2020年6月4日

『遊王 徳川家斉』岡崎守恭・著 vol.5528

【在位50年。知られざる将軍の横顔】
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本日ご紹介する一冊は、あまり言及されることのない江戸時代の将軍、徳川家斉について述べた一冊。

著者は、日本経済新聞社で北京支局長、政治部長、編集局長などを歴任した人物で、現在は歴史エッセイストの岡崎守恭(おかざき・もりやす)氏です。

歴代将軍の記録をはるかにしのぐ堂々一位の在位50年、もうけた子どもは50人以上という「遊王」徳川家斉の素顔に迫る、興味深い新書です。

世界史では、「パックス・トクガワーナ」という呼び名があるらしいですが、なかでもとりわけ泰平の世として知られるのが、この家斉の時代。

その泰平の世を実現した政策と、将軍の人心掌握術、文化振興の実態が伺える、興味深い読み物です。

もちろん、この時代の政策がその後に悪影響を与えた可能性もありますが、50年の間、人々の心を掴んで離さなかった人心掌握術には、特に注目したい。

それではさっそく、本文の中から気になったポイントを赤ペンチェックしてみましょう。

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吉宗の宿敵、尾張藩の宗春の『温知政要』にはこうある。「省略(倹約)するばかりにては、慈悲の心薄くなりて、覚えずしらずむごく不仁なる仕方出来して、諸人はなはだ痛み苦しみ、省略かへって無益の費えとなることあり」

元禄文化は大商人の文化、化政文化は庶民にまで降りた文化──。こんな分類をしても許されるだろう。化政は元号の文化文政、つまり「家斉の時代」である

川崎大師と言えば、初詣の参拝客の多さで有名だが、何と言ってもその効能は厄除け。「厄除け大師」である。誰の厄除けに効能があったかと言うと、これも家斉

御召とは御召縮緬のことで、織りの着物の中で一番、格上とされる。羽二重などとともに、高級な素材として、略礼装、お洒落着として好まれている。ところで「御召」というが、どなたがお召になったのだろう。これが家斉なのである

馬琴は原稿料で暮らした初めての日本の作家と言われている。原稿料というものが発生したのも寛政年間の末期、すなわち「寛政の改革」が終わり、「家斉の時代」に入った頃からといわれる

家斉の存命中はその威光で指一本、触れることができなかったが、死去したとたん、“崩壊”したものが二つある。一つは感応寺であり、もう一つは「三方所替え」

この寺は今の宝くじの源流である江戸の富くじでも有名だ。箱の中の木札を錐で突き刺して当籤者を決めたことから「突富」と言った。感応寺と湯島天神(天満宮)、目黒不動(瀧泉寺)の富くじが「三富」と呼ばれ、特に感応寺のものが有名だった

編み出されたのが単純な転封ではなく、「三方所替え」という方式だ。相対よりも三方の方が幕府にとって都合のいい、本当の理由をあいまいにしやすいことが理由の一つだっただろう

植木好きで知られた家斉。気に入った苗木があれば庭から勝手に抜き取っていいと言う。抜き取った苗木を接待役に懐紙にくるんで渡すと、帰りには鉢植えのお土産になっていた

梅酒は酒を飲めない者のための配慮だろうと、ここでも家斉の気配りに感激している

家斉は浜御殿を使って人心掌握をしようと考えていたわけではないだろう。自分の楽しみを臣下にも「お裾分け」してやろうくらいの軽い気持ちだったはずである。が、従一位太政大臣の極官にある天下人のきさくな振る舞いに、結果として幕臣は大いに感激し、改めて忠節を誓ったのは間違いない

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金持ちがちょっと贅沢すると批判される世の中ですが、本書を読むと、そういう風潮がかえって社会経済をダメにしてしまうということがよくわかります。

かといってあまり支配層が自分に都合の良いシステムを作ってもしっぺ返しが来るということもわかるのですが(笑)。

現在の日本の状況と照らし合わせてみると、より一層楽しめます。

ぜひ読んでみてください。

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『遊王 徳川家斉』岡崎守恭・著 文藝春秋

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◆目次◆

はじめに 家斉のススメ
第一章 「斉」の全国制覇
第二章 十一代将軍への道
第三章 「生」への執念
第四章 「政」はお任せ
第五章 あれもこれも
第六章 赤門の溶姫様
第七章 江戸の弔鐘
エピローグ 浜御殿
あとがき
付録 「家斉の時代」まいとし年表

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