【エマニュエル・トッドの予言の秘密】
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本日ご紹介する一冊は、ソ連崩壊、リーマン・ショック、アラブの春、ユーロ危機、英国EU離脱をことごとく的中させてきた歴史家であり予言者、エマニュエル・トッドによる時事論集。
なかでも注目は、100ページ近くに及んで書かれている氏の予言的中の秘密、「トッドの歴史の方法」と、それに続く「人口学から見た二〇三〇年の世界」です。
まず予言に関して、著者はこんなことを述べています。
<なぜ知的なエラーが起きるのか? いきなり「人間とは何か?」と自問して、観念から出発するから歴史を見誤ってしまうのです。そうではなく、まず無心で歴史を見る。すると、むしろ歴史の方が「人間とは何か?」という問いに答えてくれます>
そして、こうも述べています。
知識人なら、全員が見習いたい態度です。
<科学とは自分の間違いに気づくこと>
面白かったのは、著者が<私が新しい発見をするのはいつも、私生活面で自分が危機にあるとき>と述べていたこと。
エマニュエル・トッドほどの人であっても、人間は<調子が悪いときにしか、習慣化した考えを改めることはしません>ということなのです。
そして、注目なのは、「人口学から見た二〇三〇年の世界」で、各主要国の行方をうらなっていること。
すべてをご紹介できませんが、気になるポイントをいくつかピックアップしてみましょう。
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歴史家にとって何よりも大事なのは、まず多くのデータを集めることです。天才的な着想を得ることではありません
歴史人口学は統計的な変数を分析します。そうした数値の比較を通じて、倫理的な目論見とは関係なしに、ある「発見」に至ることがあるのです。たとえば、家族構造とイデオロギーおよび経済体制の関係に思い至ったのは、「外婚制共同体家族」の分布と「共産主義勢力」の分布がほぼ一致するという発見がきっかけでした
実は、共産主義革命は、プロレタリアート(労働者階級)を有する工業先進国では一度も実現していません。プロレタリアート主導による共産主義革命というマルクス主義の仮説は、事実によって否定されているのです。実際の革命はむしろ、資本主義化以前の段階にあった「外婚制共同体家族」の社会で生起しました
自殺率が高くなり、精神疾患やアルコール依存症患者数が増えていたのは労働者階級ではなく、中産階級でした
「イトコ婚」という同一グループ内での結婚[内婚]は、文化の閉鎖的・内向的傾向を示しています
イギリスでも、フランスでも、ロシアでも、革命は、「ストーンの法則」の通り、中間層の識字率が高まることによって起きたのです!「アラブの春」も、中国の革命も同様です
ネオリベラリズムの根本的矛盾──「個人主義」は「国家」を必要とする
「家族」というものをやたらと称揚し、すべてを家族に負担させようとすると、かえって非婚化や少子化が進み、結果として「家族」を消滅させてしまう
ドイツには大勢のトルコ系移民が暮らしていますが、彼らの社会統合は成功しているとは言い難い状況です。ドイツが完全な外婚制[イトコ婚の禁止]であるのに対し、トルコ人の内婚[イトコ婚]率は約一〇%で、ここにトルコ人社会とドイツ人社会の大きな文化的な違いがあります。ところが、シリア人の内婚率は約三五%なのです
平等主義が意識の根底にある中国人にとって現在の格差は、他の国人々が感じるよりも一層、受け入れがたいものになっている(中略)一定の教育を受けたけれども高等教育には進まない層が、マジョリティを占めている。この状態は、どこの国でもナショナリズムが激しく燃え上がる危険性を秘めている
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著者が歴史人口学者・家族人類学者であり、それゆえに生まれてきた「家族構造とイデオロギーおよび経済体制の関係」という視点は、歴史を見る上でじつに斬新でした。
「内婚率(イトコ婚)」は、文化を見る上で、ひとつの物差しになりそうですね。
それにしても、歴史人口学者の速水融氏がエマニュエル・トッドに影響を与えていたとは。日本人として、誇らしいことですね。
日本人が、自分たちの思想の根源を知る上でも、少子高齢化や子育て・介護問題など、現在の困難の原因を知る上でも、ぜひ読んでおきたい一冊です。
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『問題は英国ではない、EUなのだ』エマニュエル・トッド・著
堀茂樹・訳 文藝春秋
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◆目次◆
日本の読者へ──新たな歴史的転換をどう見るか?
1.なぜ英国はEU離脱を選んだのか?
2.「グローバリゼーション・ファティーグ」と英国の「目覚め」
3.トッドの歴史の方法──「予言」はいかにして可能なのか?
4.人口学から見た二〇三〇年の世界──安定化する米・露と不安定化する欧・中
5.中国の未来を「予言」する──幻想の大国を恐れるな
6.パリ同時多発テロについて──世界の敵はイスラム恐怖症だ
7.宗教的危機とヨーロッパの近代史──自己解説『シャルリとは誰か?』
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