【ハイデガーの哲学をストーリーで学ぶ】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478114315
本日ご紹介する一冊は、極めてユニークなタイトルの本。
じつはこれ、ハイデガーの哲学を、物語で学ぼうという試みなのです。
編集者によると、作家の飲茶さんとタッグを組んで構想2年、執筆・編集に3年かかった力作らしく、確かに読み応えがあります。
「残念ながら王子、あなたは明日死にます」
物語では、主人公の「オスカー王子」が余命1カ月の宣告を受け、そこから人生を深く考え始める。
そこにハイデガーの哲学を説く、哲学者の老人が現れるという設定です。
老人は、死を前にして狼狽する王子に、こう語りかけます。
「自分の死期を知らされるなんて、おまえはとてつもなく幸福なやつだな」
高齢化社会に伴って、長生き本がベストセラーとなり、最近では80歳本、100歳本も売れていますが、どんなに長生きしたところで、死は必ずやってきます。
なるべく長く生きたい、なるべく多くを獲得したいと考える人生は、以前ご紹介したバタイユが言うように、結局は貧しさに行き着くのです。
<人間が有用性の原則の前に屈するようになると、人間は結局は貧しくなる。獲得する必要性、この貪婪さが、人間の目的になる──人間の巨大な活動の終局であり、目的になってしまう>
『呪われた部分 有用性の限界』ジョルジュ・バタイユ・著 筑摩書房
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480087478
では、ハイデガーは、人生をどう捉えていたのか?
一般的なイメージでは、ハイデガーは「死とは何か?」「人間とは何か?」を問いかけた哲学者として有名ですが、本書によると、実際のところ彼が哲学のテーマに選んだのは、「存在とは何か?」でした。
ハイデガーは、「存在とは何か」を考えるために「人間とは何か」を問いかけ、「人間とは何か」を考えるために「死とは何か」を問いかけた。
とはいえ、物語の老人は、ここで安易な結論に至ることを許しません。
老人は、こう言います。
「(前略)ハイデガーの哲学を正しく理解したいと思うのであれば根気強く段階を踏まなくてはならない。そうしないで結論だけを聞こうとするなら、せいぜい『人間は死ぬから、人生が輝くのだ』くらいの見せかけの理解しか得られないだろう。そんな口当たりの良い、上っ面の知識を、おまえは欲しいわけではあるまい」
ここからいよいよ存在の話になるのですが、これが深い。
ぜひ以降は、本文を読んで、ディープなハイデガーの世界に浸ってください。
きっと、良い人生を生きるためのヒントが得られると思います。
さっそく、気になるポイントを赤ペンチェックしてみましょう。
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たいていの人間は、自分の死期を知らずに死んでいく。そうした可能性が高いなか、おまえは死期を事前に知らされ、死について考える機会を与えられた。これが幸福でなくてなんだというのだ
その絶望に気づくことで、おまえの人生に新たな可能性が生まれる。『本来的な生き方』にいたる道が開かれるのだ
基本的におまえたち人間は、今示した例のように、存在しているモノを、部分に分割しその構造を明らかにすることで理解しようとする思考の癖を持っている。だが、見ての通り、こうした説明では決して『ある』の説明にはならない
「存在」とは、思考の土台である
たしかに人間には素晴らしい認識能力、思考能力がある。それにより物理法則や論理規則を知り、世界を正確に把握することができる。だが、それだけでは、規則通りにモノが動くだけの機械的な世界観しか生じず、そこには人間が生きる尊厳も意味も決して見つかることはない
人間に尊厳というものが、もしもあるのだとしたら、それは『機械的な世界観の外側』--『枠の外側』にしかない
むしろ哲学の仕事は『世界には説明できないものがある』ということを示すことで、枠の外側--機械的な世界観を超えた新しい可能性--を指し示すところにあるのだ。だから哲学者は、哲学をすればするほど世界から『説明できないもの』を見つけ出さなくてはならない
目的は連鎖しており、『何のためか』を問いかけることでその目的の根源へと遡ることができる。ならば、無限に目的を遡った先には何があるか。それは『自分自身』だ
たしかに自己の道具化は社会を動かすためには必要なことなのかもしれない。だが、それは人間の『本来的な生き方』だと言えるのだろうか?
『道具として見る』とは、対象の可能性を問いかけ、『それが何であるか?』を選択する行為だと言える。それを人間は自分自身に対しても行うことができる。つまり、人間は自分自身の可能性を問いかけ、『自分が何であるか?』を選択できる生き物なのだ
『死』だけが、おまえが交換できない『かけがえのない存在』であったことを思い出させてくれる
今この瞬間も「死」を覚悟して生きよ
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ハイデガーの哲学について、教科書的なレベルでは理解していたつもりでしたが、これは深い。
最近、土井は言葉の仕事をしながら、言葉の限界を意識することが多かったのですが、本書の教えは、それとピッタリ符合しました。
生きることに迷う、すべての人におすすめしたい一冊です。
ぜひ、読んでみてください。
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『あした死ぬ幸福の王子』飲茶・著 ダイヤモンド社
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◆目次◆
序 章 宣告
第1章 死の哲学者
第2章 現存性
第3章 道具体系
第4章 本来的生き方
第5章 死の先駆的覚悟
第6章 良心の呼び声
第7章 時間(被投性と企投性)
第8章 世界的存在
終 章 幸福の王子
エピローグ
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