【「黒い白鳥」より愛を込めて】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478001251
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478008884
以前、アマゾンでバイヤーをしていた頃、ある本の仕入れ数が足りず、緊急で商品を手配することになりました。
出版社さんに素早く電話を入れ、かなりの数を確保したのですが、その時、上司に褒められ、凍りつきました。
在庫がなくて慌てるのは2流のバイヤー。最初に適正数仕入れて、その後もきちんと手当てしていれば、動きが目立つことはない。
でも、上司の目からは、失敗して慌てて手配している自分の方がいい仕事をしているように見えるのです。
このように、人間の認識なんていうものは、じつに当てにならないものなのです。
思えば、バイヤー時代は、いかにして不確実性に対処するかが仕事でした。
テレビのコメンテーターがたまたました発言がもとで売れ始める本、著者の不慮の死によって在庫切れを起こす本…。
こういった不確実性に一体どうやって対処するか。そういう意味では、株式トレーダーと同じ悩みに直面する仕事でした。
これまでたくさんの株本を読んできましたが、プロが言う必勝法などは、正直、じつに当てにならないものです。
予想は当たらないし、ポジショントークだし、後づけの論理だし、挙句の果てに間違っていたことも取り繕ったりします。
大切なのは、必勝法ではなく、われわれを取り巻く現実を正しくとらえ、不確実性に対処できる心と頭を鍛えること。
そのためにおすすめなのが、本日の一冊なのです。
はやいもので、本日でBBMは1800号。
いつも記念号はどのタイトルにするか悩むのですが、今回は悩むことなくこれ。全米150万部ベストセラー、ニコラス・タレブによる『ブラック・スワン(上)(下)』です。
ここで言う「ブラック・スワン」とは、黒い白鳥と同じで、私たち人間が「あり得ない」と思い込んでいるものの象徴。
タイタニック号の沈没や、9.11同時多発テロ、サブプライムローン問題同様、優秀とされている専門家やエリートにも予測できない、異常でかつインパクトがあるもの。しかも、起こった後には適当な説明をでっち上げて予測が可能だったと言われてしまうようなもののことを指しています。
著者は、全米を代表するビジネススクール、ウォートン・スクールでMBAを取得後、トレーダーとして、また不確実性科学の研究家として活躍する人物。
前回の『まぐれ』は、正直読みにくく、中身もそれほどではなかったのですが、今回の本は、エッセイ風ということもあって、じつに読みやすく、かつ示唆に富んだ内容になっています。
※参考:『まぐれ』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478001227/
どんなことにも因果関係を求めてしまう「追認の誤り」、もっともらしい説明や逸話で自分をごまかす「講釈の誤り」、いわゆる「ビギナーズ・ラック」やコインの裏・表が出る確率など、人間が勘違いしやすい事象や、それをもたらす原因をまとめ、解説しています。
上下巻2冊で、それなりのボリュームですが、あまりの知的刺激に、あっという間に読んでしまいます。
さすがは、全米各紙誌が絶賛する注目のベストセラー。
最近のビジネス書に物足りなさを感じていた方は、ぜひ読んでみてください。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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何千年にもわたって何百万羽も白い白鳥を観察してきた当たり前の話が、たった一つの観察結果で完全に覆されてしまった。そんなことを起こすのに必要なのは、黒い(それに、聞いたところだとかなり醜い)鳥がたった一羽、それだけだ
予防のために何かをして高く評価されることはあまりない
◆歴史に接した時の人間の3症状(=不透明の三つ子)
・わかったという幻想
・振り返ったときの歪み
・実際に起こったことに関する情報を過大評価する
分類をすれば、複雑さは必ず低下する。黒い白鳥が生まれるのはそういうところだ
もし私自身が誰かにアドバイスするとしたら、勧めるのは稼ぎが何倍にもなったりしない仕事のほうだ! 稼ぎが何倍にもなるような仕事は、うまく行けばたしかに素晴らしい。でも、そういう仕事は競争が激しく、格差は大きく広がり、まぐれにものすごく振り回され、努力と成果はなかなか結びつかず、一握りの人がパイの大部分をぶんどって、残るみんなは、何を間違ったわけでもないのに、手元にはほとんどなんにも残らない
母乳にはいいところがあるという証拠がないのを、母乳にはいいところなんてないという証拠があるのと取り違えている(中略)この安易な推測の代償を払った人は多い。赤ん坊のときに母乳で育たなかった人たちは、いろいろな健康問題に悩むリスクが高い
人はテロ保険に(他の原因に加えてテロも対象の)普通の保険より高い保険料を払う可能性が高い
死人の数のなんたるかをわかっていたスターリンは、「人が一人死ねば悲劇だが、一〇〇万人死ねば統計に過ぎない」と言ったといわれている。統計の声は私たちの耳に届かない
この世にはめったに勝てないけれど勝つときは大勝ちする一方、頻繁に負けるけれど負けは小さい、そんな賭けがある。もし、ほかの連中がそういう賭けに弱く、さらに自分には性格の点でも頭の点でもスタミナがあるなら、そういう賭けはする価値がある
ウォーレン・バフェットの言葉を借りると、床屋に髪を切ったほうがいいと思いますかなんて聞いてはいけない
果ての国では誰も安心できない
知性の面で、ほんの一握りの人たちが大きな影響を及ぼすというのは、富の分布がとても偏っていることよりずっと不安な話だ
二人の作家が合わせて一〇〇万部の本を売ったとすると、一番可能性の高い組み合わせは、一人が九九万三〇〇〇部、もう一人が七〇〇〇部だ
統計的に有意という言葉を見たら、確実だという幻想に陥らないように注意しよう
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『ブラック・スワン(上)(下)』ダイヤモンド社 ナシーム・ニコラス・タレブ・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478001251
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478008884
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◆目次◆
【上巻】
第一部 現状
第1章 鳥も飛ばない場所
第2章 エネルギー気候紀元第一日、天候はホット、フラット、クラウデッド
第二部 現状への道のり
第3章 私たちのコピー(アメリカ人が多すぎる)――エネルギーと資源の供給と需要
第4章 独裁者を満タン――石油政治
第5章 地球惑乱――気候変動
第6章 ノアの時代――生物の多様性
第7章 エネルギー貧困
第8章 グリーンこそがアメリカの新しい旗印
第三部 前進の道すじ
第9章 地球を救う二〇五の簡単な方法
【下巻】
第三部 前進の道すじ(承前)
第10章 エネルギー・インターネット:ITがETと出会うとき
第11章 石器時代が終わったのは、石がなくなったからではない
第12章 おもしろみがあったらグリーンではない
第13章 一〇〇万人のノア、一〇〇万隻の方舟
第14章 対アルカイダ・グリーン奇略(もしくは、一つ買えばおまけが四つ)
第四部 中国
第15章 赤い中国はグリーンな中国になれるか?
第五部 アメリカ
第16章 一日だけ中国になる(でも二日はだめ)
第17章 民主的な中国か、それともバナナ共和国か?
謝 辞
索 引
訳者あとがき
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