2010年1月10日

『5人の落語家が語るザ・前座修業』稲田和浩、守田梢路・著 vol.2001

【一流になるための下積みとは?】
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2000号を達成した翌日ということで、初心に帰るために、落語家たちの前座修業時代の話を読んでみました。

本書に登場するのは、柳家小三治、三遊亭円丈、林家正蔵、春風亭昇太、立川志らくの5人。

この5人が、修業時代の思い出や、師匠から受けた薫陶、いかにして芸の道を極めたか、エピソードを語る、じつに興味深い一冊です。

三遊亭円丈をして、「人間じゃないんだから、前座って立場は」と言わしめる過酷な前座修業時代。

読んでみると、確かにこれは並みの苦労ではありません。

土井も仕事がら、職人気質のところがあり、部下にはかなり理不尽なことを言っている自覚がありますが、この5人の師匠は、理不尽さが半端じゃありません。

門を拭くのになぜか空拭き、真冬に冷たい水で雑巾をゆすぐ、干した肌襦袢が後ろになっていると頭をひっぱたかれる、挙句の果てに、帰ってもいいぞと言われて帰ったら、「帰ってもいいということは、いてもいいということだ!バカヤロウ!」となじられる。

いまどきの若い人なら、とても受け入れられないような世界が広がっていますが、そこから彼らが得た教訓、心構えがすごい。

<「きれいになるなら足で拭いても同じことだ」ということを認めたら、そういう生き方しかできなくなってしまう><好きに生きるためには、自分を殺す時代があっていい><人は個を超えたなにかをもたなくてはいけない>

一流と呼ばれる人間が、なぜ他人のたどり着けない境地にたどり着けるのか、その秘密がまさに「修業」にあるのだと、実感させられ
る一冊です。

そして、何よりも感動したのは、彼ら5人の師匠に対する愛。

この愛こそが、彼らを一流たらしめた。そのことが実感できる、素晴らしいインタビュー集です。

「弟子入りって、職業の選択ではなく、人生の選択です。だから、惚れた師匠のところへ入門するべきだと思うのです」

この立川志らくの言葉を、すべての若いビジネスマンに贈りたい。

今日は、ひさびさに落語を聴きに行きたくなりました。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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【柳家小三治】
修業の根本は、手を使い、心をこめることだ

あるとき、肌襦袢を干していて、いきなりおかみさんに頭をひっぱたかれた。「おまえの肌襦袢をよく見ろ!世間にケツを向けてるじゃないか!」(中略)落語だって同じです。登場人物が会話するとき、この人物が相手に襟を向けて喋っているのか、背中越しに喋っているのか。そりゃあ、当然会話の言葉は違うだろうけど、その人物の了見、心が違っていることを知ったうえで噺ができる。この違いを私は修業から学んだ

「きれいになるなら足で拭いても同じことだ」ということを認めたら、そういう生き方しかできなくなってしまう。つまり、そういう噺しかできないということだ。小さんはよく「人間は正直でないと、いい噺はできない」といっていた。「ずるいやつには、ずるい噺しかできない」と

【三遊亭円丈】
好きに生きるためには、自分を殺す時代があっていい

噺家に弟子入りするときに、その師匠の芸に惚れるということはよくないことだと思ってる。なぜなら、惚れてしまうとその師匠を超えられないからだ

師匠は、よく「芸は砂の山だ」といっていました。「当人は上がっているつもりで一歩ずつ歩いていても、じつは足元から崩れていっているから、実際は少しも上がっていっちゃいない」のだと

人は個を超えたなにかをもたなくてはいけない

【林家正蔵】
どんなに叱られようと、「噺家を辞めたい」なんて思ったこと、これまでに一度もないです。好きな落語ができて、寄席にいられる。好きな先輩がたと好きな落語のある場所にいられる。辞めようなんて思いません。僕、落語が好きで好きで仕方がないんですよ

【春風亭昇太】
未熟であってもプロはプロ。どんな言い訳もそこにはない

僕は決めたんです。「勉強させていただきます」という言葉を絶対にいわないということを

「好きなものを食べろ」といわれても、僕は一回も師匠より高いものは食べたことはなかった

師匠が「茄子が……」とたったひとこと言葉を発しただけで、お腹を抱えるほどおかしかった。「落語を超越したおかしさをこの師匠はもっている」と思いました。これは、技術を超えたすごいことだと思ったのです

ズルさとラクさを求めてはいけない

【立川志らく】
弟子入りって、職業の選択ではなく、人生の選択です。だから、惚れた師匠のところへ入門するべきだと思うのです。だから、師匠の定義は「価値観の共有ができるかどうか」なのだと、私は談志に教わったのです。修業時代って、まるごと師匠に帰依し、まるごと師匠から学ぶ貴重な時代なんですよ

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『5人の落語家が語るザ・前座修業』NHK出版 稲田和浩、守田梢路・著
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◆目次◆
I部 密着前座の仕事?「浅草演芸ホール」での一日?
II部 5人の落語家が語る私の前座修業

柳家小三治
「修業の根本は、手を使い、心をこめることだ」
三遊亭円丈
「好きに生きるためには、自分を殺す時代があっていい」
林家正蔵
「喜んで身体を使って働くことは、前座時代だけではない人生の基本だ」
春風亭昇太
「未熟であってもプロはプロ。どんな言い訳もそこにはない」
立川志らく
「気を遣ってうまく立ち振る舞え。言葉を読み込み、感性とセンスを磨け」

3部 「落語」を楽しむためのミニガイダンス
?落語・落語家・修業のいろいろ?

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