2019年12月20日

『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治・著 vol.5422

【「できない子」になる原因は?】
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以前、中学生だった二女のテニス部にボランティアコーチとして遊びに行っていたことがありますが、そこに監督からもチームメイトからも諦められていた「運動音痴」の女の子がいました。

ラリーでラケットを振ってもまともに当たらないし、サーブを打ってもネットを越えていかないほど非力…。確かに傍目から見て、「絶望的」な状況でした。

「本当に彼女はできないのだろうか」

ひねくれ者の土井は、一度徹底的に観察して、できない理由を探ってやろうと試みたのですが、何と驚くべきことがわかりました。

「ラケットの握り方が間違っていた」のです。

これでは、球がまともに飛ぶはずがありません。

彼女は、こんな初歩的なことも教えられずに、ただ「ダメな子」のレッテルを貼られていたのです。

確かに、普段勉強ばかりしていて、筋肉量が足りないので、非力な部分はあったのですが、ちゃんとしたグリップとスイング、重心移動を教えたら、すぐに上達し、サーブが入るようになりました。

ただ、残念なことに、「もうすぐできるようになる!」という段階で、お母さんが「どうせ運動はできないんだから、勉強に集中しなさい」といって部活動を辞めさせてしまったことです。

せっかく小さな成功体験を積めたのに……。本当に残念でなりません。

「できない子の理由を探る」ことは、教育者、指導者としてとても大切なこと。このプロセスをすっ飛ばして評価しても、挫折体験が増えるだけです。

本日ご紹介する一冊は、児童精神科医として数多くの非行少年を指導してきた著者が、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすらできない非行少年たちを改善させてきた超実践的メソッドを紹介した一冊。

凶悪犯罪、性犯罪を犯した少年たちのメカニズムはどうなっているのか、どうすれば良くなるのか。注目の論考です。

さっそく、内容のポイントをチェックしてみましょう。

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一番ショックだったのが、
・簡単な足し算や引き算ができない
・漢字が読めない
・簡単な図形を写せない
・短い文章すら復唱できない
といった少年が大勢いたことでした。見る力、聞く力、見えないものを想像する力がとても弱く、そのせいで勉強が苦手というだけでなく、話を聞き間違えたり、周りの状況が読めなくて対人関係で失敗したり、イジメに遭ったりしていたのです。そして、それが非行の原因にもなっていることを知ったのです

“苦手なことをそれ以上させない”というのは、とても恐ろしいことです。支援者は、「そこは伸びる可能性が少ない」としっかり確かめているのでしょうか。もし確かめずに「本人が苦痛だから」という理由で苦手なことに向かわせていないとしたら、子どもの可能性を潰していることになります

実は、非行少年たちは学ぶことに飢えていたのです。認められることに飢えていたのです。やり方次第で、非行少年たちでもいくらでも変わる可能性があるのです

“後先のことを考える”力は計画力であり、専門用語で“実行機能”と呼ばれています。ここが弱いと、何でも思いつきで行動しているかのような状態になります

世の中には「どうしてそんな馬鹿なことをしたのか」と思わざるを得ないような事件が多いですが、そこにも“後先を考える力の弱さ”が出ているのです

他人の努力が理解できないと、他人が努力してようやく原付バイクを手に入れたということにも思い至らないので、簡単に盗んでしまったりするのです

非行少年のみならず、一般の学校の子どもたちでも、対人トラブルのもとになるのが、“馬鹿にされた”と“自分の思い通りにならない”といったもの

学校では、漢字ができなければひたすら漢字の練習をさせる、計算ができなければひたすら計算ドリルをやらせるといったように、できないことをやらせようとしてしまいがちです。計算や漢字といった学習の下には、「写す」「数える」といった土台があり、そこをトレーニングしないと子どもは苦しいだけなのです

今の学校では、こういった学習の土台となる基礎的な認知能力をアセスメントして、そこに弱さがある児童にはトレーニングをさせる、といった系統的な支援がないのです

これまで幾度となく“こんなのも分からないの?”と言われ馬鹿にされ続けてきた少年たちは、自分たちも、“人に教えてみたい”“人から頼りにされたい”“人から認められたい”という気持ちを強くもっていることを知りました。そしてそれが自己評価の向上に繋がっていくのです

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全米No.1のバスケットボールコーチ、ジョン・ウッデンは、バスケットボールシューズの結び方から教える、という話を本で読みました。

人を育てるリーダーには、学習で躓く子が、なぜ、どこで躓くのかを正しく理解する必要があると思います。

本書は、非行少年をどう改善するか書いた本ですが、他方では、社会や組織から挫折者を出さないためのヒントを書いた本でもあります。

ますます貧富の差が開く社会で、挫折者を放置することは、治安の悪化、生産性の悪化につながることを、教養ある豊かな方々も理解する必要があると思います。

ぜひ、読んでみてください。

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『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治・著 新潮社

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◆目次◆

はじめに
第1章 「反省以前」の子どもたち
第2章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年
第3章 非行少年に共通する特徴
第4章 気づかれない子どもたち
第5章 忘れられた人々
第6章 褒める教育だけでは問題は解決しない
第7章 ではどうすれば? 1日5分で日本を変える
おわりに

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