2018年12月28日

『世界史を変えた新素材』佐藤健太郎・著 vol.5186

【今年最後を締めくくる、おすすめ教養本】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4106038331

以前、『図説 世界史を変えた50の鉱物』という本をご紹介しましたが、本日ご紹介するのは、さらに大興奮の教養本。

※参考:『図説 世界史を変えた50の鉱物』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4562048719/

2018年は、AI、IoTをはじめ、イノベーションとその脅威に注目が集まった一年でしたが、本書は、社会に変革を起こす「材料」の力に注目した一冊。

数ある材料のなかから文明を動かした12の材料を選び、その材料の性質とそれが生み出した変革、それに翻弄された人間たちのドラマを描いた、じつに興味深い内容です。

金、鉄、紙、プラスチックが選ばれるのは予想できるのですが、それ以外の材料の話がじつに興味深い。

材料周りの教養も読んでいて面白く、今年売れた『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』に匹敵する面白さです。

※参考:『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4866510552/

著者いわく、「新たな材料こそが時代の扉を開く鍵である」。

20世紀にピークを迎えた音楽市場の誕生も、ベストセラーも、すべては材料の普及がなければ実現しなかった。

だとすれば、次の時代の変革もまた、材料がきっかけとなって生まれるはずです。

さっそくポイントをチェックして行きましょう!

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レコードは当初、カイガラムシの分泌物を固めた「シェラック」という樹脂が用いられていた。しかし一九五〇年代に入り、ポリ塩化ビニル(塩ビ)製のレコードが登場し、一挙にポピュラー音楽という巨大市場が形成された

二〇世紀以降、ダイレクトに感動を生み出す歌手や演奏家が脚光を浴び、作曲家が裏方に回るという大きな変化が起きたのは、要するに記録媒体の変革によるものといえよう

石器や鉄、塩化ビニルなどは、大量に普及することで歴史を動かした材料だ。逆に、希少性と貴重さゆえに争奪の対象となり歴史を揺るがした材料もある。金や絹などが、その例に挙げられるだろう

金は変質せず、誰もが欲しがるがゆえに、廃棄されることなくリサイクルされ、受け継がれてきた。いま目の前にある金のコインは、かつてはローマの都で取引に使われていたかもしれず、ヴェルサイユの宮廷で王の身を飾っていたかもしれない。黄金は、人類の歴史とロマンを一身に凝縮した存在でもあるのだ

現代では化学合成技術により、純度一〇〇パーセント近い材料を用いることが可能になり、粒のサイズや、焼成温度も細かくコントロールできる。これらを用いれば、はるかに優れた「焼き物」を創り出すことも可能だ。いわゆるファインセラミックスと呼ばれるものがそれだ(中略)耐熱性も高いため、宇宙ロケットや大型加速器にも欠かせない存在となっている

人類の行動範囲を広げ、人類の能力を拡大してきたコラーゲンという材料は、いままた人類の寿命を延ばす役割を演じようとしている

有名なサイエンスライターであるカレン・フィッツジェラルドの『鉄の物語』(大月書店)には、民主主義が成立しえたのは、鉄が普遍的に存在するためだという説が紹介されている。青銅のもとになる鉱石は珍しいため、一部の支配階級だけが入手できるものであった。しかし鉄の鉱石はあちこちに存在するので、製錬の仕方さえわかれば多くの民衆がこれを手に入れることができる。それゆえに強力な武器は王の独占物ではなくなり、民衆に力を与えたというのだ

紙とても火に弱いことに変わりないが、より多量に安く生産できる媒体であるため、情報をコピーし、分散保存することも容易になる。これによって一冊や二冊を焼いても、情報を消し去ることができなくなったのだ。コストダウンによって大量生産が可能になった媒体は、情報のあり方そのものを変えてしまったといえる

よく、車輪は人類の偉大な発明のひとつといわれる。人類の発明の多くは、自然界にあるものからその原理を学んだものだが、車輪だけは完全なオリジナルだからだ。確かに、自然界には何百万という動物がいるが、車輪で移動するものは見当たらない

近年は、情報分野やバイオ分野の進展がめざましく、イノベーションのステージはこうしたジャンルに移ったかに見える。しかしこれらの分野の開発競争も、結局は材料という土俵の上での闘いに過ぎない。画期的な材料が出現すれば、その上に構築されるテクノロジーも全く別次元へと進化してしまう

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全部で12の材料の物語。読んでいてじつにワクワクしました。

われわれの文明やイノベーションがいかに材料の影響を受けているか。

そして歴史上の偉人は材料の産物であったことも、よくわかる内容です。

ぜひ読んでみてください。

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『世界史を変えた新素材』佐藤健太郎・著 新潮社

<Amazon.co.jpで購入する>
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◆目次◆

はじめに 「新材料」が歴史を動かす
第1章 人類史を駆動した黄金の輝き──金
第2章 1万年を生きた材料──陶磁器
第3章 動物が生み出した最高傑作──コラーゲン
第4章 文明を作った材料の王──鉄
第5章 文化を伝播するメディアの王者──紙(セルロース)
第6章 多彩な顔を持つ千両役者──炭酸カルシウム
第7章 帝国を紡ぎ出した材料──絹(フィブロイン)
第8章 世界を縮めた物質──ゴム(ポリイソプレン)
第9章 イノベーションを加速させる材料──磁石
第10章 「軽い金属」の奇跡──アルミニウム
第11章 変幻自在の万能材料──プラスチック
第12章 無機世界の旗頭──シリコン
終 章 AIが左右する「材料科学」競争のゆくえ
あとがき
主要参考文献

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