【CASE時代に、あの大企業は生き残れるのか?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093865612
本日ご紹介する一冊は、危機に瀕する架空の世界的自動車企業、「トヨトミ自動車」の物語。
前作『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』は、「99%実話」の噂で書店からたちまちなくなったといいますが、本書は「あの」巨大自動車企業が、CASE(コネクテッド、自動運転、ライドシェア、電気自動車)時代に生き残れるのか、同社の企業体質も含め、厳しい指摘をしています。
※参考:『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062196077/
あくまで小説とはいえ、トヨトミ自動車社長の肩書き、人間性含め、あまりにリアルな描写に、「一体どうやって取材したんだ?」と気になってオビを見たら、著者・梶山三郎の肩書きが、「覆面作家」となっていてさらに驚きました。
おそらく著者は、某大手自動車企業を取材したことのある記者なのでしょう。いや、ひょっとしたら、今も現役で取材し続けているかもしれません。
本書に出てくるトヨトミ自動車のトップ、豊臣統一は、レースが趣味で、自分に媚びへつらう記者や側近を重用し、社内の実直な技術者の意見を退け、将来有望な下請け企業の知的財産を盗んだ実態にも気づかない経営者として描かれていますが、これが本当にあの大企業の実態だとしたら、恐ろしいことです。
社名が「トヨトミ自動車」となっているのは、天下統一を果たしながらグローバルで負けた豊臣秀吉に同社をなぞらえているからか。
中国進出で遅れを取り、CASE革命の荒波に直面する同社を皮肉った場面が数多く登場します。
同社自身が抱える問題に加え、グループ企業、協力会社含め、さまざまな視点からこの自動車革命の時代を描いており、じつに読み応えのある内容です。
さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。
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“世界のトヨトミ”の裏側が垣間見える瞬間である。社長にゴマを擦り、忖度のうまい奴だけが重用されるという噂は、あながちデタラメではないのかもしれない。マスコミもマスコミだ。業績にあらわれてこそいないが、トヨトミには不安要素が数え切れないほどある。もちろん記者はそれを知っているが、指摘する者は誰もいない。これでいいのか、新聞記者って
トヨトミの歴代政権は例外なく担当の新聞記者や子飼いのフリーライターを抱え込んでいた。筋のいい、つまり敵に回すと厄介な記者には、スクープをリークして身内に取り込むと、シンパになった記者は頼まなくてもヨイショ記事を書いてくれる。しかし、一度報道された悪評を撤回させることまではしなかった。そこには「考えを広く報せる“広報”より、広く耳の痛いことも聴く“広聴”が大切だ」という、創業時から続くものづくり企業としての頑固なまでの謙虚さがあった
生き残るためにはカネを貯め込むのではなく、むしろ将来に備えて使わなければならない。事業が停滞して、カネがなくなってから投資しようとしてももう遅い
森さん! と宋は突然大声を出し、テーブルをがつんと叩く。「世界一の船だ。中途半端な覚悟の船員ならいらんぞ。こっちはあんたこそと思って声をかけとる。われわれの船に乗る気はあるんですか、ないんですか!」身が引き締まる。温和な顔だった宋が、今度はすごい迫力で迫ってくる。怒っているわけじゃない、おれを心から引き入れたいんだ。「森製作所の評判は聞いとります。すごい技術だ。とくにコイルの巻き線はどこにも真似ができない。ウチのプロジェクトは最高の技術を持った会社だけが必要なんです。金儲けなら他の人間でもできるが」
「ワインはいいな。古けりゃ古いほどありがたがってくれる」(中略)「だが会社は違う。社屋が古いのはいいが、中身が古くなると世間に見捨てられる」(中略)「中身が腐らないために一番いいのは新しい血を入れることと、衝突だ。出自も考えも違う人間同士がああでもない、こうでもないと侃々諤々。すると不思議と組織は古びないんだな」
「とくに寺内と笠原、それと林。擦り寄ってくる奴には注意しろ、おまえのような立場の人間に腹蔵なく近づいてくる人間はいない、と子どものころから口を酸っぱくして言ってきたはずだ。おまえはそれだけはわかっていると思っていたが」
「リーダーシップ、いや、あえて言う、独裁には技量と才覚がいる。おまえにはそれはない。耳に痛い意見を受け入れろ。本当に重用すべきはそういう人間だ」
「デジュール・スタンダード」とは、工業製品などにおいて、国や省庁など公的機関が性能や製造方法、生産のための技術などを定めた企画のことである。市場競争の結果として事実上の標準となった規格を指す「デファクト・スタンダード」の対極となる概念である。(中略)「公が作った基準にもとづいて市場競争が行われるならフェアなように思えるが、とんでもない。公が基準を作る前に取り入って自社に有利な規格を作らせ、他社、他国の競争優位を崩してしまえばいい。それがデジュール・スタンダードの裏のルールだ。のんびり規格ができるまで待っているようなバカは生き残れない」
「技術を伝えたら、すぐにその技術の上をいく。この姿勢が今の日本の製造業には必要なのではないでしょうか」
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トヨトミ自動車社長の失策や問題人事、女性スキャンダルにも言及しており、小説とはいえ、某社との関係を疑わざるを得ない問題作です。
昔、某社の関係者に直接話を聞いたところ、大手広告代理店には同社のスキャンダル記事をもみ消すための特別部隊がいるという話を聞きました。
本書には、その点も詳しく書かれています。
また、アメリカ大統領のトライブ、内閣総理大臣の岸部慎介、ワールドビジョンの宋正一、コスモ・モーターズのタイロン・マークスなど、同社を取り巻く人物も色とりどりに描かれていて、興味深い。
小説に登場する豊臣統一は、自らの過ちに気づき、改善しますが、果たして現実はどうなるか。
最後、「二〇二二年 三月」と書かれた第十章には、トヨトミ自動車の希望あふれる未来が描かれています。
日本のモノ作り企業、政治、メディアのあり方にも一石を投じる内容で、これはぜひ読んでおきたいところです。
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『トヨトミの逆襲』梶山三郎・著 小学館
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◆目次◆
序 章 朝回り
第一章 対立
第二章 不信
第三章 生きるか死ぬか
第四章 訪問者
第五章 大老の危機感
第六章 反乱
第七章 屈辱
第八章 元社長、かく語りき
第九章 失踪
第十章 暴挙か英断か
終 章 夜討ち
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