2020年4月1日

『三度目の日本』堺屋太一・著 vol.5486

【堺屋太一が見ていた、日本の未来】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4396115717

本日ご紹介する一冊は、通商産業省(現在の経済産業省)時代に大阪万博を成功させ、予測小説『団塊の世代』でミリオンセラーを出した、故・堺屋太一氏による遺作。

氏が見ていた日本の未来を描いたもので、コロナショックの真っ最中にある現在の日本にとっても示唆に富む内容です。

著者は、「はじめに──本当の危機がやってくる」でこう書いています。

<「一度目の日本」、すなわち明治維新後の日本は「強い日本」を目指した。「二度目の日本」である戦後は、「豊かな日本」を目指した。「敗戦」のたびに力強く立ち直り、前の時代とはまるで異なる価値観の下に再生してきたのが日本なのである。そこで私は「三度目の日本」を、「楽しい日本」にしようと提言する>

本書で著者は、明治維新、敗戦を経て変わってきた日本人の価値観を丁寧に読み解き、これからどんなことが起こるのか、どんな方向で日本を変えればいいのか、持論を説いています。

奇しくも、先日ご紹介した『金持ちだけが持つ超発想』で、藤田田さんが述べていたことと重複しています。

※参考:『金持ちだけが持つ超発想』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4584139091/

<明治維新以後、日本のモットーは“富国強兵”であった。しかし、今や時代は変わった。これからは“富国楽民”の政策をとるべきである>

やはり天才には、未来が見えているもの。

こういう優れた知見を経営に活かすのも、経営者が成功するためのポイントです。

さっそく、本書の中から気になったポイントを赤ペンチェックして行きましょう。

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今、アメリカに「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領が現われ、イギリスはEU離脱という事態になっている。これはいったい何を意味するのか? まさに「規格大量生産の時代が終わった」ことを示しているのだ。規格大量生産の時代は、「水平分業方式」が前提だった。さまざまな国が得意なものを作る。自動車なら自動車、電気製品なら電気製品を作って、お互いに交流して取引するというのが水平分業である。この水平分業をどんどん進めるためには、市場が大きくなければならない

社会が安定するためには、まず、できるだけ人口は移動しないほうがよい。また、商品の移動も抑えなくてはならない、と考えた。どうしても自然の流れとして、生産性の高い地域に生産が集中し、人口が集まる傾向がある。そこで、できるだけ人口移動を抑えるため、人々の移動を制限しなければならない、と考えた。コストが高ければ人々は移動しない。コストを高くするためにはどうするか。道路交通を不便にすればいい、と考えた

社会を安定させるためには、すべての人に少しの満足と大きな不満を与える──これが徳川幕府の安定社会の作り方だった

天下泰平を価値観とする世では、優秀な人材とは「様式美を兼ね備えた人間」だった。それが江戸時代の美意識であり、倫理観だったのだ。様式美とは、蓄積された伝統を墨守することで成り立つ。つまり「変わらないこと」である

何が明治維新を達成させたのか。私はテロリズムだけではなかったと思う。やはり「天下泰平」という、それまでの倫理観に対する全国民的な反乱があったのではないか。それが社会の現象面で表出した好例がある。「ええじゃないか踊り」である

明治維新によって、「社会がいつまでも変わらない」ことがよいとされてきた従来の価値観が、いっぺんに変わった。すなわち「天下泰平」から「狂喜乱舞」へと変わる。やがて「富国強兵」と「殖産興業」になった

みんながみんな無責任だと、要は時流、大勢の官僚の合意、いわば「無責任な大衆」に流される。「時流」とは何か。時流を作るのは、その次代の倫理観なのだ

安全にはなった。しかし楽しみもまた減っているのである。(中略)安全を求めるがゆえの過度な厳罰化が人間の楽しみを奪い、地方都市の衰退を招いた

「では天国をやめて、地獄へ行けと言うのか」と問われるかもしれない。誤解を恐れずに答えれば、そのとおりである。「地獄」には「血の池」もあれば「針の山」もあるが、それだけに変化も刺激もある。「地獄の風」を日本に送り込むのも、この国のこれからを考えるうえでは、一つのチャンスと捉えるべきだ

私は、「三度目の日本」の価値観として、「楽しみを正義にしよう」と提唱したい

ロボットとAIがどういう世の中を作るのか。推理すれば、恐ろしく余暇時間の長い時間が出現するだろう

これからの日本人は、上達する楽しみを持たなければならない。第四次産業革命の進む世の中では、上達する楽しみを考えないといけないと思う

人間は、何かが上達したとしても、それを誰かに認めてもらわなければ、やはり意欲が湧かない。上達した成果をどこで表現できるか。それが問題になってくる

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終わりの方で、著者は2020年以降の日本について、こんな予言をしています。

<国際的に見ても、世界経済は伸び悩み、資源や食糧が供給過剰気味になる。輸入国の日本にとってはありがたい面もあるが、全体的に経済を冷え込ませるだろう。このとき、戦後の官僚主導が築いた、「東京一極集中」をはじめとする「五つの基本方針」の弱点が露わになる可能性が高い。二〇二〇年以後の危機を乗り越え、いよいよ「三度目の日本」を目指さねばならない>

さすがにコロナショックは織り込んでいませんが、方向性は変わらないのだから、知識人の洞察力というのは、恐ろしいものですね。

これからの日本を考える上で、極めて示唆に富んだ遺作です。

ぜひ読んでみてください。

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『三度目の日本』堺屋太一・著 祥伝社

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4396115717/

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◆目次◆

はじめに──本当の危機がやってくる
第一章 「二度目の日本」は、こうして行き詰まった
第二章 第一の敗戦──「天下泰平」の江戸時代から「明治」へ
第三章 富国強兵と殖産興業が正義だった
第四章 敗戦と経済成長と官僚主導
第五章 「三度目の日本」を創ろう

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