【山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062180162
昔、国語の教科書で。1981年のノーベル化学賞受賞者、福井謙一氏の文章を読んだ記憶があります。
そこに書かれていたことの大半は忘れましたが、ただ一つ、鮮明に覚えているのは、「広く学ぶこと」という教訓です。
以来、数多くの偉人の本を読みましたが、ほぼ全員共通しているのは、この「広く学ぶこと」を実践していること。
そしてノーベル賞受賞者の偉業を振り返ってみた時、その多くが、「事実をありのままに受け止め」「例外を見過ごさなかった」がゆえに、偉大な発見を成し遂げているのに気づきました。
それはどうやら、2012年のノーベル生理学・医学賞受賞者、京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥氏にも言えるようです。
『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』は、ノーベル賞を受賞した、山中伸弥氏語り下ろしによる一冊。
医師を志しながらも、整形外科で挫折し、研究への道へ入った山中氏でしたが、本書には、そんな山中氏が、研究の面白さに目覚めるエピソードが出てきます。
大阪市立大学の薬理学教室で、直接の指導教官であった三浦克之氏の仮説を検証する実験でのことです。
薬剤が効かないどころか、はるかにひどい状態になってしまう。そんな時、山中氏はこんなふうに叫んだそうです。
「先生、大変なことが起こりました。先生の仮説はまちがっていましたが、すごいことが起こりました」
山中氏が実験結果を知らせに行った時、仮説を否定された三浦氏も一緒になって「それはすごい」と興奮してくれたそうですが、これが、山中氏が本格的に研究の道にのめり込むきっかけとなったそうです。
「iPS細胞ができるまで」の軌跡を語った内容ですが、そこには仕事や人生に生かせる教訓がいくつも見て取れます。
「成功するにはビジョンとハードワーク(VW)が必要」という教訓や、短期目標を達成しながら長期目標に迫っていく戦略、「分化の逆である初期化を目指す」という誰も立てないビジョン、一個ずつ取り除くことで検証する実験の考え方…。
なかでも興味深かったのは、「設計図としおり」のお話でした。
従来、生物学会では、<完全なコピーを持っているのは精子や卵子といった生殖細胞のみで、それ以外の細胞(体細胞)は、それぞれの細胞に必要な設計図のページしか持っていない>というドイツの動物学者アウグスト・ワイスマン博士の説を支持していました。
しかし、ジョン・ガードン、イアン・ウィルマット両氏の研究の結果、<腸の細胞であれ、乳腺の細胞であれ、体中のどんな細胞であっても、それぞれがほぼ完全な設計図を持っていることが明らかにな>ったのです。
細胞の違いは設計図に挟まれた「しおり」の違いであり、設計図自体は全細胞に渡されている。
これをマネジメントに例えると、じつに面白い教訓が得られそうです。
つまり、部下にビジョンや設計図を渡さず、手足に徹するよう言った場合、組織に何か欠落があっただけで大ダメージになってしまう。しかし、全体像を見せておけば、仮に人が辞めても、病気になっても、全体でカバーできる。
不確実な時代のマネジメントのヒントを、細胞に教えてもらった気がします。
このように、iPS細胞の話を超えて、人生訓、仕事のヒントとしても読める一冊。
ぜひ、チェックしてみてください。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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マラソンは頭のスポーツだと本当に思いましたね。速く走りたいという自分の気持ちをおさえて、まわりに惑わされずに走る。それがいかに大事か、年を取ってわかった気がします
研究は多くの人がタスキをつなぐ駅伝のようなものです。マラソンのようにペース配分が大事だと考えています(中略)誰か一人だけが早くてもダメです。全員がバテずに最後まで走りつづけるのが、ぼくたちの使命です
次第に自分は整形外科医に向いていないんじゃないか、一人前の臨床医になれないんじゃないかと悩むようになりました。しかし、ここで壁にぶつかったことが、研究者という新しい道につながったのです
◆人生初の薬理学の実験で学んだ教訓
1.科学は驚きに満ちている
2.新薬、新治療法を、準備なしにいきなり患者さんに使用することは絶対にしてはならない
3.先生のいうことをあまり信じてはならない
◆研究者として成功する秘訣「VW」
・VWのVは、VisionのV
・VWのWは、Work hardのW
分化の逆である初期化を目指すというビジョンを立てたのは、はじめから負けることがわかっている勝負はしたくなかったからでもあります
設計図は同じでも、そこに挟まっているしおりにちがいがあるから、さまざまに分化した細胞になる。細胞の運命を決めるのは設計図ではなく、設計図に挟まれたしおりなのです
「そんなに考えないで、一個ずつ除いていったらええんやないですか」これを聞いたとき、「ほんまはこいつ賢いんちゃうか」と思いました。二四個から一番目の遺伝子を抜いて二三個を入れる、次に二番目の遺伝子を抜いた二三個を入れるという具合に、一個ずつ抜いていきます。もし本当に重要な遺伝子なら一個欠けても初期化できなくなってしまう。まさにコロンブスの卵のような発想でした
臨床医としてはほとんど役に立たなかったけれど、医師になったからには、最期は人の役に立って死にたいと思っています。父にもう一度会う前に、是非、iPS細胞の医学応用を実現させたいのです
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『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』山中伸弥、緑慎也・聞き手 講談社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062180162
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◆目次◆
第1部 「iPS細胞ができるまで」と「iPS細胞にできること」
第2部 インタビュー
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