【異才研究者集団が見た、人類のこれから】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4396616783
取材活動を通じて、ソニーの平山照峰さん、ソニーコンピュータサイエンス研究所所長の北野宏明さんにお話を伺ったことがありますが、初対面の印象は、お二人とも「変態」でした。
常人が想像もできないことを空想し、問題の本質を的確に捉え、結果を出すために尋常ではない努力をする。
やっぱりソニーの研究者、開発者は今でもすごいのです。
本日ご紹介する一冊は、そんなソニーの異才研究者集団、「ソニーコンピュータサイエンス研究所」のメンバーが、どんな未来を妄想しているのか、20人のビジョンと研究テーマ、哲学を紹介したオムニバス形式のインタビュー集です。
AR(拡張現実)の生みの親である暦本純一さん、ピアニストの身体動作を研究し、「音楽演奏科学」という学問領域を確立することを目指す古屋晋一さん、高い生物多様性と生産性の向上を同時に目指す「協生農法」を研究する舩橋真俊さん、拡張された現実と身体感覚・制御との境界を切り開く笠原俊一さんの思想はとりわけ強烈で、ぐいぐい引き込まれました。
これから研究者、エンジニアになりたい人はもちろんですが、社会にインパクトを与えたい起業家、商品開発者が読んでも刺激になります。
拙著『一流の人は、本のどこに線を引いているのか』で紹介した「11の読書戦略」に、<著者は「一流の変態」を選ぶ>というのがありましたが、まさに本書は、変態集団のクレイジーな思想に触れられる、超バリューの高い一冊です。
※参考:『一流の人は、本のどこに線を引いているのか』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4763135864/
さっそく、本書の中から気になったポイントを赤ペンチェックして行きましょう。
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◆ソニーコンピュータサイエンス研究所の3つの研究領域
1.グローバルアジェンダ
2.Human Augmentation(HA)
3.サイバネティック・インテリジェンス
高度な眼鏡を持った医師は、持っていない医師より手術の能力が高い医師になれる。これが人間拡張(ヒューマンオーグメンテーション[HA])という考え方(暦本純一)
空想は科学に挑戦し、科学は空想を刺激する(暦本純一)
最近手がけているテーマの一つとして、SottoVoce(ソットヴォーチェ)という、声を出さずに音声インタフェースを実現する研究があります。最近、音声で動く装置が急速に増えてきていますが、公共の場での利用には制約があります。そこで、口の動きだけから、つまり口パクから音声を推定しようというものです。舌や口の動きを顎の下に取り付けた超音波エコーセンサーで取得し、それをニューラルネットワークで解析します(暦本純一)
感性や音楽性や音楽理論を中心とした音楽教育として、音楽学や美学などの研究が以前から活発に行なわれてきました。それに対し、心身の機能やスキルを体得する身体教育は、研究基盤が確立されていない(古屋晋一)
長年の練習でスタイルを培ってきたピアノの先生は、実際の動きとは違うことを言うこともあります。このタイミングで手首を回しなさい。その言葉とともに先生が行なっているのは、肩関節を回す動作です。手首は、肩関節が回転することで受動的に回されている。つまり、先生は手首が「回っている」ことを「回している」と表現していますが、それは間違っていて、ピアニストが制御しなければならないのは肩関節なのです(古屋晋一)
協生農法は、非常に多種類の野菜や果樹など有用植物を混生・密生させて全体として強い生態系をつくり、土地を耕したり肥料をあげたり農薬を撒いたりしない。これまでの農業の常識を一変させる新しい農法です。これによって生産性の向上や生物多様性の回復、砂漠の緑化という成果をあげています(舩橋真俊)
そもそも近代化自体が、実体的な価値から乖離した貨幣の発明によって膨れ上がった資本主義の外部不経済を植民地支配によって打ち消そうという政治力学ですから、有限な地球の上で生きていくには根本的な欠陥があるシステム(舩橋真俊)
「あれ? 俺って何だろう」
「俺の身体のはずなのに、俺じゃない」
人間が自分を自分だと思うことは、自分を知覚していることにほかなりません。でもテクノロジーによって、こんなにも簡単に「自分とは何か?」が揺らぐことがわかった。(中略)テクノロジーによって人間の知覚をコントロールして人間の内部に入り込めるのではないかという強い勘が働きました(笠原俊一)
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未来を予想するためには、サイエンス本と歴史書が効く、と個人的に思っているのですが、本書はまさにコロナ後の世界を想像するのにピッタリの本です。
ソニーコンピュータサイエンス研究所の所長、北野宏明さんは「はじめに」でこう書いています。
「未来とは、過去の延長ではない」
「世の中はたった一人のイマジネーションと行動から変えることができます」
日本を代表するトップ研究者たちによる、珠玉のインタビュー集。
これは必読の一冊ですね。
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『好奇心が未来をつくる』
ソニーコンピュータサイエンス研究所・編 祥伝社
<Amazon.co.jpで購入する>
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◆目次◆
はじめに 北野宏明
1 暦本純一
未来の“自然”を呼び込むインベンターであり続けたい
2 古屋晋一
ピアニストの身体動作の研究を通じて「文化が進化し続ける世界」をつくる
3 茂木健一郎
好奇心以外に、人類の旅の行き先を決める手段はない
4 吉田かおる 研究は麻薬のようなもの
5 高安秀樹 理論物理学を人工知能に構築できれば、科学のあり方は抜本的につくり変えられる
6 アレクシー・アンドレ 人はもっと面白がれるはず
7 ミカエル・シュプランガー
どうしたら、人間のインテリジェンスの「コア」を備えたマシンの再構築ができるか
8 大和田茂 機械と人間の関係を考える
9 舩橋真俊
テクノロジーは人の苦しみを取り除く手段。幸福論を持ち込むべきではない
10 竹内雄一郎
分散した知識で街を編集するWikitopia
11 笠原俊一
無意識な知覚をコントロールできたら、自分は自分をどのように認識するのか
12 フランク・ニールセン
情熱だけで研究をする。幾何学とは、そうした研究者しか続けられない分野である
13 遠藤謙
エンジニアとしての楽しみとは、ユーザーに使われ、機能し、喜んでいる姿を見ること
14 桜田一洋
心で心を思う──他人の心を了解することから始まる新しい社会を目指して
15 佐々木貴宏
仮想世界のシミュレーションで、「現実社会」をより良くする
16 磯崎隆司 物理学と統計科学の融合を
17 吉田由紀
小さな解明が積み重なれば、いつか全体像がわかるはず
18 山本雄士 病気にさせない医療を実現する
19 ナターリア・ポリュリャーフ
美しさは自由を獲得するツール。奴隷を育てない社会へ
20 北野宏明 自ら越境していくことで未来が拓けていく
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