正確に読み取る能力を持った人の手に渡ったときに、初めて活きる

北アフリカ一帯に住む人々にとっては、海賊業そのものが産業として確立しつつあった事実をあげねばならない。つまり、直接には海賊業に手を染めない人々にも、職を与えていたということである

人々が最も怖れるのは、文明的な侵蝕よりも軍事的な侵蝕である

人間とは、良かれ悪しかれ、現実的なことよりも現実から遠く離れたことのほうに、より胸を熱くするものである。つまり、心がより躍るのだ。中世人の信仰心が高まったからこそ、十字軍は起ったのである。だがその信仰心の向う先は、聖地でなければならなかった。聖地の奪還であったからこそ、あれだけ多くの人々を巻きこんだ

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『ローマ亡き後の地中海世界(上)』新潮社 塩野七生・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4103096306
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◆目次◆

海賊
はじめに
第一章 内海から境界の海へ
第二章 「聖戦」(ジハード)と「聖戦」(グエッラ・サンタ)の時代
第三章 二つの、国境なき団体
巻末カラー「サラセンの塔」

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