【巨大ビジネスの歴史と今】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492681493
本日ご紹介する一冊は、フィンテックの隆盛により、かつてないほど注目を浴びている、決済に関する本格論考。
著者は、マッキンゼー・アンド・カンパニーの元パートナーで、2012年から2019年まで、クロスボーダー決済ネットワーク、スウィフトのCEOを務めた、ゴットフリート・レイブラント氏と、同じくスウィフトの元コーポレート・アフェアーズ責任者で、元ジャーナリストのナターシャ・デ・テラン氏です。
この無機質なテーマとは裏腹に、本書では、お金や決済を巡る攻防の歴史、今後の行方を、じつにエキサイティングに描き出しています。
決済を成り立たせている、「リスク」「流動性」「テクノロジー」「ネットワーク」「慣習」のすべてに触れ、なぜ旧来の銀行が窮地に立たされているのか、鼻息の荒いテクノロジー企業がなぜ未だ覇権を握れていないのか、なぜある国で成功した決済システムが他国で機能しないのか、事例を交えながらその本質的な理由を解き明かしています。
Visaの前身であるバンカメリカードが発明したインターチェンジフィーの仕組み、アメックスが生み出したプラスチックカードとそれに続く磁気ストライプの誕生、ペイパルとモバイルウォレットの登場、ヨーロッパを席巻するデビットカードと中国独自の銀聯カード、アメリカの小切手文化、ケニアで普及したエムペサの仕組み、中国のリテール決済を支配するアリペイとウィーチャットペイなど、世界の決済の歴史と今が学べる、生きた教材です。
また、決済につきもののリスクとチャンス、当局がそれにどう対応しようとしているか、ニュースを読むだけではわからない裏事情がよくわかる内容です。
スタートアップ勃興の物語でもあり、決済ビジネスのプレイヤーの横顔と、彼らの成功の要因がよくわかる、起業家、投資家必読の一冊でもあります。
400ページを超える厚い本ですが、あまりに面白くて、最後まで一気に読んでしまいました。
ユーザーとして、また経営者として、決済とどう賢く付き合えばいいのか、有用な視点が得られる一冊でもあり、まさに『教養としての決済』と呼ぶにふさわしい一冊です。
さっそく本文のなかから、気になったところを赤ペンチェックして行きましょう。
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お金は、社会が先史時代の部族の規模を超えて機能することを可能にした、三つの重要な抽象概念のうちの一つであると言われている。(残りの二つは宗教と文字である)
二百ヶ国以上のおよそ二万五千の銀行が決済にたずさわっているが、国境を越える決済のほとんどはわずか十五の銀行のいずれかを介している
決済は、リスク、流動性、テクノロジー、ネットワーク、慣習から成る。銀行は最初の二つを得意としているが、その次の二つに関しては平均的であり、最後の一つに関しては他の誰よりも不得手である。テクノロジー企業は、いわば銀行を反転したような存在である。テクノロジーとネットワークは大得意で、慣習を創り出すことにも長けているが、リスクと流動性に関しては何の専門知識ももたない
法律上の省略表現では、決済とは「負債を免除する方法」
決済をおこなうためには、適切な種類の、適切な場所にあるお金が必要である。船や城を所有することは素晴らしいが、それを店での支払いに使うことはできない。流動性が鍵なのだ
リテール行動を変えることは簡単ではない。だからこそ、成功をおさめている決済イノベーションのほとんどは、既存の慣習をベースにしている
ペイパルが導入した「エスクロー」(第三者預託)口座システムによって、消費者がカード決済をおこなった後、商品が消費者に届くまでは[第三者(ここではペイパル)が]その資金を預かっておくことができるようになった
アメリカではカード負債がGDPの四・八%であるのに対して、中国ではGDPの七・五%にあたる
QRコードの場合は、消費者は(携帯電話を通じて)オンラインである一方、業者側はオフラインでも構わない
クロスボーダー決済のスタートアップ「トランスファーワイズ」
オンラインショッピングの世界でスクエアに相当するのがストライプ
米ドルの支配が崩れる二つのシナリオ
・世界唯一の準備通貨としてのドルの地位の崩壊が加速すること
・制裁対象の取引に対する代替支払手段が開発されること
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決済の歴史についてはあらかた知っていましたが、仕組みやテクノロジーの詳細まで書かれた本は初めて読みました。
今まで漠然と付き合ってきた決済が、一気に身近になる、面白い読み物です。
フィンテックに投資を考える投資家にとっても、興味深い内容だと思います。
ぜひ読んでみてください。
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『教養としての決済』ゴットフリート・レイブラント、ナターシャ・デ・テラン・著
大久保彩・訳 上野博・監修 東洋経済新報社
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◆目次◆
はじめに 身近で、強大で、よく知らない「決済」
I 世界は決済で回っている
II 決済の歴史
III 決済の地理学
IV 決済の経済学
V ビッグマネー
VI テクノロジー革命
VII 決済の政治と規制
エピローグ 次はどうなる?
謝辞
参考文献
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