2012年11月14日

『七つの会議』池井戸潤・著 vol.3039

【商売には、売り渡してはいけないものがある。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532171164

本日の一冊は、ひさびさのフィクション。

『下町ロケット』で第145回直木賞を受賞した、池井戸潤さんによる話題の新刊、『七つの会議』です。

※参考:『下町ロケット』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093862923

池井戸さんといえば、自動車会社のリコール隠しを取り上げた『空飛ぶタイヤ』や中堅ゼネコンを舞台にした『鉄の骨』など、元銀行の強みを生かした、リアリティあふれるビジネス小説が有名ですが、今回は、大手総合電機の雄・ソニックの子会社、東京建電が舞台です。

※参考:『空飛ぶタイヤ』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062764520

※参考:『鉄の骨』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062770970

本日、世間ではトヨタの「プリウス」「カローラ」のリコールがニュースとなっていますが、今回の『七つの会議』も、リコールがテーマの小説です。

事件は、ノルマに厳しく、隠蔽体質の東京建電で、奇妙なパワハラ騒ぎが起こったことから始まります。

かつてトップセールス、なぜか今はグータラ社員の八角が、営業第一課課長の坂戸に執拗に叱られ、坂戸はパワハラ委員会にかけられ、左遷される。

坂戸は、トップセールスマンのエリート課長で、将来を嘱望された人物。それがなぜ、こんなに簡単に左遷されたのか?

代わりに課長になった原島は、調べているうちに、組織にはびこる、恐ろしい病理を知ることになります。

コストを理由にいったんは東京建電の坂戸から切られた下請けの「ねじ六」が、なぜか倒産寸前に、原島に救われる。

その奇妙な行動の裏には、グループの屋台骨を揺るがしかねない、恐ろしいスキャンダルが隠れていたのです。

…ということで、続きは読んでのお楽しみですが、今回も楽しませていただきました。

これまでの作品もそうですが、文中、登場人物が吐いたセリフを読んでいるだけで、勉強になります。

「会社にとって必要な人間なんかいません。辞めれば、代わりを務める誰かが出てくる。組織ってそういうもんじゃないんですか」(坂戸)

「仕事っちゅうのは、金儲けじゃない。人の助けになることじゃ。人が喜ぶ顔見るのは楽しいもんじゃけ。そうすりゃあ、金は後からついてくる。客を大事にせん商売は滅びる」(村西の父)

「追い詰められたとき、ひとが変わる。自分を守るために嘘も吐く。あんただって、プレッシャーに負けて不正を許容した。同じことなんじゃないのかよ。誰にだって、苦しい事情ってのは存在するんだよ。だけど、そんなのは不正の理由にならねえ」(八角)

日本企業は今、どこも大変だと思いますが、そんな時代にあってなお、誠意を失わないことが商売では大切です。

東日本大震災後、日本人全員に希望を与えてくれた『下町ロケット』の著者が、一転して警句を放つ。

経営者は、心して読みたい一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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その会社に入りたいという熱意だけで、採用されることはないということだ。

「どんな会社でも、必要としてくれるところで働けるのなら、それが一番幸せだ」

「会社にとって必要な人間なんかいません。辞めれば、代わりを務める誰かが出てくる。組織ってそういうもんじゃないんですか」

「会社なんてどこも同じだ」八角は断言した。「期待すれば裏切られる。その代わり、期待しなけりゃ裏切られることもない(中略)出世というインセンティブにそっぽを向けば、こんな気楽な商売はないさ」

「組織の論理なんて、ほんとはないんよ」奈々子は達観していた。「口から出任せというか、単なる方便なんやから。別に村正さんに限らず、ウチに出入りしている銀行員の誰にも、一本スジの通った考えなんてない。あるのはその時々の都合だけやで、みんな」

このご時世、重要なのは作り手の真心などではなく、価格競争力だ。手間をかければかけるほどそれは失われていき、いまやねじ六は時代の荒波に飲み込まれる寸前である。

つまり、過去を正当化したいのなら、とどのつまり、いま目の前にある問題を解決するしかないのだ

大企業を儲けさせるために下請けが赤字になる。こんなことをしていたら、日本のものづくりは根底からダメになると思うのだが、サラリーマンである調達担当者にそれをいったところで始まらない。

人生の新しい道を切り拓くには、なにかを捨てなければならない

「仕事っちゅうのは、金儲けじゃない。人の助けになることじゃ。人が喜ぶ顔見るのは楽しいもんじゃけ。そうすりゃあ、金は後からついてくる。客を大事にせん商売は滅びる」

「追い詰められたとき、ひとが変わる。自分を守るために嘘も吐く。あんただって、プレッシャーに負けて不正を許容した。同じことなんじゃないのかよ。誰にだって、苦しい事情ってのは存在するんだよ。だけど、そんなのは不正の理由にならねえ」

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『七つの会議』池井戸潤・著 日本経済新聞出版社

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532171164

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◆目次◆

第一話 居眠り八角
第二話 ねじ六奮戦記
第三話 コトブキ退社
第四話 経理屋稼業
第五話 社内政治家
第六話 偽ライオン
第七話 御前会議
第八話 最終議案

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