【キング・オブ・オイルの投資哲学】
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本日ご紹介する一冊は、20世紀で最も成功したコモディティトレーダー、マーク・リッチの評伝。
本書によると、<石油スポット市場はまちがいなく、二〇世紀に生まれた最も儲かるアイディアのひとつだ。マーク・リッチが強大な国際石油資本からグローバル石油取引の一部をもぎとり始めた当時、原油価格は一バレル当たり二ドルだった。それが二〇〇八年の夏には一四〇ドル台の史上最高値を記録した>。
マーク・リッチは、この石油スポット市場を創り上げ、世界の億万長者ランク入りした人物。
本書には、そんな彼の幼少期(ナチスのホロコーストから間一髪で逃げた)から、トレーダーとして頭角を現し、独立して大成功する過程、そして脱税疑惑をかけられ、アメリカから逃亡し、死を迎えるまでの生涯が書かれています。
「史上最大の脱税王」「敵国と取引した」など、黒い評判のある人物ですが、本書を丹念に読むと、この世界の複雑さと、ビジネスが果たすべき役割、そしてチャンスをものにする思考法がわかります。
後半はほとんどが、訴訟がらみの話ですが、前半にはビジネスパーソンとして成功するための心構えや秘訣、投資哲学が書かれており、ぜひ読んでおきたいところ。
さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。
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彼こそ石油スポット市場の創出者なのである。現代の石油取引はスポット市場なしではもはや考えられない。わたしたちは車の燃料タンクをガソリンで満たすとき、「その場(オン・ザ・スポット)で」取引を完了する
リッチはまた、産油国の解放を促した。彼のおかげで多国籍石油メジャーの競争が激化し、産油国は自国の自然資源に前よりも高い値をつけられるようになった
「彼はスペイン語で言うスーペルドタド、天賦の才がたっぷりある人。彼の最大の力は、目的を達成するまで決してあきらめないということね。やると決めたら、それができるまで、昼も夜も働きつづけることができた。仕事のことしか考えていなかったわ。一日に八時間しか働かず、週末は休むというのでは、彼がやってきたことをやるのは無理ね」
成功しているコモディティ・トレーダーはみな、ナイフの刃の上で暮らしているということに気づいている。富と破滅、正解と誤り、成功と孤独のあいだには、きわめて細い境界線しかないのだ
マーク・リッチは登校前と放課後、父のオフィスで働いた。この黄麻ビジネスのにわか景気は、ティーンエージャーのマークに二つのことを教えた。ひとつは「ものが足りないときには高い値で売れる」ということ。もうひとつは「危機や戦争もビジネスチャンスを生む」ということ
うまく機能する経済ネットワークというのは、必ず信頼にしっかりと支えられている。経済学者たちが言うように、揺ぎない信頼があれば、取引にかかるコストは低くなるし、情報が不足していても問題ない
彼の成功には大きな理由がひとつあった。それは彼が、一九五〇年代半ばにはほんのわずかな量しか取引されていなかった“隙間商品”の専門家だったということだ
「政治には関心がなかった。関心があったのはビジネスと金儲けだけ。それがマークの強みなんだ」。この種の“不偏不党”はビジネスには有利に働き、成功に寄与したが、「道徳観念なし」とのレッテルを貼られるもとにもなった
彼は、互いにまったく関係ない(表向きは結びつきようのない)二つの集団を結びつける取引をすることを提案したのだ
危機によってリスクが高まり、供給が脅かされているときこそ、凄腕のトレーダーが大活躍できるときなのだ
リーダーシップをとるうえで最も重要な原則は何かと、わたしが尋ねたとき、リッチはこう答えた。「それは、やると言ったことをやること──実行」
できるだけ高く売りつけようという気はリッチにはなかった。それは彼の鉄則である“長期志向”に反することだった。「必要としている客に商品をできるだけ高く売りつけるのは、赤ん坊からキャンディーを取り上げるようなもの」と、マーク・リッチ社のベテラン・トレーダーのひとりは会社の方針を説明する
「あなたがたはわたしたちを必要とし、わたしたちはあなたがたを必要としている。そういう関係を築かないといけない」。これはリッチのトレーダーのなかでも最も成功した者のひとりが、未来の顧客に接触するときの姿勢を説明するのに使った言葉だ
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多くの成功者同様、娘の死や離婚、再婚の失敗など、プライベートでは不幸が続いたようですが、マーケットを創造し、一時代を築いたビジネスパーソンとして、記憶されるべき人物だと思います。
それにしても、元妻がクリントン政権と通じていたり、イスラエルが特赦に一役買ったり、この世の中は本当に複雑だということがわかりますね。
先日起こった、アメリカとイランの緊張状態も、本書を読めば、より理解が深まると思います。
伝説的トレーダーの人生から、ビジネス・投資の秘訣だけでなく、国際政治まで学べてしまう、一粒で二度美味しい評伝です。
ぜひ読んでみてください。
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『相場師マーク・リッチ』ダニエル・アマン・著
田村源二・訳 パンローリング
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◆目次◆
謝辞
第1章 まぎれもないキング・オブ・オイル
第2章 最大の悪魔
第3章 ユダヤ人の運命
第4章 アメリカン・ドリーム
第5章 目覚めた原油
第6章 イスラエルとシャー
第7章 マーク・リッチ社
第8章 アヤトラ・ホメイニとの取引
第9章 訴訟
第10章 ルディ・ジュリアーニの失敗
第11章 法を犯したことは一度もない
第12章 マーク・リッチを捕まえろ
第13章 秘密交渉
第14章 成功の秘密──アンゴラから南アフリカまで
第15章 驚くべき貢献
第16章 私生活
第17章 キング・オブ・オイルの最期
第18章 特赦
第19章 マーク・リッチの未来予測
第20 章 エピローグ──グレー・ゾーン
あとがき──マーク・リッチ(一九三四~二〇一三)の遺産
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