【新しい時代の幸福とビジネスモデル】
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長崎県に古民家を買って住み始めてから、市場経済の大きな「穴」に気づきました。
都会に住んでいると、どうしても市場偏重の生き方にならざるをえないのですが、ここには、幸福になるための大きな落とし穴がいくつかあります。
まず1つ目は、すべての物が市場で売買されるわけではないということ。出会えばあなたを幸せにする材も、マーケットに載らなければ知りようがない、ということです。
そして2つ目は、われわれは価値が正しく価格に転嫁されていると思っていますが、実際には価格は需要と供給で決まる。つまり、価格が価値を正しく反映していない場合が往々にしてあるということです。
いまの日本では、旺盛な需要のほとんどは都市人口によるものであり、需要は知ることでしか生まれない。
とすれば、都市の人がよく知っているものは過大評価される一方で、都市の人が知らないものは、過小評価されている可能性がある。
ここに目をつけたのが、本日ご紹介する一冊『空き家幸福論』の著者であり、家いちば株式会社代表取締役CEOの藤木哲也さんです。
著者は、横浜国立大学の建築学科を卒業後、ゼネコンで現場監督、建築設計事務所で設計を経験。住宅デベロッパーを経て、不動産ファンド会社で不動産投資信託やオフィスビル、商業施設などの証券化不動産のアセットマネジメントにも携わった人物。現在は、全国の空き家物件をユニークな切り口で販売するサイト、「家いちば」を手掛けています。
本書には、経済原理を超えて売買され、かつ関わった人々を幸せにする、新しい時代の取引の事例がたくさん載っています。
廃業で放置されたガソリンスタンドを、大好きなバイクの整備拠点にした茨城県稲敷市の事例、「買ってくれれば味噌屋はやめます」と、土蔵付きで味噌工場を売り出した福島県喜多方市の事例など、ユニークな売買事例、活用事例がたくさん載っており、読んでいてワクワクします。
また、お金ではなく、買う人の人間性を重視する売買、自分のストーリーを引き継ぐ相手への引き渡し、残置物さえも価値とする広告など、これまでにない不動産売買の原理が見えてきて、じつに興味深く読ませていただきました。
さっそく、本文の中から、気になった部分を赤ペンチェックして行きましょう。
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タダでもいいと思っていた空き家に100万円以上の値段を付ける人もいたが、須藤さんはその中から、地域に溶け込んで地元の皆さんに教わりながら農業にチャレンジし、ゆくゆくは農業体験民宿をやりたいという夢を持っている人を譲る相手に選んだ。(中略)須藤さんが何よりも気にしていたのは「いい人」であるかどうかだった。この人になら安心して託せると思えるかどうか。価格は二の次だった
最終的には海外からの訪問者用に迎賓館のように使いたいと考える教会の牧師さんを買い手として選んだ。牧師さんの提示した額は高いものではなかった。しかし、いい人に買ってもらうこと、あの家がもう一度幸せな場所になることが、小川さんにとって高額で売れること以上に価値があったのだ
売るなら、家族や先祖はもちろん、ご近所や地域にも喜んでもらえる相手にという気持ちもよく聞く
家いちばの売れ筋は100万円前後から300万円くらいまでの「現金で買える」範囲の価格帯の物件
家いちばのサイトには、売主自身が書いた思いの詰まった文章が載っていて、それがとても好評なのだ。「買うつもりはなくても読んでるだけで面白い」と言われるくらいで、この文章が買い手の背中を押している。売り手の物語が買い手を動かしているのである
もう、プロの活用提案なんかいらないと思った。活用方法は無限にあるのだ。人の数だけあると言っていい。少なくとも「こうやって使うに違いない」という先入観をまず捨てる必要がある
よく「都会か田舎か」という二者択一を迫る言い方があるが、「都会も田舎も」両方のいいとこ取りをする選択もあるのだ
「売れない」とされていた空き家が、予想に反して売れているのだ。流通し始めればそれが所有者のみならず、地域や社会にもインパクトを与えていくはずだ
ストック活用こそは、低成長時代を迎える日本が、それでも豊かさを追求できる優れた方法となると考えている
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土井が買った古民家も、前のオーナーさんが「家を大事に使ってくれる人に」売りたいという意向があったそうですが、今後は、こういう個人の意思が売買に大きくかかわる経済になりそうです。
著者が経営する「家いちば」には、直接売買、信用経済ならではの取引原理が働いており、これからの新しい経済を考える上で、じつに興味深い事例だと思いました。
ぜひ、読んでみてください。
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『空き家幸福論』藤木哲也・著 日経BP
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◆目次◆
第1章 売っても買っても幸せになれる理由
第2章 空き家売買で幸福になれる仕組み
第3章 建築・不動産の矛盾から生まれた家いちば
第4章 空き家が動けば社会も幸せになる
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