【世界を変えた「陰謀」の数々】
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昔、遠藤周作の『沈黙』を読んだ時、子供心に「転ぶ」という概念を知り、衝撃を受けました。
人間は、どんなに善良な人でも、どんなに信じるものがあっても、心の弱さや欲ゆえに「転ぶ」ことがある。
でも、もしそれが世界的リーダーだったり、一国の宰相だったり、われわれの生活を左右するグローバル企業だったりしたら……。
……世界はおそろしい場所になってしまいそうですが、現実には、既にそんなことが起こってしまっているようです。
本日ご紹介する一冊は、英BBCの気鋭のジャーナリスト、ジャック・ペレッティが、世界が「転んだ」瞬間を、入念な取材により、明らかにしたもの。
現金をなくし、浪費の痛みをなくし、人間を借金漬けにして、さらには人間そのものを通貨に変えようとするITベンチャー、われわれの生命を握る食品に投機を仕掛け、「アラブの春」を招いた4大食品会社、ジョン・レノンを最初のクライアントにし、富裕層の租税回避を当たり前のものとしたタッカーとブラマー、「肥満」を作り出すことで大儲けした生命保険会社と食品会社、人々を薬漬けにする製薬会社とその取り巻き、終わりなきアップグレードにより、人々を奴隷化するアップル…。
頭の良い人間たちが考えた「仕組み」がいかにわれわれの社会・経済を蝕んでいるか、よくわかるレポートです。
読んでいて怒りがこみ上げてくる内容ですが、さっそく、内容をチェックしてみましょう。
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決済のイノベーションは、一般大衆のおカネの管理を助けるどころか、人々をますます借金漬けにしたのだ
欧米では、アラブの春は自由と民主主義を求める、自発的な怒りの感情のほとばしりとして描かれていた。だが、原因は別のところにあった。4大食品会社が国際市場で小麦への投機を一斉にはじめたことが直接の原因だ
ADM、バンジ、カーギル、ルイ・ドレフュスは、この地球上で最大の食品会社だ。頭文字をとってABCDとして知られている。この4社によって、世界の小麦の9割が支配されている。つまり、ABCDが地球の人口を食べさせ、食糧の価格を決めている
空売りの仕組みを発明したのがダールだった。(中略)ダールは資本主義をギャンブルに変え、トレーディングフロアというカジノで莫大な金額をサイコロの目に賭けていた。サブプライムも、ABCDの空売りも、アラブの春も、そこにつながる道への最初のきっかけを偶然にも作ってしまったのはダールだった
世界をまたにかけるグローバル企業がもっとも「税効率のいい」場所を探して登記し、無数のペーパー会社を経由して利益を迂回させている場合、それで中小企業の税負担が軽くなるわけではない。むしろ、成長中の小さな企業に大企業が回避した負担を負わせることになり、起業家精神を破壊してしまう
顧客の保険料の支払額を見ていると、体重が大きく影響していることに気がついた。そこで、ダブリンはひらめいた。契約者の体重の基準を切り下げて、それまで「太り過ぎ」に分類されていた人たちを、健康に害を及ぼす「肥満」に分類すれば、契約者が大幅に増えるはずだ
いちど薬漬けになった社会では、人びとは薬を要求し続ける。ペットが死んだから抗うつ剤をくれとやってくる患者がいるとウィリアムズ医師は言っていた。そんな人たちは悲しいだけでうつではないし、悲しみを感じるのは人間なら当たり前だ
議事録には彼らの計画が細かく描かれていた。すべての電球の寿命を6か月に縮めること。計画に従わない会社にはスライド制の罰金が課せられること。罰金はスイスフランかドイツマルクで払うこと
アメリカの巨大農業コングロマリットのカーギル/ADMは、児童の肥満を減らすためにソフトドリンクへの砂糖税を導入したメキシコを訴えた。カーギルが勝った
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前半はまさにタイトル通り「密約」で、読んでいてワクワクしますが、後半はどちらかと言うとよくある現代ビジネスの批評になっていたのが残念。
気鋭のジャーナリストが書いているだけあって、文章は厚さが気にならないぐらい面白いのですが、11章以降はイマイチでした。
ただ、政治・経済の裏舞台を知り、ずる賢い人間がどんな罠をわれわれに仕掛けているか知るだけでも、良い生き方を考えるきっかけになると思います。(つまり、大組織の意図とは逆の生き方をすればいい)
ぜひ読んでみてください。
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『世界を変えた14の密約』ジャック・ペレッティ・著
関美和・訳 文藝春秋
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◆目次◆
はじめに 企業による密約が、わたしたちの世界を決めていた
第1章 現金の消滅
第2章 小麦の空売りとアラブの春
第3章 租税回避のカラクリ
第4章 貧富の格差で大儲けする
第5章 肥満とダイエットは自己責任か
第6章 国民全員を薬漬けにする
第7章 働き方が改革されない理由
第8章 終わりなき“買い替え(アップグレード)”
第9章 権力を持つのは誰か
第10章 企業が政府を支配する
第11章 フェイクニュースが主役になるまで
第12章 ロボットと人間の未来
第13章 人類史上最大案件=「知性」の取引
第14章 21世紀のインフラストラクチャー
謝辞
ソースノート
訳者あとがき
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