2019年8月16日

『両利きの経営』チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン・著 入山章栄・監訳・解説 冨山和彦・解説 渡辺典子・訳 Vol.5337

【これは名著だ。】
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アマゾンの元同僚が昔、ジェフ・ベゾスとのやり取りを興奮しながら教えてくれました。

「信じられるか? あんなに多忙な大経営者が、僕が担当しているたった2億円の新規事業のために直接メールをくれるんだぜ」

彼が言うには、ジェフはこんな内容のメールを送ってくれたそうです。

「キミが手掛けている事業は、今はまだ小さいかもしれないが、アマゾンの未来にとって非常に重要なんだ」

こんなやり取りをしたら、部下はやる気になるのが当然…。と、そんな話がしたいわけではありません。

ジェフ・ベゾスがすごいのは、彼が『両利きの経営』を実践しているからなのです。

書評家として、数多くのビジネス書を読んできましたが、そのなかには、失敗企業の研究も数多く含まれています。

毎回驚かされるのは、失敗した企業には必ずと言っていいほど、新規事業の「芽」があり、それがことごとく社内で潰されてしまっていたということです。

本日ご紹介する一冊は、成熟事業と新規事業の二兎を追う戦略、『両利きの経営』について、スタンフォード大学経営大学院教授のチャールズ・A・オライリー氏と、ハーバード・ビジネススクール教授のマイケル・L・タッシュマン氏がまとめた一冊。

解説担当の入山章栄氏によると、この理論は、クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」を超え、経営学において今、最も重要な理論。

読んでみて、その理由がよくわかりました。

成功した大企業がなぜ、生まれていたはずのアイデアや技術を台無しにし、既存事業と心中してしまうのか。変化するために、リーダーは、何に気を配る必要があるのか。

豊富な事例をもとに解き明かしており、じつに読み応えがあります。

さっそく、内容をチェックしてみましょう。

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変化が激しい事業環境では、重要なリソースや、それを投入すべきマーケット自体が変わっていく。そこで、企業としては環境変化に合わせて動的(ダイナミック)にさまざまなリソースを再構築し、組み合わせ続ける能力が求められる。この能力がダイナミック・ケイパビリティである(入山章栄氏の解説より)

成熟事業の成功要因は漸進型の改善、顧客への細心の注意、厳密な実行だが、新規事業の成功要因はスピード、柔軟性、ミスへの耐性だ。その両方ができる組織能力を「両利きの経営(ambidexterity)」と私たちは呼んでいる

クリステンセンは著書で「組織は破壊的変化に直面すると、探索と深化は同時にできないので、探索にあたるサブユニットをスピンアウトしなくてはならない」と主張している。同書が出版された直後に、ヒューレット・パッカード(HP)のスキャナ部門のリーダーたちはこの助言に従って、長年受け継がれてきたフラットベッドの組織から携帯型スキャナ部門をスピンアウトした。しかし、この新規事業は成熟事業の資産や組織能力を活かせなかったことに加え、同社の経営陣はこの探索部門が必要としていた保護や監督を提供できなかった。コストと利益率に関するプレッシャーが強くなると、探索部門は苦戦を強いられた後、廃止に追い込まれた

成熟した組織の成功に寄与した調整が、新興事業にとって命取りとなりかねないのだ

成功している組織は長く存続していく中で、規範をつくり、成功にかかわる行動について期待値を設定する。ある行動をとればステータスや認知の面で公式にも非公式にも報いられ、別の行動をとれば周囲から眉をひそめられ、罰せられることを、人々は学んでいくのだ

選択する場面になると、深化に過剰投資し、探索に過小投資する傾向が見受けられる

一九二〇年代に、シアーズは最初の危機に見舞われた。不況で農家がつぶれ、シアーズのカタログ事業の業績も悪化したのだ。そこで、元陸軍将校のロバート・ウッドがCEOに任命されたが、彼の頭を占拠していたものがある。それは、農家から都市へと人口が移っていることを示す統計データだ

シアーズやボール社などからの第二の重要な教訓は、組織的な調整から生まれるパワーと危険性である。深化では効率性、生産性、差異を減らすことが強調されるのに対し、探索はその反対で、要求水準の高い調査、発見、差異を増やすことが重要になる

◆リーダーに求められる三つの行動
(1)新しい探索事業が新規の競合に対して競争優位に立てるような、既存組織の資産や組織能力を突き止める
(2)深化事業から生じる惰性が新しいスタートアップの勢いをそがないように、経営陣が支援し監督する
(3)新しいベンチャーを正式に切り離して、成熟事業からの邪魔や「支援」なしに、成功に向けて必要な人材、構造、文化を調整できるようにする

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企業の栄枯盛衰を書いた本は山ほどありますが、どうすればそこから逃れられるのか、まとめられた本は希少です。

「知の探索」と「知の深化」、原理の違う2つを同時に行うことが企業を繁栄に導くと説いた本書は、すべてのリーダーが読むべき必読の名著です。

ぜひ、読んでみてください。

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『両利きの経営』チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン・著
入山章栄・監訳・解説 冨山和彦・解説 渡辺典子・訳 東洋経済新報社

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◆目次◆

解説 なぜ「両利きの経営」が何よりも重要か 入山章栄
第I部 基礎編──破壊にさらされる中でリードする
第1章 イノベーションという難題
第2章 探索と深化
第3章 イノベーションストリームとのバランスを実現させる
第II部 両利きの実践──イノベーションのジレンマを解決する
第4章 六つのイノベーションストーリー
第5章 「正しい」対「ほぼ正しい」
第III部 飛躍する──両利きの経営を徹底させる
第6章 両利きの要件とは?
第7章 要としてのリーダー(および幹部チーム)
第8章 変革と戦略的刷新をリードする
解説 イノベーションの時代の経営に関する卓越した指南書 冨山和彦

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