【傑作です。】
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本日ご紹介する一冊は、アメリカで話題となった、ウォルター・アイザックソン『The Innovators』の待望の邦訳。
ピンとこない人のために一応説明すると、アイザックソンはあのスティーブ・ジョブズの公式本を手掛けた、当代一のノンフィクションの名手。
『The Innovators』は、そのアイザックソンが、20世紀のデジタル革命史をまとめた、超話題作です。
この重要な書を、IT系を訳させたら右に出る者はいない井口耕二さんが訳し、天才編集者・青木由美子さんが編集する。
これが面白くないわけがないじゃないですか。
というわけで、最初から説明の必要がないほど「買い」の一冊なのですが、疑う人は、試しに第1章の「ラブレス伯爵夫人エイダ」を読んでみるといい。
エイダはなんとあの性と冒険に満ちた詩人バイロンと、数学の家庭教師をやっていたアナベラの間に生まれた一人娘。
母は、父のロマン派的な精神を受け継いでいた娘の性向を抑えつけようとして数学教育をほどこしますが、まさかこのことが人類の技術史に大きな影響を与えることになるとは。
さすがはアイザックソン。つかみからして秀逸です。
どうやらアイザックソンは本書の執筆を10年以上も前から進めていたそうですが、急遽スティーブ・ジョブズの伝記を書くことになり、執筆を中断していたようです。
ジョブズに取材していて、アイザックソンが強く興味を持ったのは、イノベーションはコラボレーションから生まれたという事実、そして「デジタル時代の真の創造性は、芸術と科学を結び付けられる人から生まれてきたという事実」です。
<伝記に着手してすぐ、ジョブズにこう言われた。「その後、文系と理系の交差点に立てる人にこそ大きな価値があると、僕のヒーローのひとり、ポラロイド社のエドウィン・ランドが語った話を読んで、そういう人間になろうと思ったんだ」>
本書に登場するのは、そんなあらゆる世界の垣根を超えていける「イノベーター」たち。
多種多様、色とりどりの人間たちが織りなすタペストリーのような作品であり、それゆえに単独の評伝では味わえない複雑な味わいを持っています。
論より証拠。まずはさっそく、内容をチェックして行きましょう。
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コンピュータについて語りはじめるとき、歴史上の人物が新たにひとり登場する。ダ・ビンチやアインシュタインほど知られてはいないが、芸術と科学の融合を体現した女性だ。父親ゆずりで詩の優美さを愛したが、父とは違って、数学と機械のすばらしさも理解した。その女性から、本書の物語は始まる
数学の美を愛でるというエイダの能力は、みずからの知性をほこる人まで含め、理解できる人の少ない資質だった。彼女は数学を、心引かれる言語、宇宙の調和を映し出す言葉ととらえ、ときには詩的でさえあると感じていた
「想像力とはなにか?」と、エイダは1841年の随想で問いかけている。「それは組み合わせの能力だ。ものやこと、思想、概念をひとつにまとめ、変わりつづける独創的な組み合わせをはてしなく作
りだす。それが、私たちの身のまわりの未知なる世界、科学の世界の本質を見抜くということなのだ」
ライプニッツは技術者としての才がほとんどなく、まわりにもそのような人材がいなかったのである。そのため、実務面で協力者が得られなかった優秀な理論家によくあるパターンで、この装置も確実に動く形にはいたらなかった
「対象物間の基本的な相互関係が演算という抽象科学的関係として表せるものであれば、数以外のものに対しても演算は作用する」
「リレー回路によって複雑な数学上の操作を実行することが可能である」これが、デジタルコンピュータを支える根本概念になる
モークリーは喜んでアイデアを分け合うタイプであり、しかも、いつも満面の笑みを浮かべているし、押しつけがましくないので、人気の教員だった。「話をするのが好きで、アイデアの多くは会話を重ねていくなかでできあがるようでした」
エッカートはエンジニアのなかのエンジニアであり、モークリーのような物理学者を補うには自分のような人間が必要だと考えていた。彼は、のちにこう語っている。「物理学者とは真実を追究する者であり、エンジニアとはものごとを実現する者だ」
「(略)私は語彙を切り替えることができたから、プログラマー向けには技術的に高度な言葉を使えたし、その何時間かあとで上官に向かって同じことを伝えるときには、まったく違う語彙を使うことができました」イノベーションには、明快な言葉づかいが必要なのである(世界初コンピュータ・マニュアルの著者ホッパーの話)
「ふっと思いつきで集まっては、重要なステップについて話し合ったものだ。この討論グループでアイデアがよく生まれたし、だれかのひと言がアイデアにつながったりした」このミーティングは「黒板セッション」とか「チョークトーク」と呼ばれた。ショックレーが前に立って、チョークを手にアイデアを書きなぐったからだ
バーディーンは、いつものようにあまり口をきかなかった。だが、帰宅後の言動はいつもと違い、オフィスで起こったことを妻に話している。ひと言だけ、妻が台所でにんじんをむいているとき、おだやかにこうつぶやいたのだ。「今日、大変な発見をしたよ」事実、トランジスタは20世紀最大級の発明である。トランジスタは、理論家と実験家がいっしょに取り組む共生的な関係のなかで、理論と結果をその場でぶつけ合うパートナーシップから生まれた
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個人的には、詩人バイロンの娘で、数学と美を結びつけ、コンピュータの基本となった4つの概念を提唱したエイダ・バイロンの話、そして20世紀最大級の発明であるトランジスタを発見したブラッテンとバーディーンのペアの話に、心が震えました。
誰かが定めた栄誉を受けるのもいいけれど、どうせ生まれたからには「革命」にかかわってみたい。
読んでいるうちに、そんな願望が湧いてくる、パワフルな一冊です。
さすがはノンフィクションの名手アイザックソン。複雑な20世紀のテクノロジーの進化を、見事なドラマにまとめ上げています。
もう、これは「買い」でいいのではないでしょうか。
ぜひ、お子さんの分と2冊買うことをおすすめしたい一冊です。
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『イノベーターズ1』ウォルター・アイザックソン・著
井口耕二・訳 講談社
<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062201771/
<Kindleで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07YKRSJKM/
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◆目次◆
年表
序 章 チームワークこそイノベーションの根幹
第1章 ラブレス伯爵夫人エイダ
第2章 コンピュータ
第3章 プログラミング
第4章 トランジスタ
第5章 マイクロチップ
第6章 ビデオゲーム
第7章 インターネット
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