2019年2月25日

『会計の世界史』田中靖浩・著 vol.5222

【読むべし】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532322030

「ラクしてやせる」と「楽しく学ぶ」は、読書する人間の二大欲求だと思いますが、本日ご紹介する一冊は、「会計を学ぶのに、これ以上楽しい本はない!」と断言できる本。

知人いわく「漫談のように面白い講義」を行うことで有名な公認会計士の田中靖浩さんが会計の歴史をまとめたもので、どんな商売の必然性から現行の会計システムが生まれたのか、じつによくわかる内容です。

本書がすごいのは、会計と一見関係のない絵画や音楽、発明までもが会計と絡めて説明されている点。

なぜレオナルド・ダ・ヴィンチがメモ魔になったのか、偉大なる数学者ルカ・パチョーリが「最後の晩餐」に与えた影響、「粉屋の息子」レンブラントが金銭的にうまくいかなかった理由、ジョージ・スティーブンソンが蒸気機関車を作ったことが、会計にどんな影響を与えたのか…。

あらゆる教養を総動員して、会計の歴史と課題がわかるようになっており、ある程度経営や会計を学んだ人なら、これほど面白いエンターテインメントは他にないでしょう。

歴史やテクノロジーは必然から生まれるものだと思っていますが、本書には、会計が進化するのに当時どんな必然性があったのか、詳しい事情がよく書かれています。

同時に、本書は商売の栄枯盛衰を扱っており、経営者にとっては、ビジネスの勘所を養う良いトレーニングになると思います。

本書の面白さは「つながり」にあるので、赤ペンチェックでは良さを引き出しきれませんが、いくつか気になったところをピックアップしてみましょう。

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のちに「メモ魔」として有名になるレオナルド・ダ・ヴィンチですが、メモをとるには大量の「紙」が必要です。この点、父ピエロが公証人だったことは幸いでした。レオナルド少年は父の仕事場にあった紙を自由に使うことができたからです

当時、胡椒やシナモン、ナツメグなどはたいへんな人気がありました。高価で売れるうえに、かさばらない香辛料は商人たちにとってありがたい商品です。「冷蔵庫がなかった」当時、肉など痛みが早い食品を保存させ、あるいはニオイを消して香り付けするため、香辛料はなくてはならない存在でした(中略)高級サプリメントでもあった香辛料の取引を長い間にわたって独占したことがイタリア商人の強みだったのです

バンコは商人たちへ向け、「キャッシュレス」サービスを提供しはじめました。このサービスを利用すればキャッシュを持ち歩く必要がなくなります

イタリアの繊維産業は毛織物から麻・綿へと、時代とともに変化しています。こうした「内陸型・製造業」の繁栄は、新たな商売上の「組織」を誕生させました。貿易は「1回限り」で行われることが多いですが、繊維産業では同じ屋根の下に住む家族や仲間たちが長期的に製造を行うケースが増えてきます。こうした背景から、内陸都市では13世紀あたりから「コンパーニャ(compania)」と呼ばれる継続的に活動を行う組織が登場してくるのです

志を同じくする「仲間」であっても、一緒に商売を行うとさまざまな問題が発生しますが、そのなかでもっとも大きいのが「儲けの分配」をめぐる混乱です。仲間割れやケンカを避けるには「決算」で儲けを明らかにし、きちんと「分配」しなければなりません

アムステルダムの「市場」は、そこで成立した取引について「終値」情報を公表していました。品々がいくらで取引されたかを示す価格表(price list)──これは商品にとって喉から手が出るほど欲しい情報でした

バブルはクルシウス教授の「珍しい色のチューリップ」のごとく、新しいテクノロジーが登場した直後に発生することが多いようです

もっとカネをかけて安全かつ大砲を備えた強力な船をつくり、スペインとポルトガルをやっつけよう。船を往復させるだけでなく、インドに現地拠点をつくり、そこから商売を大々的に展開しよう(中略)そのために用意された組織がオランダの「東インド会社(VOC)」

利益率が下がる香辛料に固執する一方で、17世紀後半から人気の出はじめた「絹織物・綿織物へのシフト」を見失ってしまい、この分野をイギリスにとられてしまいました

バランスシートを読むときは「イギリスの金がアメリカの鉄道へ」を「右の調達から左の運用へ」と重ねてみてください。もう道に迷わないと思います

産業シフトによって「隠れた資産」が増加した

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簿記の登場から、株式会社の誕生、減価償却、連結決算、管理会計とファイナンスまで。

会計の発展の歴史と、押さえておくべき概念、指標がこれ一冊でスッキリ理解できる、じつに有用な一冊です。

厚さに読むのを躊躇する人が多いと思いますが、読み始めたら最後、もう面白くて止まりません。

ぜひ、読んでみてください。

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『会計の世界史』田中靖浩・著 日本経済新聞出版社

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◆目次◆

旅のはじめに 「会計の歴史ツアー」へようこそ
本書の構成
第1部 簿記と会社の誕生 3枚の絵画
第1章 15世紀イタリア 銀行革命
第2章 15世紀イタリア 簿記革命
第3章 17世紀オランダ 会社革命
第2部 財務会計の歴史 3つの発明
第4章 19世紀イギリス 利益革命
第5章 20世紀アメリカ 投資家革命
第6章 21世紀グローバル 国際革命
第3部 管理会計とファイナンス 3つの名曲
第7章 19世紀アメリカ 標準革命
第8章 20世紀アメリカ 管理革命
第9章 21世紀アメリカ 価値革命
エピローグ
旅のおわりに あとがきに代えて
参考文献

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