【祝・山本七平賞受賞!】
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本日ご紹介する一冊は、第28回山本七平賞を受賞した傑作ノンフィクション、『マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」』。
BBMではあまり政治本は取り上げないのですが、本書はビジネスパーソンがリーダーシップを学ぶ格好の教科書ということで、特別にご紹介します。
著者は、この混迷の最中、駐韓国大使に任命された、外務省の冨田浩司さん。
外務省入省以来、在英国日本大使館公使、在米国日本大使館次席公使、北米局長、在イスラエル日本大使、G20サミット担当大使を歴任したベテランで、本書にもその経験・知見が生きています。
単なるクロノロジーではなく、政治・外交視点の考察を入れながら書いたということで、プロの視点から見たリーダーの資質が説かれているのが特徴です。
何がサッチャーをして、英国初の女性首相たらしめ、また長期政権をもたらしたのか。そして、何が彼女の終焉を招いたのか。
サッチャーの生い立ちから、歴史的勝利となった選挙、フォークランド戦争、NUM(全国炭鉱労働者組合)との闘い、欧州の統合、政権の終焉に至るまで、その詳細が事実をもとに丁寧に書かれています。
メディア報道では見えてこない、現場の「真実」が書かれており、じつに読み応えある内容です。
さっそく内容をチェックしてみましょう。
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いかなる政治指導者であっても、人物の大きさと、成し遂げたことの大きさが一致することはまれである(中略)サッチャーは人間としての器においてチャーチルには遠く及ばない。しかし、国家と国民の関係を律するという政治の本質的な使命において、彼女が成し遂げたことの高みは──「良きにつけ、悪しきにつけ」という注釈付きであったとしても──チャーチルを確実に凌駕する
「ほかの人がやっているからといって、同じことをやるな。」サッチャーは回想録の中で幼少期を振り返り、ダンスを習いたくなったり、映画に行きたくなったとき、アルフからいつもこう注意されたと記している
彼女から見ると、当時のイギリスの病弊の根底にあるのは社会主義思想が蔓延した結果、人々が国家からの扶助への依存を深めたことであり、こうした精神構造自体を改めない限り、経済・社会の再生は望めないこととなる。一九八一年五月、サンデー・タイムズ紙のインタビューにおいて、サッチャーは、「経済学は方法に過ぎません。目的は魂を変えることなのです。」と締め括っているが、この言葉はまさに彼女の問題意識を示している
彼女が理想とした社会では自由で、豊かな個人が神と隣人に対する義務を果たしていくことが想定されていたが、後を絶たない金融スキャンダルやシティの重役の法外な報酬を見ると、現実には理想にほど遠い。社会全体を見ても富裕層のみならず、一般庶民にまでも過剰な消費文化が浸透し、父アルフの口癖であった倹約という言葉は死語になった感がある
在学していた女学校の校長からオックスフォード進学を反対されたとき、「あなたは私の夢を邪魔しています」と言い返したことが物語るように、グランサムは彼女の野心を閉じ込めるには小さすぎた
幸いだったのは、実際的で、バランスのとれた判断力、忠誠心、自己顕示欲のなさ、といった彼(夫・デニス)の性格がこうした役回りにうってつけであったことである。また、求められない限り助言を行わないことや、プレスのインタビューには絶対に応じないことなど、彼が自らに課した原則はいずれも賢明なものであった
ニーヴは態度未定の議員への最後の働きかけとして巧妙な作戦を展開する。すなわち、こうした議員のほとんどはヒースの退陣を望んでいるものの、サッチャーの党首としての能力に確信が持てない状況にあることに目を付け、第一回目にサッチャーに投票すれば、二回目にホワイトローなどの本格的候補が出てきやすくなると説得に努めたのである
ホスキンスのサッチャーへの批判には大きく言って二つの論点がある。その一つは戦略的思考の欠如である。彼の観察によれば、戦略的思考を行うためには未知のもの、不確実なものに思いを巡らせる必要があるが、サッチャーはこうしたプロセスを好まないし、得意ともしていない
政治指導者には、時として、政策的には正しくても、政治的には機能しない選択肢を捨て、政策的には不十分でも、政治的に実現可能な選択肢を選ぶ懐の深さが求められる
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現場の臨場感あふれる描写、政治・外交への深い理解が、本書最大の魅力。
実務家によるバイオグラフィーの「型」を示したという点でも、価値の高い一冊です。
ぜひ、読んでみてください。
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『マーガレット・サッチャー』冨田浩司・著 新潮社
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◆目次◆
序にかえて
第一章 カエサルのもの、神のもの
第二章 女であること
第三章 偶然の指導者
第四章 戦う女王
第五章 内なる敵
第六章 戦友たち
第七章 欧州の桎梏
第八章 落日
終 章 余光
あとがき
註
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