2015年7月30日

『逆境エブリデイ』大川弘一・著 vol.4027

【最短で上場、最短で資産を失った男】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062188155

本当に面白いビジネス書というのは、書き手がお金に困っていなくて、書かなくても困らない人であることが条件。

現役時代は頑なに筆を執ろうとしなかった「宅急便の祖」小倉昌男氏による『小倉昌男 経営学』をはじめ、『ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録』など、名著と呼ばれる本は、大体この条件を満たしています。

※参考:『小倉昌男 経営学』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822241564

※参考:『ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062167921

一方で、同じ条件を満たしていながら、玄人受けを狙い過ぎて(いやそもそも狙ってもいなかったのかもしれないですが)、売れない本というのも存在します。(ボスコン元日本代表、内田和成さんの『スパークする思考』などがその好例です。良い本です)

※参考:『スパークする思考』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4047101672

本日ご紹介するのは、どちらかと言えば後者に当たる一冊。玄人好みの某カリスマ税理士が推薦してくれなかったら、絶対に読んでいなかったであろう一冊です。

著者は、ご存じ、株式会社まぐまぐの創業者大川弘一さん。

ユーザー数1300万人、設立から364日の日本最短記録でナスダックジャパンに上場したが、手にした資産も最速で失ったというすごい「記録?」の持ち主です。

本書は、リーマンショックによる自社への投資計画の中止に遭い、資金繰りに追われていた所に元役員に訴訟を起こされ、心身ともにボロボロになった著者が、世界中のカジノでポーカーゲームを挑む、という話です。

話的には、伊集院静さんの『いねむり先生』にも似た癒しの旅。(夏目雅子さんに先立たれた伊集院静さんは、ギャンブルの神様として有名な作家、色川武大(阿佐田哲也)氏と出会い、旅に出る)

※参考:『いねむり先生』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087450996

一見くだらなくて笑えるギャンブル旅のエピソードのなかに、ビジネスや生き方のヒントが隠されているという、まさに玄人好みの一冊です。

ノウハウ書ではないので、エッセンスを抜き出すのが難しいのですが、いくつか気になった部分をピックアップしてみましょう。

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僕が23歳になる少し前、僕の持ち物は傘と雨合羽だけでした。大学を中退し、どこに行くあてもなく西に向かった僕は、その後の人生で多くの時間を過ごす京都にたどり着きました。八坂神社の境内で屋根を見つけ、雨をしのぎ、翌日に公衆電話から知人を頼って酒屋のバイトを紹介され、僕の京都生活が始まりました。やがて僕はその街で会社を始め、会社は栄え、関連会社の株式が上場するという形で大きめのゴールを通過しました。上場した会社の評価額は300億円を超え、5年前に僕が右手に持っていたビニール傘を6000万本買えるだけの株価になりました。ところがそこから滝のように株価は下がり、要所要所で裏切られ、持っていた傘はみるみる減っていきました

あぁ……。
こんな悪夢になるんなら……。
一審の資料にクマちゃんの印鑑なんか押すんじゃなかったよ……。

「ズルじゃなくて、ズルする奴を非難して負けるくらいなら、ズルする奴にどうやってでも勝つ方法を真剣に考えて勝つほうがずっといいとおもうんです。特に僕らみたいなベンチャーは」(役員・小森氏)

「うん。その<まるわかり感>が今回の敗因でもあったんじゃないですかね」(役員・小森氏)

<働く>ということは競争だ。でも<生きる>ということは競争か?

企業が作り出す商品のみならず、人間の働き方も、人間の生き方も、湖に進むネズミが前のネズミの背中だけを見て進んでいくように、それぞれに確信のないまま衆愚を前進させていく。悲しいことにビジネスは、そうしたパニックの先に罠をつくることばかりが主流になった。僕の過ごしたITも、良いものを作って長く使ってもらうより、免責をした上で反射的にクリックさせる罠のことを<デザイン>と称するまでに落ちぶれた

酒を飲んでもカネを稼いでも感じることのなかった生きていることとの邂逅を、生まれた国から遠く離れた場所で感じている。
長く居よう。
できるだけこの場所に長く居続けて、また明日もここで1日過ごすんだ。弱い者につけ込んで勝つんじゃなく、世界中から来た同類たちと少しでも長く居られる幸せを噛み締めながら生きていよう

どこの国でいま何をしていようと、生きているうちに自由に気づき、生きているうちに明日生きる場所を選べたら。少しだけ離れた場所にある別の生き方に気がついて、なんとなく続けてきたことをやめることができたなら。この世界はなんと美しく、なんと輝いて見えるんだ

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基本的には、ひたすら世界中でギャンブルをするだけの一人旅をレポートしたものですが、まあ、笑える、笑える。

理屈抜きに面白い本ですが、あえて効能を謳うとしたら、起業家が生き方を考える上で、とても参考になる本です。

ぜひ読んでみてください。

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『逆境エブリデイ』大川弘一・著 講談社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062188155

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◆目次◆

東京高等裁判所第十九民事部和解室
ロサンゼルス
ナパバレー
シリコンバレー
ロングドライブ
アリゾナからテキサス
ビロクシ
北上
長野刑務所
ソウル・APPT
ハイローラー
フランクフルト
カジノサンレモ
モナコ──バルセロナ
イビザ島
ムンバイ
ゴア
西海岸縦断
シリコンバレー
カンボジア・APT

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