2017年1月23日

『失敗の科学』 マシュー・サイド・著 有枝春・訳 vol.4569

【これは名著だ。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4799320238

最近、良い小説がたくさん出ているため、いくつか読んで毎晩のように涙を流しています。

小説は、人々が信じたいことを見せるのが仕事。

でも、ビジネスで成果を上げるには、「信じたくないことを見る」能力が必要だと思っています。

特に大切なのは、失敗を見つめ、そこから学ぶこと。

そこで本日は、失敗について論じた名著『失敗の科学』をご紹介します。

著者は、英『タイムズ』紙の第一級コラムニスト、マシュー・サイド氏。

どこかで聞いた名前だと思ったら、以前、BBMでもご紹介した、『非才!』の著者でした。

※参考:『非才!』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4760138382

天才教育について論じ、<成功の鍵を握るのは才能ではなく練習なのだ>という主張を展開した著者が、なぜ「失敗」を論じるのか。

読んでいくうちに、その真意がつかめてきました。

著者が述べているのは、失敗こそが最大の学習機会であり、そこから積極的に学ぶことでわれわれは成長することができる、という極めてポジティブな話。

しかし、そこに至るには、失敗を認められない、フィードバックを受け取れないという人間のバイアスを知ることが必要です。

そのため本書の前半には、人類史上最悪の事故・事件の事例がいくつも紹介されているのです。

副鼻腔炎のごく普通の手術で亡くなったエイレンの医療事故、ベテランパイロットが致命的なミスをし、10名が亡くなったユナイテッド航空173便の悲劇、正しい治療法と信じられ、長年人々の命を奪っていた瀉血療法、刑務所訪問により80~90%の問題児が「更生した」と信じられた「スケアード・ストレート」プログラム…。

いずれのケースも、われわれのバイアスが関係しており、本書では、そのメカニズムを詳しく知ることができます。

なぜ失敗が起こるのか、なぜ失敗が放置されるのか、なぜ間違ったやり方が信奉されるのか…。

人類進展のカギが、ここに示されています。

さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。

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医療過誤が最も起こりやすいのは、医者に悪意があるときでもやる気がないときでもない。患者のために真面目に仕事に取り組んでいるときなのだ

何かミスを犯して自尊心や職業意識が脅かされると、我々はつい頑なになる

「クローズド・ループ」とは、失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態を指す。逆に「オープン・ループ」では、失敗は適切に対処され、学習の機会や進化がもたらされる

集中力は、ある意味恐ろしい能力だ。ひとつのことに集中すると、ほかのことには一切気づけなくなる

タスクの終了後、それぞれの学生にどのくらいの時間が経過したか尋ねてみると、簡単なタスクを終えた学生は正しい時間を答え、難しいタスクを終えた学生は、実際より40%も短い時間を答えた

問題は当事者の熱意やモチベーションにはない。改善すべきは、人間の心理を考慮しないシステムの方なのだ

心理療法士は、治療が成功した患者の精神機能がその後も良好かどうか、あるいは結局失敗に終わったかどうか、まったく知らない。つまり、治療の長期的な影響に関するフィードバックがまったくないのだ

「私に問題があるかもしれない」と言えるか?

組織の上層部に行けば行くほど、失敗を認めなくなる

全作品中最も「質」の高い作品を出したのは、「量」を求めたグループだった

「物語」が人を欺く

この「◯◯をしなかったら、起こっていたかもしれないこと」は検証実験において「反事実」と呼ばれる(中略)「反事実」は目に見えない。売り上げが伸びた理由はもっとほかに隠れているかもしれない

複雑な世界から物事を学ぶには、その複雑さと向き合わなければならない。何でも単純に考えてすぐに誰かを避難するのはやめよう。肝心なのは、問題を深く探って、本当に何が起こったのかを突き止めることだ

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個人的に刺さったのは、暗闇の中で(フィードバックなしで)練習をしても、ゴルフは上達しない、という視点。

著者の言葉で言い直せば、<間違いを教えてくれるフィードバックがなければ、訓練や経験を何年積んでも何も向上しない>ということです。

そして、出版に携わる人間が心しなければならないのは、<何にでもあてはまるものは科学ではない>という指摘。

今、まさに出版界で大流行のアドラーへの批判は、出版業界の人間はもちろんのこと、ビジネス書読者全員が読んでおくべきでしょう。

<あらゆるものが当てはまるということは、何からも学べないことに等しい>

われわれは、「不変の真理」や「共通の成功法則」をつい追い求めてしまいがちですが、本書はそのことを戒め、個々のケースから学び、徐々に上達していくこと(マージナル・ゲイン)を推めています。

なぜベッカムは「世界最高のフリーキック」を打てるようになったのか。

ぜひ、本書を読んで、失敗から学ぶことの素晴らしさを学んでください。

文句なしにおすすめの一冊です。

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『失敗の科学』マシュー・サイド・著 有枝春・訳 ディスカヴァー・トゥエンティワン

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◆目次◆

第1章 失敗のマネジメント
第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む
第3章 「単純化の罠」から脱出せよ
第4章 難問はまず切り刻め
第5章 「犯人探し」バイアス
第6章 究極の成果をもたらすマインドセット
終章 失敗と人類の進化

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