【イチオシの一冊】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087207323
「私にも、尊敬するエコノミストの方がいまして…」
これは、10数年前、とあるカリスマトレーダーにインタビューした際、ポロッと出た話。
その「尊敬するエコノミスト」というのが、本日ご紹介する『資本主義の終焉と歴史の危機』の著者、水野和夫さんです。
著者は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)を歴任した人物。
本書には、氏が「資本主義の終焉」を予想する理由、そしてわれわれがこれから向かうべき道が示されています。
著者によると、資本主義とは、<「中心」と「周辺」から構成され、「周辺」つまりいわゆるフロンティアを広げることによって「中心」が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステム>のこと。
このシステムは、「周辺」がなくなった時点で行き詰まるわけですが、今のわれわれは、まさにその状態に近づいているようです。
アメリカが「電子・金融空間」に利潤を求め、「最後の大陸」アフリカのグローバリゼーションが叫ばれている現在、もはやフロンティアは残されておらず、やがて資本主義は終焉する、というのが著者の主張です。
アメリカも日本も、さらには新興国も、この資本主義の宿命に向かって加速しており、もしこのまま「成長」を求めれば、自らの中に新たな「周辺」を作ることになる。
それが、アメリカで言えば、サブプライム層であり、日本で言えば、非正規社員であり、EUで言えば、ギリシャやキプロスだというのです。
つまり、さらに資本主義を無理に進展させようとすれば、それは政治の不安定につながる。われわれはまさにその間にいるのです。
詳しい検証は本文に譲りますが、本書には、なぜオバマの輸出倍増計画が挫折するのか、なぜアベノミクスがうまく行かないのか、その理由が明確に述べられています。
著者が提唱するゼロ成長社会=「定常状態」が実現するかどうかはわかりませんが、資本主義終焉後の未来を考える上で、示唆に富んだ内容だと思います。
これからの社会を考える上で、これからの稼ぎ方、働き方を考える上で、じつに勉強になりました。
これはイチオシの一冊です。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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資本主義は「中心」と「周辺」から構成され、「周辺」つまりいわゆるフロンティアを広げることによって「中心」が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステム
「地理的・物的空間(実物投資空間)」からも「電子・金融空間」からも利潤をあげることができなくなってきている
さらにもっと重要な点は、中間層が資本主義を支持する理由がなくなってきていることです。自分を貧困層に落としてしまうかもしれない資本主義を維持しようというインセンティブがもはや生じないのです
一〇年国債の利子率が二%を下回るということは、資本家が資本投資をして工場やオフィスビルをつくっても、資本家や投資家が満足できるリターンが得られなくなったことを意味するのです
資本主義は「周辺」の存在が不可欠なのですから、途上国が成長し、新興国に転じれば、新たな「周辺」をつくる必要があります。それが、アメリカで言えば、サブプライム層であり、日本で言えば、非正規社員であり、EUで言えば、ギリシャやキプロスなのです
情報を独占する側が常に敗者となるのが歴史の教訓
オバマの輸出倍増計画は挫折する
「電子・金融空間」のなかで資本が増殖することで、もたらされるのはバブルの生成と崩壊であり、その結果引き起こされるのが過剰債務と賃金低下です
「価格革命」とは、「電子・金融空間」創出の必然的帰結の出来事として捉えるべきことなのです。「電子・金融空間」でつくられた「過剰」なマネーが新興国の「地理的・物的空間」で過剰設備を生み出し、モノに対してデフレ圧力をかける一方で、供給力に限りがある資源価格を将来の需給逼迫を織り込んで先物市場で押し上げる
雇用者報酬の減少のそもそもの原因は、過剰設備の維持のためだった
中国でバブルが崩壊した場合、海外資本、国内資本いずれも海外に逃避していきます。そこで中国は外貨準備として保有しているアメリカ国債を売る。中国の外貨準備高は世界一ですから、その中国がアメリカ国債を手放すならば、ドルの終焉をも招く可能性すらある
定常状態を実現するためには、第一に、人口減少を九〇〇〇万人あたりで横ばいにすること、第二には、安いエネルギーを国内でつくって、原油価格の影響を受けないこと
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『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫・著 集英社
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◆目次◆
第一章 資本主義の延命策でかえって苦しむアメリカ
第二章 新興国の近代化がもたらすパラドックス
第三章 日本の未来をつくる脱成長モデル
第四章 西欧の終焉
第五章 資本主義はいかにして終わるのか
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