【年内最後の一冊。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4106038609
2020年の最後を飾る一冊ということで、何にしようか悩んだのですが、今の日本にもっとも必要な、「寛容」を論じた名著を紹介します。
塩野七生さんは、名著『ローマ人の物語』の冒頭で、こんなことを書いています。
<知力ではギリシア人に劣り、体力ではケルトやゲルマン人に劣り、技術力ではエトルリア人に劣り、経済力ではカルタゴ人に劣るローマ人だけが、なぜ巨大な世界帝国を繁栄させることができたのか?>
この「なぜローマ人だけが」の理由の一つが「寛容」だったわけですが、ローマ同様、この寛容さをもって国を大発展させたのが、アメリカでした。
本日ご紹介する一冊、『不寛容論 アメリカが生んだ「共存」の哲学』は、このアメリカの寛容論のルーツに迫る一冊。
著者は、神学・宗教学が専門で、国際基督教大学人文科学科で教授を務め、プリンストンやバークレーでも客員教授を務める森本あんりさんです。
アメリカ「以前」の植民地時代に生きたピューリタンで、ロックより半世紀も前にロックより進んだ寛容論を唱えたロジャー・ウィリアムズの生涯を追い、アメリカが歴史的な寛容と不寛容のぶつかり合いを経て、現在の基盤を作るに至った歴史を紹介しています。
現在のリベラリズムが説く、理想主義の「寛容さ」とは一線を画す主張に、思わず目からウロコが落ちました。
知性とユーモア、そして人間愛にあふれた文章に、すっかり魅了されてしまった、2020年の最後を飾るにふさわしい一冊です。
さっそく、本文の中から、気になった部分を赤ペンチェックして行きましょう。
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「わたしはあなたの意見には反対だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」──ヴォルテール(一六九四─一七七八)のものとされる言葉である
二〇一八年に刊行された『現代日本の宗教事情』では、編者の堀江宗正が「世界価値観調査」のデータを用いて日本と他国を比較し、その惨憺たる結果を示している。指標に選ばれているのは中国、インド、アメリカ、ブラジル、パキスタンで、それぞれ無宗教、多神教、一神教など、多様な宗教情勢を抱えた国々である。日本は、細かな数字を省略して順位だけを記すと、「他宗教の信者を信頼する」人の割合では中国に次いで下から二番目、「他宗教の信者も道徳的」と考える人の割合が最低である
西欧社会でみなされた近代憲法には、集会・結社・言論・出版などの自由が謳われている。一見するといろいろな種類の自由に見えるが、歴史的な淵源をたどってみると、これはみな同じ一つの自由に帰着する。それが「信教の自由」である。たとえば「言論の自由」とは、もともと宗教的な言論の自由のことだった
自分の意志で所属を決める集団は、加入者に一定の資格要件を求めるため、内と外との区別が明確な輪郭をもった社会となる。だから「誰にでも開かれている」という意味での「寛容さ」をもつことはできない。つまり、自由な社会集団を作るには、どうしてもこの不寛容さを軸にしなければならないのである
無関心からくる寛容は、ひとたび風が来て自分の身に危険が迫れば、たちまち吹き飛んでしまう。だが、ウィリアムズの説く寛容は筋金入りである。彼は、人間が何かを信じるということに、かけがえのない尊さを見いだした。それは、自分とは異なる信仰をもつ人にも等しく見いだされる尊さである。信仰が自分にとってかけがえのない尊さをもつことを知っているからこそ、他人にとっても同じようにかけがえのないものであることが理解できるのである
もともと好ましいものは寛容の対象にならない。嫌いなものこそ、寛容にすべき対象なのである。だから寛容は、常に不愉快な事柄を論ずる「不愉快な問題」である
ウィリアムズが繰り返し強調したように、プロテスタントであろうとカトリックであろうと、ユダヤ教徒であろうとイスラム教徒であろうと、あるいはそのどれでもない無宗教者や無神論者であろうと、最低限の礼節をお互いに守ることができれば、ともに一つの社会を形成することができる
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「寛容さ」を欠いた社会に、明るい未来はない。
なぜなら、多様性を受け入れない、実力を認めない社会には、真の実力者が集まってこないからです。
最近のTwitterでの議論やマスコミの論調を見ていると、日本は明らかに「不寛容」という病に陥っているように見えます。
日本が再び発展するために、ぜひ、読んで議論の材料にしたい一冊です。
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『不寛容論 アメリカが生んだ「共存」の哲学』
森本あんり・著 新潮社
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http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4106038609
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◆目次◆
プロローグ
第一章 虚像と実像のピューリタン
第二章 中世の寛容論
第三章 異議申し立ての伝統
第四章 政権当局とのせめぎ合い
第五章 謝れる良心と愚行権
第六章 建設者の苦悩
第七章 異形者の偉業
エピローグ
あとがき
注
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