2007年12月27日

『演出家の仕事』

【カリスマ演出家が語る表現の本質】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4004311055

本日の一冊は、1980年、『ゴドーを待ちながら』で演出家デビュー、『GHETTO/ゲットー』で読売演劇大賞最優秀演出賞を受賞、2007年8月まで新国立劇場の演劇部門芸術監督を務めた稀代の演出家、栗山民也さんが、その仕事の本質を語った一冊。

演劇に興味がある、ないにかかわらず、いち仕事人として、また表現者として、学ぶべきところの多い一冊です。

冒頭で著者は、演出に関し、こんなことを語っています。

「『演出に必要なものは何か』と聞かれたら、私は、『何を見て、何
を聞くのか』と答えるでしょう」

これだけだと何のことがわからないと思うので引用を続けると、

「大きな声は、いつの時代にも圧倒的な力で他を制してきました。
このような声は、嫌でも聞こえてくるのですが、忘れられ捨てられ
ていくような小さな声を、掬い取るつもりで耳を傾けてみることが
大事です」

土井はここを読んで、最初、頭をガツンと殴られたような気がしま
したが、まさにわれわれは仕事や表現に関し、小さな声を拾うのを
怠っています。

だからこそ作品が一般の声から遠ざかり、共感してもらえない、売
れないという事態に陥る。

本書を読むと、著者がそういった事態に陥らないためにどれほど努
力を重ねているかがよくわかります。

ほかにも、戯作家の言葉を信じる、嘘の言葉を排除するなど、著者
の演劇に対する鬼気迫るほどの情熱がビンビン伝わってきます。

何らかの形で表現に携わっている方、仕事人としての心構えを学ぼ
うとする方は、ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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話すことよりも、まず人の声を聞くことです。大きな声は、いつの
時代にも圧倒的な力で他を制してきました。このような声は、嫌で
も聞こえてくるのですが、忘れられ捨てられていくような小さな声
を、掬い取るつもりで耳を傾けてみることが大事です

ものを聞くことは、音と音の隙間から、何を聞き取るのかということ

はじめからことを決めてかからずに、その場で起こったことに集中
することです。必然よりも偶然に生まれることを、稽古場ではより
優先する必要があるのです

アンサンブルとは、調和した声の集合でも、人物たちの行動線がう
まくなめらかに流れていくことでもありません。それぞれ違った歴
史を背負い、それぞれ違った状況にある人物たちが、その場でぶつ
かり引き裂かれた瞬間に起こる、外側へ限りなく放射する力の集合、
それこそ演劇のアンサンブル

ドラマが進むうちにいつのまにか、作者の名前が消え、演出家の名
前が消え、俳優の名前までが消え、その劇中の登場人物だけが観客
の前に生きて存在している、こういう状態が生まれることが大事

「芝居は一人じゃできやしない」そして、「優れた芸術は、皆、人
間への讃歌」この二つは、このときの舞台劇『キネマの天地』のな
かのせりふです。私は、戯作家の言葉を信じることから仕事をはじめます

自分のせりふをしゃべることを優先するよりも、相手役のせりふを
聞くことで自分の感情が動かされ、自分のなかから言葉が生まれ出
てくることを徹底すべき

せりふは人間の言葉でなければなりません。つくられたり、飾られ
た言葉や声は、嘘なのです。「どう美しく響かせようか、どうキレ
イに発声しようか」と思った瞬間から、人間の声ではなくなってしまいます

◆井上ひさしの戯曲を演出していて気づいたこと
言葉を意味だけではなく、温度や肌触りのある響きとして使っている

人が集まってきてそこで何かが起こるとき、そこは劇場になる

俳優としての基本的な技術だけを身につけても、それだけではまだ
俳優ではありません。自分自身の表現のための確かな演技力と同時
に、人間への観察と洞察を続け、世界への理解を深めていかなけれ
ば「俳優」にはなれないのです

「努力は才能を超えるのか」という問いに対して、「素質の発見」
が必要だと答えます

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『演出家の仕事』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4004311055
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┃▼目次▼

┃ はじめに
┃ 第1章 「聞く」力
┃ 第2章 戯曲を読む
┃ 第3章 稽古場から
┃ 第4章 「時代と記憶」に向き合う
┃ 第5章 世界の演劇人と出会う
┃ 第6章 俳優とはなんだろう
┃ 第7章 演出家になるまで
┃ おわりに

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