2018年6月7日

『人はだれでもエンジニア』ヘンリー・ペトロスキ・著 北村美都穂・訳 vol.5046

【今、復刊を強く希望する名著】
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先日、あるビジネス界の著名人とお話していたら、「今はもうエンジニアとデザイナーの時代だよね」ということをおっしゃっていました。

確かに、Tech系人材マーケットに詳しいプロフェッショナルに聞いたところ、今、エンジニアとデザイナーはどこでも引っ張りだこ。

なかでもエンジニアは、法外な給与オファーがもらえ、企業によってはストックオプションまで付く、夢の職業。シリコンバレーでアプリでも作って創業すれば、一夜で億万長者になることだって可能です。

だったら自分もエンジニアを目指して勉強しようか……と思っても、いざ勉強しようとすると、専門知識の壁に阻まれ、尻込みしてしまう。

「せめてエンジニアの思想・センスだけでも身につけば」と思う人に、これ以上ない、素晴らしい教科書を見つけたので、本日はそれをご紹介します。

とはいえ、本書はかつての名著にもかかわらず、絶版となっている希少品。手に入れようと思うなら、こんな書評を読んでいる場合ではありません。

あなたがキャリアを拓くために必要なことは、今すぐここをクリックして希少な中古品を買うことです!

『人はだれでもエンジニア』
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ということで、もう買ったか買えなかったかのどちらかだと思うので、そろそろゆっくり内容を紹介しましょう。

本書は、米デューク大学教授で、土木工学、失敗学などを専門とする、ヘンリー・ペトロスキ氏が、まったくの初心者に向けて、エンジニアリングの要諦を語った一冊。

深い教養でもって、エンジニアリングの世界の面白さ、奥深さを語っており、これを名著と呼ばずして何と呼ぶ、という世界です。

著者は、エンジニアリングを理解する上での「核心」を、このように紹介しています。いきなりしびれる文章です。

<エンジニアリングを理解する上の核心は、「失敗」──この本の議論の中では、機械や構造物が破損すること──だ。「失敗」を避けることが、エンジニアリングの、第一の、そして最大の目的だからだ。だから、すさまじい大惨事が起こったら、それは、つまるところ設計の失敗である>

すさまじい大惨事が起こった国の国民としては、これは無視できない書物なのがおわかりでしょうか。

以前にも、『失敗百選』という、エンジニアリングの名著を紹介しましたが、読み物としては、『失敗百選』を凌ぐ面白さです。手に入れられた人は、ラッキーですね。

※参考:『失敗百選』
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運良く中古を手に入れた出版社の方は、本書を復刊してください。BBMで10連発告知することをお約束します。

さっそく、ポイントをご紹介しましょう。

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エンジニアが作る構造物の強度や挙動を予知するというのは、ちょっと考えるほど簡単で、すっきり割り切れる仕事ではない

三びきの子豚は三びきとも、狼に壊されてはならないという構造上の要求は心得ていた。だが、狼の乱暴な力がどのくらい強いかについては、三びきの考えは違っていた

疲労というエンジニアリング上の概念を学生に教えるとき、私はひと箱の紙クリップを教室に持って行く。学生たちの目の前で、一つのクリップを平らに伸ばし、またもとのように曲げる。曲げ伸ばしを繰り返しているうちにクリップは二つに折れる。これが疲労破壊というものだ、と学生たちに教え、何回曲げ伸ばしすればクリップが折れるかは、クリップの強度によるだけでなく、曲げ伸ばしの激しさにもよるのだと言ってきかせる

この壊れ方が私にとって面白かったのは、英語で最も高い頻度で使われる文字と、スティーヴンの「スピーク・アンド・スペル」で疲労破壊を来したキイとの間に深い関係があることだった。「ENTER」キイが最初に折れたのに不思議はない。単語を一つ入力するごとに叩かれるので、どの文字のキイよりも使用回数が多いからだ。英語で最も多く出てくる八つの文字──E、T、A、O、I、N、S、Rの順──のうちの五つ(E、T、O、S、R)のキイが、最も早く壊れたうちに入っていた

われわれの中には、膝がまず悪くなる人もいるし、まず腰にくる人もいるが、身体中の間接が全部一時にばらばらになる人はいない。そこでホームズは、どこにも弱い繋ぎ目のない馬車を設計しようと考えることの愚かしさを構想したのだった

われわれが作るもの何一つとして、最初の強さを永久に持ち続けるものはない

自分が設計しようとする構造物には、重力以外にいかなる力が作用することになるかを、可能なかぎり予想すること

◆114人が死亡。米国史上最大の建造物惨事と言われた、カンザス・シティ・ハイアット・リージェンシー・ホテルの事故の説明簡単な比喩を使ってこの問題のメカニズムを考えてみよう。もとの設計の吊り棒を一本のロープと考え、二層の歩廊は二人の人で、そのロープにつかまっているのだと考えよう。この二人の体重は、ロープを握っているそれぞれの人の手を通してロープにかかる。もとの設計の歩廊の支持法は、一本の同じロープの上部と下部に、別々に二人の人がつかまっているのと同じである。ロープの強度が十分で、それぞれの人の握る力が十分強ければ、二人ともロープにつかまって落ちずにいることができる。しかし、もし下の人がつかまっているのが同じロープではなく、上の人の脚に結んである別のロープだとしたら、上の人の握力は二人分、ざっと二倍の体重を支えなければならなくなる。決定的な因子になるのはロープの強度ではなくて、上の人の握力になるのである

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巧みな比喩と丁寧な説明により、複雑なはずのエンジニアリングの考え方が、すっきり頭にインストールされます。

本書を読んでから、今、世界が向かいつつあるAI、IoTの世界(自動運転含む)を考えると、やはりエンジニアリングの基礎教育は、これからMUSTだと思わざるを得ません。

その時、最適な教科書となるのは、おそらく改訂した本書のはずです。

ぜひ読んで、エンジニアリングの思考とセンスを、叩き込んでください。

もちろん「買い」の一冊です。

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『人はだれでもエンジニア』ヘンリー・ペトロスキ・著
北村美都穂・訳 鹿島出版会

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◆目次◆

図版一覧
まえがき
1 人間であるということ
2 人間は転びながら成長する
3 遊びから学び 実人生から学ぶ
付録 「親方の自慢の傑作」オリヴァー・ウェンデル・ホームズ作
4 エンジニアリングとは仮説である
5 成功とは失敗を予見すること
6 設計と旅行の共通点
7 設計と文学の共通点
8 事故は起こるのを待っている
9 安全を数字であらわせば
10 割れ目が突破口になる
11 バスのフレームとナイフの刃
12 間奏曲──水晶宮の成功物語
13 橋は落ちてはまた架けられ
14 探偵エンジニアリングとエンジニアリング・フィクション
15 計算尺からコンピュータへ──忘れ去られる昔のやり方
16 混沌の中を見通す人
17 設計には限界がある
訳者あとがき
索引

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