【ホリダシモノ】
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本日ご紹介する一冊は、日本看護協会出版局が出した、異色のナイチンゲール伝記。

ナイチンゲールといえば、「けがをした犬を世話するほどに情け深かった少女が、長じてけが人の世話をするようになり、時あって戦場でナースとして活躍するに至った」というのがお約束のストーリーですが、本書を読む限り、どうもそれだけではないらしいですね。

なぜナイチンゲールが有名になったのか、という興味深い切り口で書かれていたり、彼女を駆り立てたものが何だったのかという動機の視点で書かれていたり、それぞれの書き手が描き出す、ナイチンゲール像が色とりどりで興味深い。

素人が社会問題に首を突っ込む昨今ですが、ナイチンゲールがクリミア戦争で、こう言っていたのを知ると、ちょっと考えさせられますね。

＜未熟な熱意はかえって害になるだけで、また組織化されていない看護婦が大勢いると、かえって混乱を来たすことになる＞

また、ナイチンゲールを「強迫観念に駆られた女」「ナイチンゲールの仕事への欲求は、いまやほとんど躁うつ病と見分け難い」と述べた論者もいたようで、われわれのナイチンゲール像に少なからぬ影響を与えそうです。

多くの有名人と付き合っている土井からすると、有名になる人なんて、みんな多かれ少なかれ病気だと思うのですが（笑）、きっとこれでショックを受ける人って、いるんでしょうね。

さっそく本文のなかから、気になったところを赤ペンチェックして行きましょう。

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フローレンスは「ハンプシャーのエンブリー・パークとダービーシャーのリー・ハーストの広大な屋敷の主であるウィリアム・ショア・ナイチンゲール夫妻の末娘で、共同相続人」の一人である、と高貴な社会身分を伝え、「ギリシャ、ラテンの古典のみならず高等数学、芸術、科学、文学全般の知識」にも優れていて、「フランス語、ドイツ語、イタリア語を母国語と同じように流暢に話し」、旅行では「ヨーロッパ諸国のみならずナイル川の最奥の峡谷まで遡行した」という体験に基づく広い見聞を修めていた、という。ところがナイチンゲールはこうした高い階級の女性が志向する進路にはまったく見向きもせず、病人、弱者の救済に向かったのである

ナイチンゲールのもとに、クリミアの戦場から悲痛な叫びが伝わってきた。国民の間に救援に駆けつけようとする熱望が即座にわき起きたが、ナイチンゲールは「未熟な熱意はかえって害になるだけで、また組織化されていない看護婦が大勢いると、かえって混乱を来たすことになる」と危惧していた

若い頃のナイチンゲールは、一八〇〇年代におけるイギリス上流階級の女性に期待されていた行動規範と決定的に対立していたのだった。一八〇〇年代においてイギリス上流階級の女性に期待されていた行動規範とは何か。それは、対価を得る労働をしないこと、一貫した継続性のある事業に従事しないこと、余暇に遊興に耽ること、一生の伴侶を得て、近親者の世話に傾注することである

「世の中には、なんとしても成し遂げられねばならない事業というものがあるのです。……男女を問わず、人生における最高の幸福とは、自分の能力を最大限発揮できる機会を得て、そこにすべての時間を傾注できるところにあります」

「わたしには自由な時間があるので、世間のために何かをしてさしあげたい」などとお申し出になるご婦人にお目にかかることがあります。そういう方にわたしが忠告してさしあげたいのはこういうことです。まずはその事業にふさわしいだけの訓練をお受けなさい、男性がそうしているのと同じようにです。男性が携わっている事業にあなたも加わりたいのなら、女性の特権とやらいうものを求めてはなりません

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ナイチンゲールの話は、子どもの頃に読んだ典型的な話だけで終わっていたので、とても新鮮に感じました。

女性の活躍が叫ばれるなか、挑戦する女性たちに良い刺激を与える本かもしれません。

ぜひ、読んでみてください。

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『創造られたヒロイン、ナイチンゲールの虚像と実像』
中島俊郎、松野修、山崎麻由美、山中千恵、けいろー、岩田恵里子、
加納佳代子、宮本眞巳・著　日本看護協会出版会

＜Amazon.co.jpで購入する＞
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4818024201

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◆目次◆

フローレンス・ナイチンゲールと伝記　中島俊郎
ナイチンゲールはなぜ看護の道を選んだのか　松野修
伝記に描かれたナイチンゲール像　山崎麻由美
ヒロインの条件　山中千恵
“狂戦士”ナイチンゲール、現る　けいろー
「ナイチンゲール誓詞」に違和感を覚えますか？　岩田恵里子
創作講談でナイチンゲールを　加納佳代子
烈女フローレンス・ナイチンゲールから今に引き継がれる看護　加納塩梅
子ども向け伝記『ナイチンゲール』への取り組みを振り返る中で見えてきたこと　宮本眞巳
子ども向け伝記　ナイチンゲール　宮本眞巳