【「日常」×「自分の物語」がこれからのキーワード】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344035763
本日ご紹介する一冊は、評論家で批評誌<PLANETS>編集長、宇野常寛さんによる、注目の新刊。
幻冬舎・箕輪厚介さんが編集を担当するということでも注目の一冊です。
現在、日本は新型コロナウイルスの対応に追われ、ただでさえ弱っている経済が壊滅的になりつつありますが、こうなる前になぜ変革できなかったのか、その構造的理由が明らかになる内容です。
なぜインターネットによるポピュリズムが敗北したのか、なぜグローバルな市場と情報技術が世界をひとつに結ぼうとすればするほど、民主主義がそれを阻むのか、なぜコトからモノへの回帰が起こったのか…。
平成から今にかけて起こったことの根本原理がすっきり理解できる、じつに読み応えある論考です。
『21世紀の共同幻想論』とある通り、吉本隆明の思想を発展させたものですが、なるほど、これからの社会の方向性、消費の方向性がよくわかる内容です。
政治や社会を論じた内容ではありますが、長い目で見て、ビジネスの参考にもなる内容です。
さっそく、気になる部分をチェックして行きましょう。
—————————-
実のところ既に境界は半ば(つまり経済のレベルでは)取り払われている。そしてだからこそ壁を求める人々が増殖している
そう、あたらしい「境界のない世界」の住人たちは、旧い「境界のある世界」の住人たちに、政治の、具体的には民主主義の場においては敗北する他ないのだ
ティールらの掲げるサイバーリバタリアニズムとは、端的に述べれば情報技術によって国家からの完全な自立を志向する思想だが、アメリカとはこの(社会的な)反国家の精神こそが国家への(文化的な)回帰に結びつくという転倒したイデオロギーをその建国の理念として国民的なアイデンティティの基礎に置く社会なのだ
まず第一の提案は民主主義と立憲主義のパワーバランスを、後者に傾けることだ
第二の提案は情報技術を用いてあたらしい政治参加の回路を構築することだ
第三の提案はメディアによる介入で僕たち人間と情報との関係を変えていくことだ。端的に述べれば「よいメディア」を作ることだ
この四半世紀で、二次元の平面(紙、スクリーン、モニター)上に置かれた「他人の物語」ではなく、三次元の空間での体験、つまり「自分の物語」を発信することに人々の関心は大きく移行しつつある。テキスト、音声、映像といった「他人の物語」を記録したモノ(本、CD)には値段がつかなくなり、フェスや握手会といった「自分の物語」としての体験が、つまりコトが値上がりしている
21世紀の今日、僕たちは情報技術を「ここではない、どこか」つまり仮想現実を作り上げるためではなく「ここ」を豊かにするために、つまり拡張現実的に使用している
そう、キーワードは「日常」だ。非日常への動員(ポピュリズム)に対抗し得る回路を作るためには、日常へのアプローチが必要なのだ
残された第三象限の日常×自分の物語がいま、手つかずのフロンティアとして僕たちの前に広がっている。今世紀に入り競技スポーツを「観る」ことから、日常の習慣としてのライフスタイルスポーツ(ランニング、ヨガ)を「する」ことへの移行が起きているが、この現象も僕たちがいま、日常×自分の物語を欲望しはじめていることを示している
敵を間違えてはいけない。いま求められているのは、共同幻想からの自立ではない。自己幻想の強化のために共同幻想を用いる人々を抑制するために必要なのは、むしろ自己幻想からの自立なのだ。対幻想(タグ付け)も共同幻想(リツイート)も自己幻想を強化することにしかつながらない今日において、いかに自立が可能
か。それが今日の課題なのだ
—————————-
個人的には、[付記と謝辞]の冒頭で書かれた、以下の文章に好感を持ちました。
<箕輪厚介の担当で幻冬舎から本を出す企画があると述べたら、旧い友人たちから「業界から嫌われるので彼とは付き合わないほうがよい」と言われた。そして僕はその瞬間に次の本は必ず箕輪と作ると決めた。表では「分断を許さない」と述べるリベラルで文化的な出版人たちが、裏ではそれと付き合うと次は君が村八分に遭うぞとそれも善意で忠告してしまう、という現実がどうしようもなく嫌だったからだ>
こんな行動をとれるのは、嫌われることを恐れない人。そしてそういう人からしか、価値のある思想も文章も生まれないと、個人的には思っています。
著者が企画する「遅いインターネット」の試みが上手くいくかどうかはわかりませんが、面白いチャレンジだと思っています。
人々が向かう方向が「日常」×「自分の物語」とわかっただけでも読んだ価値がありました。
ぜひ、読んでみてください。
———————————————–
『遅いインターネット』宇野常寛・著 幻冬舎
<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344035763/
<Kindleで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0847LF6Z1/
———————————————–
◆目次◆
序章 オリンピック破壊計画
第1章 民主主義を半分諦めることで、守る
第2章 拡張現実の時代
第3章 21世紀の共同幻想論
第4章 遅いインターネット
この書評に関連度が高い書評
この書籍に関するTwitterでのコメント
同じカテゴリーで売れている書籍(Amazon.co.jp)
お知らせはまだありません。