【ノーベル経済学賞受賞第一作】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532358531
最近のTwitterの議論を見ていると、ほとんどの人が直感的に政策に「賛成/反対」を表明しており、それが実際にどう機能するのか、論じていません。
理論や過去の実験結果について学ぶことは、「直感が間違う」ケースにおいて、特に有効です。
政策担当者はもちろん、それを評価するわれわれも、きちんとベースとなる理論については学んでおくべきでしょう。
本日ご紹介する一冊は、2019年にノーベル経済学賞を受賞したアビジット・V・バナジーとエステル・デュフロによる、受賞第一作。
貿易戦争や社会格差、移民、環境破壊などに関する、「本当っぽい嘘」を、経済学理論に基づいて論じた、興味深い一冊です。
移民の流入は、本当に受入国住民の生活水準を押し下げるのか、自由貿易はいいことなのか、保護関税はアメリカ人を助けるのか、SNSは建設的な議論や個人の幸福度に貢献しているのか、富裕層の減税には意味があるのか、エネルギー消費を減らすのに効果的な施策は何なのか…。
議論になりがちなこれらのトピックに、理論的な説明を加えており、ネットで発言するなら読んでおくべき一冊です。
さっそく、本文の中から気になったポイントを赤ペンチェックしてみましょう。
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たとえ大量の移民が流入しても、受入国住民の賃金や雇用に与えるマイナスの影響はきわめて小さい
逆説的なことだが、高技能移民は、受入国労働者の賃金水準を押し下げる可能性が高い
実際には情報に無知だったせいで移住を断念していた人のほうが多かった
繁栄する都市では高技能労働者は大幅に高い報酬を得られるが、高校しか出ていない低技能労働者の場合はそこまで大幅には増えない
企業・産業・国の評判が相互作用し、しかも脆くて崩れやすいという状況では、「産業クラスター」を形成することが最善の方法だとされる。産業クラスターとは、一定地域に特定分野の企業やそれを支援する組織などが集積された状況を指す。個別企業はクラスターの成果や評判の恩恵に与ることができる
◆インターネットの問題点
第一に、SNS上でニュースが出回るようになると、信頼性の高いニュースの取材や制作が行われなくなることだ(中略)第二に、インターネットは無限の反復を許容する(中略)最後に真実があきらかになっても、すでに偽情報に基づいて世論は真っ二つに分かれており、もはや取り返しがつかないこともめずらしくない
中でも最大規模の実験は二〇〇〇人以上を対象に行われたもので、被験者になにがしかの報酬を払ってフェイスブックへのアクセスを一カ月間遮断してもらった。すると結果は──幅広い幸福度・生活満足度に関する項目で、本人が申告する評価が上昇したのである。(中略)実験後にフェイスブックを再開した人たちの多くは、閲覧の頻度が実験前より大幅に下がり、数週間後になってもフェイスブックで費やす時間は以前の二三%減にとどまった
高所得層に対する減税はそれだけでは経済成長にはつながらない
エネルギーを大量に消費する行動に対して将来の増税を予告しておくことは、人々がその事実を受け入れて行動を変えやすくする効果があると考えられる
最高税率の引き上げは、ひどく報酬はいいが必ずしも社会的に役立つとは言えない仕事、たとえば金融業の魅力を減らす。手取りの報酬が減るとなれば、優秀な人材は、それならもっと生産的な仕事に就こうと考えるだろう
社会福祉制度が懲罰と屈辱を与える役割を果たすようになると、社会全体がその制度をいやなもの、不快なものとみなすようになる
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過去の経済理論、実験結果をまとめているので、既知の内容も多いと思いますが、現状、どんなことがわかっているのか確かめる上で、意味のある本だと思います。
社会の重大問題を解決するのに、本当に有効な施策は何なのか、考えるヒントとして、読んでおきたい一冊です。
経営者にとっては、何がワークするのか、思い込みを排除するトレーニングとしても有効です。
ぜひ読んでみてください。
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『絶望を希望に変える経済学』
アビジット・V・バナジー、エステル・デュフロ・著
村井章子・訳 日本経済新聞出版
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http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532358531/
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◆目次◆
1 経済学が信頼を取り戻すために
2 鮫の口から逃げて
3 自由貿易はいいことか?
4 好きなもの・欲しいもの・必要なもの
5 成長の終焉?
6 気温が二度上がったら……
7 不平等はなぜ拡大したか
8 政府には何ができるか
9 救済と尊厳のはざまで
結論 よい経済学と悪い経済学
謝辞
原註
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