【これは名著だ。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4772695478
本日ご紹介する一冊は、最近読んだ中でイチオシの一冊。
「鋼鉄」や「紙」「コンクリート」「泡」「プラスチック」「ガラス」など、人類の文明に大きな影響を与えた材料の歴史を、誰にでもわかるようにまとめた、知的好奇心あふれる一冊です。
われわれはつい、ビジネスのすべてが人間の頭の中から生まれるように思いがちですが、実際には、物質や技術の性質・制約条件がイノベーションを生むことが多い。
なかでも本書は、「材料」がわれわれの文明に与えた影響を考えるのにもってこいの一冊です。
ピラミッドを生んだ銅、ローマの水道橋を生んだ鉄や鋼鉄、錆問題を解決したステンレス、切符や紙幣を生み出した紙、建物の歴史を変えた鉄筋とコンクリートのマリアージュ…。
われわれの社会を取り巻く「物質」の性質と、なぜそれが広範に用いられるようになったのか、その技術的な理由がわかる、ビジネスパーソン必読の教養書です。
不動産を買うにしろ、アート・インテリアを買うにしろ、観光旅行に出掛けるにしろ、本書を読んでからやるのとそうでないのとでは、驚くほど満足度に違いが出るはずです。
さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。
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転位とは金属結晶内部の欠陥、それさえなければ完璧な原子の結晶配列に存在するずれのことで、本来ないはずの原子レベルの分断である。聞こえは悪いが、実はたいへん有用だ。転位があるおかげで金属は道具、刃先、そして究極的にはカミソリの刃に用いるたいへん特別な材料となっている。転位があるからこそ金属結晶は形を変えられる(中略)ゼムクリップを曲げるとき、曲がっているのは実はこの金属結晶である。結晶が曲がらなかったら、ゼムクリップはもろくも棒のように折れるだろう
酸化クロムは透明で硬い鉱物で、鋼鉄にとてもよく付着する。つまり、剥がれ落ちないし、そこにあるとは気づかれない。実は、酸化クロムは目に見えない科学的な保護層を鋼鉄の表面全体につくる。さらに、今日知られているように、この保護層には自己回復力がある。あなたがステンレス鋼をひっかいて保護層を破っても、層は再び形成されるのだ
スプーンに味がしないのはあの酸化クロムの保護層のおかげであり、その理由は舌が鋼鉄にじかに触ることがなく、唾液が鋼鉄と反応できないからである
コットン紙は最高の偽造防止技術の一つでもある。木を材料とする紙を使った偽造が難しいからだ。コットン紙特有のきめはATMがチェックしているし、手触りの違いについては人間もかなり敏感である。怪しい紙幣に出くわしたら、それがコットン紙かどうかを確かめられる簡単な化学テストがある。このテストはヨウ素ペンを使って多くの店で行われている。セルロースでできた紙幣にヨウ素ペンで何か書くと、ヨウ素がセルロースに含まれるデンプンと反応して顔料ができて黒く見える。同じペンでコットン紙に何か書いても、ヨウ素が反応するデンプンがないので何の痕跡も浮かび上がらない
どんな化学反応でもそうだが、材料の割合が不適切だと反応が台無しになる。コンクリートの場合、加える水が多すぎると反応相手であるセメント粉末のケイ酸カルシウムが不足し、水が構造物の中に残ってもろくなる。同じように、加える水が少なすぎると反応しないセメントが残り、やはり構造物が弱くなる
鉄筋コンクリートに曲げ応力が加わると、鋼鉄の内部骨格がそれを吸収し、大きなひびが入るのを防ぐ。鉄筋コンクリートはこの二種類の材料が一体化したものであり、コンクリートを専門家の材料から史上最も用途の多い建材へと変える
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最近、年配のデキるビジネスパーソンとお話していて思うのは、みなさん驚くほど「材」に詳しいということ。
建材、食材、人材、財産…。
それが何であれ、本来持っている性質から考える、というのは、物事を論理立てて考える基本だと、本書を読んで思わされました。
ぜひ読んでいただきたい一冊です。
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『人類を変えた素晴らしき10の材料』マーク・ミーオドヴニク・著
松井信彦・訳 インターシフト
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http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4772695478/
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◆目次◆
はじめに すぐそこにある材料の内なる宇宙へ
第1章 頑強…文明を変えた強くしなやかな「鋼鉄」
第2章 信用…記憶や愛を刻印する「紙」
第3章 基礎…社会の土台として進化する「コンクリート」
第4章 美味…「チョコレート」の秘密
第5章 驚嘆…空のかけらを生む「フォーム(泡)」
第6章 想像…映画も音楽も「プラスチック」のおかげ
第7章 不可視…なぜ「ガラス」は透明なのか
第8章 不可壊…「グラファイト」から世界一薄く強固な物質へ
第9章 洗練…技術と芸術が融合した「磁器」
第10章 不死…九八歳でサッカーを楽しむ「インプラント」の私
第11章 人工…材料科学の未来
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