本日の一冊は、幸いにして、現在24時間以内発送可能(執筆時)で、しかも内容も優れた一冊です。
著者は、東京学芸大学教育学部の教授、山田昌弘さん。今回の著書では、今後日本が直面する、将来に希望が持てる人と、持てない人が分裂した社会「希望格差社会」について、警鐘を鳴らしています。
先日ご紹介した『「人口減少経済」の新しい公式』でも述べられていた通り、今後、日本経済が縮小していくのは避けられない傾向です。それに伴って、いわゆる「勝ち組」と「負け組」の貧富の差が拡大するわけですが、著者が問題にしているのはまさにこの点です。
参考:『「人口減少経済」の新しい公式』
http://tinyurl.com/53zqq
これまでも、雇用とその影響について論じた書はありましたが、その多くが、極端にマクロな話か、ミクロのうちでも本当に一部だけにスポットを当てた、偏ったものでした。
本書は、将来に希望を持てなくなった人々のボリュームとメンタル面、そしてそれが社会にもたらすインパクトを冷静に論じたという点で、これまでにはない一冊と言えそうです。
さっそく、その中身を見てみましょう。
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■ 本日の赤ペンチェック ※本文より抜粋
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■今後の社会に起こり得る変化
・リスク化
・二極化
・希望の喪失
自由で人生の選択が可能な社会とは、逆に、選択に伴う新たな危険に出会う可能性がある社会なのである。つまり、選択の結果、人並みの生活すらできなくなる可能性が生じる社会でもある。
自己実現ができずに、状態が悪くなったとしても、誰のせいにもできない。つまり、「自己責任」概念が発生する。自己責任は、個人の感情状態に相当の負荷をもたらす。
同時に、自己実現の強要という事態も現れる。リスクをとることが賞賛されるとなると、リスクをとらないでいること、自分の理想をもたないこと、目指さないこと自体が非難されるものとなる。
自由化論者は、選択に対して自己責任をとらせる傾向が強まる社会になると、将来設計について戦略的に考える人々が増え、社会が活性化するという仮説を立てる。(中略)しかし、リスク化が進み、自己責任が強調されると、自由化論者が想定した結果とは、逆のことが起き始めている。それは、「運頼み」の人間の出現である。
■「実力=生活水準の格差」の問題点
1.親の格差による間接効果
2.性役割分業社会――男性の稼ぐ能力に女性は従属
3.弱者の出現
社会秩序にとって問題なのは、格差が納得できるかどうかであって、その際人々が意識するのは、質的な、ステイタスの格差
■現代日本社会における二極化現象
1.職業に質的な格差が出現し、拡大している
2.自分の仕事能力によらない生活水準の格差が出現、拡大している
格差と人々の意識の関係は微妙である。過度な平等は、能力のある人のやる気をなくす。一方、近代社会においては、「生まれ」といった、能力が関係のない要因による格差拡大は、同じく能力のある人のやる気をなくす。また、あまりに能力による格差が強調されると、能力のない人のやる気をなくす。
二極化する仕事を前にして、企業は、雇用行動を変えざるを得ない。それは、専門的・創造的労働者は、企業に必要な中核的労働者として、自社で育て、抱え込み、長時間働かせようとする。しかも、他の企業にとられないように、給与を上げざるを得ない。一方、代わりが効き、マニュアル通りに働けばよい単純労働者、サポート労働者は、コストを下げるために、派遣社員、アルバイトに置き換えようとする。
職業は、人々にアイデンティティ感覚を与える。職業を通じて、社会から認められているという感覚を得、生きる糧にしているのである。そのような感覚から疎外された人が大量に出現すると、社会にとって不安定要因となることは間違いない。
「サラリーマン―主婦型家族」からはみ出るケース
1.家族形成を控えてリスクを回避する人の増大
2.リスクに陥り人並みの生活ができなくなる家族の出現
パイプラインのリスク化と二極化がもたらすもの
1.学歴に見合った職に就けなくなるリスクの増大――「不安感の広がり」
2.あきらめる機会がなくなる――「過大な期待の広がり」
3.「勉強して上の学校に行くことが将来の豊かな生活をもたらす」という期待が失われる
希望の問題は、個人だけの問題ではなく、社会全体の「活力」や「健全さ」そして、「社会秩序」に関わってくる。そして、希望をもつ人が多い社会は、発展し、活力がみなぎるだろう。一方、絶望する人が多い社会は、停滞し、堕落し、「社会秩序」が保てなくなるだろう。
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フリーターや女性についてのコメントは当事者から反感を買う危険性もありますが、データに裏づけされた考察は、非常に読み応えがあります。明日の日本社会に起きる変化を予測する上で、貴重な一冊と言えるのではないでしょうか。
というわけで、本日の一冊は、
『希望格差社会』
http://tinyurl.com/6snog
です。議論そのものは堅いですが、文章は比較的読みやすく、ところどころに図やグラフ、そしてなんと漫画まで挿入されています。食わず嫌いせずに、ぜひ読んでみてください。
おそらく雇用関係の書籍では、今年のベスト5に入る本ではないかと思います。
■目次■
1.不安定化する社会の中で
2.リスク化する日本社会――現代のリスクの特徴
3.二極化する日本社会――引き裂かれる社会
4.戦後安定社会の構造――安定社会の形成と条件
5.職業の不安定化――ニューエコノミーのもたらすもの
6.家族の不安定化――ライフコースが予測不可能となる
7.教育の不安定化――パイプラインの機能不全
8.希望の喪失―リスクからの逃走
9.いま何ができるのか、すべきなのか
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