2013年9月25日

『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』渡邉格・著 vol.3354

【お金中心ではない「腐る経済」とは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062183897

以前ご紹介した藻谷浩介さんの『里山資本主義』はじめ、最近は行き過ぎた資本主義を見直す本が、いくつも出されています。

※参考:『里山資本主義』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4041105129

本日ご紹介する一冊は、学者である父の影響でマルクスを読み始め、理想の経済を実現するべく、地方でパン屋経営をしているという著者が、これからの生き方、経営のあり方を説いた一冊。

自身のパン屋修業時代のエピソードを披露しながら、資本家が労働者を搾取する構造を説明。『資本論』の概要を見事前半で説明し切っています。

そして中盤では、ミヒャエル・エンデのお金に対する見解を披露し、おカネの持つ問題の根本を指摘しています。

<おカネは「腐らない」ばかりか、資本主義経済のなかで「利潤」を生み、金融を媒介にして、「信用創造」と「利子」の力でどんどん増えていく。かたちあるものはいつか滅び、土へ還るのが、自然界の抗いがたい法則なのに、おカネはそもそも、そこから外れ、どこまでも増え続ける特殊な性質をもっている。そのおカネの不自然さが、社会にさまざまな問題をもたらしていると、エンデは考えたわけだ>

興味深いのは、著者のパン屋開業までのエピソードを読んでいるだけで、マルクスやエンデの見解を理解し、われわれの生き方のヒントが手に入るように工夫されている点。

正直、提案している「腐る経済」「利潤を出さない経営」は、コンセプトが曖昧で、まだまだ実験段階という印象を受けますが、資本主義の欠点を知る上で、参考になる一冊だと思います。

現実的な話をすれば、結局著者も利潤の必要性を謳っているわけですし、また著者の考えだと不測の事態や設備投資が必要な時に会社が立ち行かなくなるリスクがあります。

また、これから地方で手に職持って働こうという向きには、著者がルヴァンのような名店で修行したという事実を忘れないでいただきたいと思います。

ただ、そういったことを差し引いてなお、本書には読む価値があります。

資本主義の本質を知ることで、それととことん付き合うか、すんなり決別するか、自身の生き方を問い直す良いきっかけになると思います。

ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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資本主義は、矛盾に満ちている。「腐らない」おカネが、資本主義の矛盾を生みだしている。それならいっそ、お金や経済を「腐らせて」みたらどうなるだろうか?

肥料を与えられない作物は、生きるために、土から養分を得ようと必死で根を深く張る。作物自身が、内に秘める生命力を最大限に開花させて、必死で生きようとするんだ

外から肥料を与えられて無理やり肥え太らされた生命力の乏しいものは「腐敗」へと向かう

土壌が痩せると、作物が自分の力で育つことができなくなり、肥料が欠かせなくなる。それと同じで、地域が痩せると、地域の経済を自分たちの力で育てることができなくなり、「外」から何かを足し続けなければならなくなる。「食」の世界と同じ悪循環が生まれているのだ

「労働者が自分の生産手段を私的に所有していることが小経営の基礎であり、小経営は、社会的生産と労働者自身の自由な個性との発展のための一つの必要条件である」(マルクス)

1957年に1038万人いた自営業主(個人事業主)は、2012年にほぼ半減、561万人にまで減少している(総務省統計局 労働力調査)。就業者数に占める割合で見ると、1957年の24.2%から、2012年には10%を切り、わずか9%。戦後の高度経済成長期以
来、ものすごい勢いで減ってきている

労働者が生みだした分は、労働者にきっちり渡せば、「利潤」と無縁でいられる

「商品」を丁寧につくることと同じく大切なのが、「商品」をきちんと人に届けるということ。人に届かなければ、丹念につくった「商品」もなんの意味もない

法隆寺は、不揃いの部材でできている。不揃いな木の特性をうまく活かして、建物全体が強くなるようにする組み方を考えるのが大工の仕事だと小川氏は言う(小川氏は宮大工)

「人生は一杯の酒に如かず」。懸命に働いたあとの美味しい食べものと美味しい酒があれば、人は楽しく豊かに生きていけると思うのに、資本主義経済は、「腐らないおカネ」を増やすことに躍起になって、働くことと食べものをどんどん壊している

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『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』渡邉格・著 講談社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062183897

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◆目次◆

はじめに
第I部 腐らない経済
第一章 何かがおかしい(サラリーマン時代の話・祖父から受
    け継いだもの)
第二章 マルクスとの出会い(父から受け継いだもの)
第三章 マルクスと労働力の話(修業時代の話1)
第四章 菌と技術革新の話(修業時代の話2)
第五章 腐らないパンと腐らないおカネ(修業時代の話3)

第II部 腐る経済
第一章 ようこそ、「田舎のパン屋」へ
第二章 菌の声を聴け(発酵)
第三章 「田舎」への道のり(循環)
第四章 搾取なき経営のかたち(「利潤」を生まない)
第五章 次なる挑戦(パンと人を育てる)
エピローグ

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