2020年8月31日

『世紀の落球』澤宮優・著 vol.5587

【失敗からいかにして立ち直るか】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4121506979

人生には、「取り返しのできない失敗」というものがあります。

往々にして当事者は苦しみ、周囲はそれを責めるわけですが、悲劇を味わった人たちがその後どうなったのかには、あまり注目されていない気がします。

ビジネスにも人生にも、失敗はつきもの。まして起業家なら、「失敗は成功のプロセス」と思うくらいの図太さが必要です。

本日ご紹介する一冊は、オリンピック、甲子園、プロ野球で「戦犯」と呼ばれた男たちの「その後」を追った一冊。

著者は、ノンフィクション作家で、スポーツから歴史、文学まで幅広い分野で執筆を続ける澤宮優(さわみや・ゆう)さん。

2003年に刊行された『巨人軍最強の捕手』で第14回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した実力派です。

本書に登場する『世紀の落球』は、全部で3つ。

2008年8月23日のオリンピック・対米国戦の左翼手G・G・佐藤選手の落球。

1979年8月16日の甲子園・星陵対箕島の加藤直樹一塁手の転倒。

ペナントレースの運命を左右したプロ野球、1973年8月5日の阪神巨人戦の池田純一選手の落球。

観戦者たちから猛烈なバッシングを受け、生涯悩み続ける結果となったエラーと、各選手がどう向き合い、克服していったのか。

その思考プロセスからは、前向きな生き方のヒントを学ぶことができます。

また、著者が「はじめに」で、<「落球」は、本人のミスだけではなく、想定外のいろいろな条件が重なって起こることもある>と語っているように、どんな条件が重なると人はミスをしやすくなるのか、学ぶ良い教材でもあります。

さっそく、本文の中から気になったポイントを赤ペンチェックして行きましょう。

—————————-

<送球は僕が野球の中で最も得意なプレーです。最大のセールスポイントを失っていた僕は、心の余裕も同時に失っていました>(G・G・佐藤『妄想のすすめ』)

「星野さんからの伝言だけどな。あのことは気にしなくていいから、自分の野球人生を全うして、野球界に貢献しろと言っていたよ」佐藤は胸が熱くなった

「もう一回オリンピックに出て金メダルを獲り返してやりたいです。もし、また最後に落球する運命だったとしても自分は行きます。あのことで自分は人の苦しみ、痛みがわかったので、いい経験をしたなと思うんです。世の中には苦しんでいる人がいっぱいいますから」

そんな加藤を励ましたのは、森本中学時代の野球部の仲間だった。あの試合をともに戦った高校のチームメイトでなく、中学時代の仲間だとお互いに率直に話ができた。彼らは歯に衣着せず語った。「いいなあ、お前だけ目立って」「やっぱお前らしいわ」言葉はぶっきらぼうだが、加藤はふつうに冗談として言ってくれる友人の好意がうれしかった

箕島と星稜の“再試合”が行われたのは、平成六年十一月二十六日、和歌山県紀三井寺野球場だった。あの試合から一五年後、選手たちは三十代前半になっていた。当時のメンバーが集まり、もう一度戦う。(中略)尾藤の打球は、一塁を守る加藤の真上に上がった。マウンドの山下は叫んだ。尾藤も同時に言った。「加藤捕れ!」加藤は両手で拝むように捕ると、ゲームセットになった。今度は星稜が勝った

(池田の妻)ゆかりは言った。「試練は避けたいと皆思うことじゃないですか。なかったらいいのにと。だけど、僕は試練から呼びかけられている。試練がない。と人は成長しない。そう言っていました」

「イケダ、人生にエラーはつきものだ。大事なことはそのあとをどう生きるかだ。たかが野球、ゲームじゃないか。長い目で見るとつらいことのほうが大きな意味を持つんだ。あのエラーがあったから、今の人生があると言えるよ」(バックナー)

指揮官の経験も豊富な高田繁は言う。「エラーをすれば、ピッチャーがその後を抑えるようにすればいいわけです。ピッチャーが打たれたら、野手が捕ってやればいい。ペナントレース中であれば、次の試合に引きずらないようにしないといけません」

—————————-

どのエラーも、「もし自分が当事者だったらとても耐えられそうにない」と思うほどのものですが、選手たちはそれそれに苦しみ、その失敗と向き合ってきました。

失敗があったから生まれた人生、ドラマ、後世へのメッセージ。

当事者は本当にきつかったと思いますが、われわれがそこから学べるものは大きいと思います。

なかでも感動したのは、甲子園の後日、OBたちによって行われたという、星陵対箕島の再試合、再々試合、親善試合でのドラマと、米大リーグで痛恨のエラーをしたバックナーの試合後のコメント。

各人のエピソード、インタビューからは、きっと困難に打ち勝つエネルギーがもらえるはずです。

そして、もし自分の友人が失敗したら、どう声を掛けたら良いのかのヒントも。

コロナ禍の今、すべての日本人に読んで欲しい一冊です。

———————————————–

『世紀の落球』澤宮優・著 中央公論新社

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4121506979/

<Kindleで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B08FR5SXVC/

———————————————–
◆目次◆

第1章 なぜ、あきらめると人生得するのか
第2章 あきらめたくないものに気づくための9ステップ
第3章 あきらめにくい6つのハードル
第4章 実践編 あきらめチャレンジ
第5章 番外編 「あきらめる」以上に何か欲しい人へ

この書評に関連度が高い書評

この書籍に関するTwitterでのコメント

同じカテゴリーで売れている書籍(Amazon.co.jp)

NEWS

RSS

お知らせはまだありません。

過去のアーカイブ

カレンダー