【トライアスロンに見る、成長の喜び。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4863390920
本日ご紹介する一冊は、社会学やキャリアデザインを専門とする研究者であり、トライアスリートでもある著者が、市民トライアスロン独自の現場感覚に、学術理論とを対話させるエスノグラフィーの手法により、その内的世界を浮かび上がらせた一冊。
先行き不透明な環境のなか、なぜビジネスパーソンがトライアスロンにハマるのか、その理由とトライアスロンで得られる達成感、成長、心理的充足について述べた、興味深い内容です。
かつて人々の自己実現の手段だったビジネスや仕事は、人々に絶対的な安心感、充足感をもたらすことができなくなりつつあります。
いまだマズロー的欲求段階説を想定している読者に、著者はこんなことを述べています。
<マズローが同理論を『人間性の心理学』において発表したのは一九五四年。当時から現代までの大きな変化は、社会・経済の流動性が著しく上昇し、「安住できる達成」は存在しなくなっている点だ。それが欲求段階説を部分的に無効化し、欲求サイクル的なものへと変貌している>
であれば、われわれは何を持って達成感や自己実現欲求を満たせばいいのか。
トライアスロンには、そのヒントが隠されています。
運動が得意ではなかったという著者が、トライアスロンの世界に足を踏み入れ、そこから何を得たのか。
著者の経験を追体験することで、何が人の幸せや充足感につながるのか、そのヒントが得られる内容です。
人がビジネスや仕事に没頭する要素を知る上でも、ぜひ読んでおくといいでしょう。
さっそく本文のなかから、気になったところを赤ペンチェックして行きます。
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世の中で何がおもしろいと言って、自分の力が日ましに増すのを知るほどおもしろいものはない。それは人間のもっとも本質的なよろこびの一つである。(三島由紀夫『実感的スポーツ論』一九八四)
新しい行動に「あるもの」を探るとは、同時にそれまでは「なかったもの」を探ることだから。この競技には何があり、現代社会には何が足りないのか
制約からの解放は同時に別の心理的欠落感を生むこともある
続けられる人というのは、何かしらの成長を、あるいは変化を、感じ続けている人だと思います。上方向だけでなくて、横方向だっていいんです。(二〇代男性)
過酷さの果ての達成感、という体験を共有することが、強い相互承認と希少性ある仲間意識も生んでいるよう思われる
筆者の仮説は、現代社会において「欲求」とは、マズローが想定した一方通行の「段階」ではなくなっており、常に達成されることなく循環し続ける、いわば「欲求サイクル」へと変質している
トライアスリートになると決意し、一度は下り坂に入った身体を作り直し、レースに参加することで、誰もが「プラスであり続ける主人公」となる
耐久スポーツとは、そんな現代人の欠落感に対し、どのような意味を持つのか。筆者の仮説の一つは、「努力の有効性」だ
初めての集団走行で気付いたのは、個人の限界って案外ないもんだな、ということ
忍耐にかわる新たなトレーニング哲学とはなにか。私の大づかみなイメージは、「波」だ。海辺に打ち寄せる波は、一度下がることによってしか、再び上がることができない
回復可能な範囲内に負荷をコントロールすることで大きく成長できる
フランスの哲学者ジャン=ポール・サルトルは、「現代人は自由という牢獄に囚われている」という言葉を残している。自由意思によってもたらされた苦痛と快楽が、今の私に等身大の生きられる身体を覚醒させるのだ
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読んでいて思ったことは、トライアスロンが現代の職場では満たせない「何か」を満たしているということ。
ここに、新たな働き方やキャリアのヒントがあるように感じました。
何が人をやる気や充足感を高めてくれるのか。考えるヒントを与えてくれる一冊です。
ぜひ読んでみてください。
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『覚醒せよ、わが身体。』八田益之、田中研之輔・著 ハーベスト社
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◆目次◆
第一章 身体のマネジメント
第二章 覚醒の過程
第三章 聖地への思考と戦略
第四章 ハワイ島コナ二二六kmの軌跡
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