【ポラロイド創業者エドウィン・ランドの物語】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4788908115
本日の一冊は、あのスティーブ・ジョブズが心酔し、「国宝」とまで呼んだ稀代の起業家、エドウィン・ランドの物語。
偏光板のエキスパートとなり、自動車のヘッドライトのしくみやポラロイドカメラなど、数多くの発明を成し遂げたランドが、一体どんな人間で、どんな理想を抱いていたのか。じつに興味深い読み物です。
本書によるとランドは、いわゆる典型的な少年発明家で、自宅のヒューズを吹っ飛ばしたり、家の大事な品物を分解したり、数多くの失敗をやらかしたようです。
また、特に知的な家庭で育ったわけでもないのに、物理学者のロバート・W・ウッドの著書『Physical Optics』(物理光学)にハマり、偏光についての章を重点的に読んだそうです。
そんなランドが、生涯抱えていた理想は、以下の通り。
<自分にしかできない面白い科学をやれ。もしそれが「明らかに重要で不可能に近い」ものなら、きっとやりがいがある。そして、金持ちにだってなれるかもしれない>
<する価値のあることを夢想し、すぐさま実行に移し、批判も葛藤もお金も家庭も気にしなくていいとしたら? 次に何をすべきかだけを事細かに考えられるとしたら? それはすばらしい夢だ>
こうした生い立ち、思想を知るだけでも興味深い話ですが、本書にはそれ以外にも、ヒット商品の条件、カリスマ企業が凋落する理由など、数多くの読みどころが存在します。
ヒット商品のヒントとして、本書には、ポラロイドカメラに備わっていた、不思議な魅力についてのコメントが紹介されています。
「ポラロイドにはふつうのカメラにはない被写体と撮影者の関係がありました。一種の親密さです。私たちは親密さをポラロイドの大きな特徴のひとつと感じていました。寝室の写真が売上の何パーセントを占めているかという調査は、見かけたためしがないですけど」(同社コーポレート・コミュニケーション担当 サム・ヤネス)
この親密さのほかにも、ポラロイドカメラには、明らかに他のカメラにない楽しみがありました。
こちらは、おそらくほとんどの方が記憶にあるのではないでしょうか。
<サンドイッチ状の小さな紙の中で現像が行なわれ、しばらく待ってから紙を引きはがすタイプの旧型のポラロイド・カメラには、これとは違った人間同士の温かい交流がある。写真に液体が染みこむ間、撮った人と撮られた人にはちょっとした雑談を交わす暇がある。写真ができあがったら、プレゼントとして渡してもいいし、部屋のみんなに回してもいい。こんなに社会的(ソーシャル)な写真撮影はほかにない>
こういったヒット要因は、競争過多の現在にあって、商品開発の大きなヒントとなるはず。
しかし、残念なことに、そんな優れた商品も時代の波には勝てず、いや勝てたかもしれないのだけれど、組織の失敗によって、ポラロイド社は、闇に葬られるのでした。
本書には、その悲劇的なラストまでが書かれています。
理想的な商品とは何か、理想的な職場とは何か、そして成功する経営者にはどんな資質が求められるのか。
いろいろと考えさせられる一冊でした。
これはぜひ、読んでみてください。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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サンドイッチ状の小さな紙の中で現像が行なわれ、しばらく待ってから紙を引きはがすタイプの旧型のポラロイド・カメラには、これとは違った人間同士の温かい交流がある。写真に液体が染みこむ間、撮った人と撮られた人にはちょっとした雑談を交わす暇がある。写真ができあがったら、プレゼントとして渡してもいいし、部屋のみんなに回してもいい。こんなに社会的(ソーシャル)な写真撮影はほかにない
自分にしかできない面白い科学をやれ。もしそれが「明らかに重要で不可能に近い」ものなら、きっとやりがいがある。そして、金持ちにだってなれるかもしれない。生涯を通じて、ランドはアメリカで535の特許を取得した
彼は物理学者のロバート・W・ウッドの著書『Physical Optics』(物理光学)の1911年版をどこからか手に入れ、野球のデータを丸暗記する子どものように読みふけった。彼が特に夢中になったのは、偏光についての章だった
彼はすぐに解決策を思いついた。水平にスリットが入った偏光板を両側のヘッドライトに付け、垂直にスリットが入った偏光板で車のフロント・ガラスを覆うのだ。すると、運転手には対向車のヘッドライトがほとんど真っ暗に見えるが、自分のヘッドライトは道路をいつもどおりに照らす。かなりの名案だ。80年がたった今でも、これ以上の解決策は発見されていない
「する価値のあることを夢想し、すぐさま実行に移し、批判も葛藤もお金も家庭も気にしなくていいとしたら? 次に何をすべきかだけを事細かに考えられるとしたら? それはすばらしい夢だ」(ランド)
アーティストがポラロイドを発見しはじめただけではない。ポラロイドの方からもアーティストに近づきはじめた。美術史の知識と美にこだわる上司を持ったメロエ・モースは、製品を最高に引き立たせてくれるアーティストを支援してはどうかと考えた
ポラロイド・カメラを使えば、レンズの前で何が起きても現像の担当者に見られなくてすむ。このことに誰が初めて気づいたのかはわからないが、ひとつだけ確かなのは、それがだいぶ早い時期だったということだ
ポラロイドの関係者に、どこで歯車が狂いはじめたのかと訊ねてみるといい。1980年代のどこかだろうか? それよりも前? あと? 人によって答えはさまざまだ。頭の固いエンジニアを責める者もいれば、財務的なミスを責める者もいる。中にはコダックの訴訟を挙げる人だっている。未来を想像できる頭脳の持ち主たちが、過去をほじくり返すのに時間を取られてしまったからだ
20年の距離を置いてこの出来事を見ると、心が痛む。というのも、ポラロイドはまたもや消費者の度肝を抜くものを生み出していたからだ。しかし、デジタルに移行すれば、会社のその他のすべての技術が時代遅れになる。それがみんなを怖じ気づかせた
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『ポラロイド伝説』クリストファー・ボナノス・著 実務教育出版
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4788908115
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◆目次◆
第1章 光とビジョン
第2章 開発
第3章 今すぐに見る
第4章 スウィンガーに会おう
第5章 究極の表現
第6章 フェードイン、フェードアウト
第7章 「私たちの知性」
第8章 闇へ
第9章 そして再び……
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