【力作。必読。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4103500719
基本、ビジネス書の読書は根気のいる大変な作業だと思っていますが、時折、そんな気持ちをまったく感じさせない本に出合います。
読み始めたらぐいぐい引き込まれて、感動のあまり、胸が熱くなる。それでいて、ビジネスや人生の教訓にあふれている…。
そんな本に出合うと、本当に満ち足りた気持ちになりますが、本日ご紹介する『ロケット・ササキ』は、まさにそんな一冊です。
ジョブズが憧れた、伝説のエンジニアにして、孫正義の窮地を救った恩人。電卓戦争を制した「電子工学の父」シャープ・佐々木正氏の評伝を、ジャーナリストの大西康之さんが書いています。
じつは土井は、ご本人にお会いしたことがあるのですが、本当に気さくな方で、心から尊敬できる方です。
本書は、そんな佐々木氏の、知られざる生い立ち、戦争体験、そして技術への熱い思いと天性のセンスを知ることができる内容です。
日本がアメリカに追い付け、追い越せと意気込んでいた時代の空気を感じ、読んでいて何度も胸が熱くなりました。
例えるならば、『下町ロケット』の登場人物たちの熱きドラマが、目の前でリアルに展開される感じです。
スティーブ・ジョブズ、孫正義、江崎玲於奈、早川徳次…。
歴史に残る人物たちが繰り広げるドラマに、下手なフィクションなど到底叶わない魅力を感じました。
さっそく、ポイントをチェックして行きましょう。
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起業家たちの名は歴史に刻まれたが、彼らが革命を起こすのに必要なチップを作った男の名は知られていない。そのチップを世に送り出したのが佐々木正である
台北高校に進む時、文学青年の正は文系を志望していた。しかし八二郎は言った。「物事の理を知るのは理系の学問。文学は理を知った後でも遅くない」
「熱帯の木と北方の木を接ぐ方法を考えてみろ」と教授は正に課題を出した。(中略)なるほどリンゴに接ぎ木したマンゴーはすぐに枯れてしまう。原因を調べると、樹液が流れる管の太さがまるで違うことがわかった。熱帯で早く成長するマンゴーの管は太く、寒さに耐えてゆっくり成長するリンゴの管は細い(中略)二つの異なる太さの管をどう接ぐか。正は管の細いリンゴの枝を斜めに切って表面積を増やした。得意の数学で二つの管がぴったり合うように計算
した。すると熱帯のマンゴーと北方のリンゴが見事に繋がり、リンゴのような形のマンゴー「リンゴマンゴー」の実を結んだ。「そうか、異質なものでも工夫をすれば接ぐことができる。違うものを接げば、そこから新たな価値が生まれるのか」これが、のちに正の技術者としての信念となる「共創」へとつながっていく
(鈴木さんはお国のために若い命を散らし、自分は死にぞこなった)佐々木は自分だけが生き残ったことに後ろめたさを感じた。生き残ったのが自分でよかったのか。鈴木の方がお国のために、役に立てたのではないか
敵でも味方でも、使えるものはとことん使う。アメリカを貫いていたのは徹底した合理主義である。「使える」と判断した人材には厚遇を与える。そうすることで敵を味方に変えるのだ
「良い技術であれば、他者にも使ってもらい、お客さんにどんどん使って貰えばいい」それが早川徳次の信念だった
電卓市場にカシオあり。カシオ001は早川電機に対する強烈な宣戦布告だった。これを見た佐伯が燃えた。「うちは、もっと安くできるやろ。八百屋のおかみさんに買ってもらうんだから8万円くらいにならんか」佐伯は理屈ではなく感覚で「10万円を切れば需要が爆発する」と読んでいた。「専務、やっとの思いで50万円を切ったのに、8万円は殺生ですわ」浅田は現場を代表して抗弁した。だが佐伯は笑って取り合わない。「それはおかしいなあ。君らは技術のプロやろ。わしは素人、アマチュアやで。プロがアマに向かって『できません』とはおかしな話やないか」
「日本人はイノベーションが苦手」
そんなことはない。我々の先達は資金も設備も何もない状態で、ゼロからイチを生み出し、世界を驚かせてきたではないか。日本の電機産業には「ロケット・ササキ」がいたのである
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読んでいて感じたことは、今の日本の問題は技術でもマーケティングでもないということ。
今の日本に欠けているのは、ずばり「こころ」です。
反骨心、好奇心、チャレンジ精神、恩に報いようとする気持ちが、いかに奇跡を成し得るか。
われわれは、もう一度基本に立ち返るところに来ているのかもしれません。
ひさびさに、感動しました。
この週末は、家族を無視してでも本書を読むことをおすすめします。
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『ロケット・ササキ』大西康之・著 新潮社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4103500719
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◆目次◆
プロローグ 孫正義の「大恩人」、スティーブ・ジョブズの「師」
第一章 台湾というコスモポリス
第二章 「殺人電波」を開発せよ
第三章 アメリカで学んだ「共創」
第四章 早川電機への転身
第五章 「ロケット・ササキ」の誕生
第六章 電卓戦争と電子立国への道
第七章 未来を創った男
エピローグ 独占に一利なし
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